シリアで黙認され続けるイスラエル、トルコ、ロシア、アメリカの国際法違反:黙殺と無関心が支える二重基準
黙殺すること、報じないこと。そして、関心を示さないこと、これらが国際政治における二重基準を支えている。
シリアでは、5月13日から14日にかけて、さまざまな国際法違反が行われた。だが、ロシアのウクライナ侵攻とは対照的に、欧米諸国や日本の政府、メディア、そして市民がそれらに着目することはほとんどなかった。
イスラエル軍機によるミサイル攻撃
国営のシリア・アラブ通信(SANA)は13日、シリア軍筋の話として、イスラエル軍戦闘機が同日午後8時20分頃、タルトゥース県バーニヤース市沖の地中海上空からシリア中部各所にミサイル多数を発射したと伝えた。SANAによると、シリア軍防空部隊がこれに対して迎撃を行い、ほとんどのミサイルを撃破したが、一部が着弾し、民間人1人を含む5人が死亡、女児1人を含む7人が負傷、若干の物的被害が出た。
イスラエルによるシリアへの侵犯行為は11日に続くもの。2022年になって、21回の爆撃、ミサイル攻撃、越境攻撃を行っている。
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英国を拠点に活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、イスラエル軍戦闘機が発射したミサイルは8発。攻撃は、タルトゥース県ミスヤーフ市西のワーディー・ウユーン村に至る街道沿線、同市南東のスワイダ村一帯に設置されている「イランの民兵」の拠点、武器弾薬庫に対して行われ、シリア軍防空部隊兵士4人を含む軍人7人、女児1人を含む民間人6人が死亡したという。
「イランの民兵」とは、イスラーム教シーア派(12イマーム派)宗徒とその居住地や聖地を防衛するとして、イランの支援を受けてシリアに集結し、シリア・ロシア両軍と共闘する外国人(非シリア人)民兵の総称。イラン・イスラーム革命防衛隊、その精鋭部隊であるゴドス軍団、レバノンのヒズブッラー、イラクの人民動員隊、アフガニスタン人民兵組織のファーティミーユーン旅団、パキスタン人民兵組織のザイナビーユーン旅団などがこれに含まれる。
兵站物資の搬入を続ける米国、抗うシリア
一方、シリア北東部のハサカ県では13日、兵站物資を積んだ米軍の貨物車輌70輌が3回に分けて、イラクからワリード国境通行所を経由してシリア領内に侵入し、シリア北部および東部に違法に設置されている米軍基地に向かった。
米国は、イスラーム国に対する「テロとの戦い」を口実に、2014年8月に有志連合を率いてシリア領内での爆撃を開始、2015年末頃からユーフラテス川東岸地帯(いわゆるジャズィーラ地方各所)や、ヨルダン、イラク国境に近いタンフ国境通行所一帯地域(いわゆる55キロ地帯)に部隊を駐留させている。
シリアでのイスラーム国に対する「テロとの戦い」、そして部隊駐留は、国連安保理決議に基づいておらず、またシリア政府を含む同国のいかなる政治主体の要請にも基づいていないため国際法違反にあたる。
シリア領内の米軍基地は27カ所(ハサカ県15カ所、ダイル・ザウル県9カ所、ラッカ県1カ所、ヒムス県2カ所)あるとされ、600人とも3,000人とも言われる将兵が駐留している。
圧倒的な軍事力を有する米国に対して、シリア政府が抗う術もない。だが、ハサカ県では、シリア領内を闊歩する米軍のパトロール部隊に立ち向かおうとうする住民、親政権民兵、そしてシリア軍部隊の抵抗がほぼ連日行われている。
SANAやシリア人権監視団によると、13日にも、カーミシュリー市近郊のサーリヒーヤト・ハラブ村、ムシャイリファ村、タッル・ザハブ村の住民が、シリア軍検問所の支援を受けて、村を通過しようとした米軍の装甲車5輌からなる車列の進行を阻止し、これを退却させた。
シリアのアル=カーイダと連携するTFSA、そしてトルコ
シリア北西部に目を転じると、アレッポ県西部のアンジャーラ村近郊で13日午前、シリア軍の宿泊用バスが襲撃を受け、兵士10人が死亡、9人が負傷した。
反体制系サイトのドゥラル・シャーミーヤによると、襲撃を行ったのは、「決戦」作戦司令室に所属する武装グループ。「決戦」作戦司令室は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)とトルコの庇護を受けるシリア国民軍(Turkish-backed Free Syrian Army)に所属する国民解放戦線などからなる武装連合体。
またアレッポ県北部では、シリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるマンビジュ市周辺の村々、タッル・リフアト市周辺の村々に対して、シリア国民軍が13日と14日、トルコ軍とともに激しい砲撃を行った。
北・東シリア自治局とは、トルコが「分離主義テロリスト」とみなすクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体。米国から全面支援を受け、シリア北東部の広範な地域を実効支配下に置いている。
さらに、SANAやシリア人権監視団によると、シリア国民軍は13日、アレッポ市の北西に位置するヌッブル市、ザフラー町を砲撃し、子供1人が死亡、1人が負傷した。
ヌッブル市、ザフラー町はいずれもイスラーム教シーア派(12イマーム派)の信徒が多く暮らしている。
ロシアとトルコによる攻撃の応酬
PYDに近いハーワール・ニュース(ANHA)によると、ヌッブル市、ザフラー町への砲撃を受けて、ロシア軍戦闘機は対抗措置として、トルコ占領下のアフリーン市近郊のカフルジャンナ村にあるシリア国民軍所属のスルターン・ムラード師団の拠点複数カ所に対して爆撃を行った。
ロシア軍がトルコの占領地に対して爆撃を行うのは異例である。
ロシア軍はまた、14日にも、アレッポ県西部にある第111中隊基地一帯に対して4回の爆撃を実施した。
これに対して、トルコは14日、シリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるハサカ県タッル・タムル町北のロシア軍基地一帯を砲撃し、対抗した。
なお、ロシアは、シリア中部のヒムス県、ラッカ県、ダイル・ザウル県の砂漠地帯でほぼ連日、イスラーム国の拠点を狙って爆撃を実施している。13日にも20回あまり、14日には16回の爆撃を実施している。
また、シリア軍も、ヌッブル市とザフラー町に展開する部隊が、アレッポ県シャイフ・スライマーン村、ダーラ・イッザ市一帯に設置されているトルコ軍とシリア国民軍の拠点複数カ所を砲撃した。シリア人権監視団によると、シャイフ・スライマーン村一帯に対するシリア軍の砲撃で、トルコ軍兵士2人が負傷した。
欧米諸国や日本の政府、メディアがウクライナでのロシア軍の戦争犯罪や人道に対する罪を指弾し、批判的に報じるのとは対照的に、シリアでは、すべての外国が多かれ少なかれ国際法違反を犯している。そうした行為を互いに黙殺し合い、関心の外に追いやる二重基準によって、シリアでは暴力の再生産が続いているのである。