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信念が生んだ逆転弾。INACに2014年以来の勝利を飾った浦和(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
中盤でゲームをコントロールした猶本光(写真:アフロスポーツ)

7月8日(土)に行われたなでしこリーグカップ第7節、浦和レッズレディース(以下:浦和)とINAC神戸レオネッサ(以下:INAC)の一戦は、浦和が1点差の攻防を制して勝利し、準決勝進出を決めた。浦和がINACに勝ったのは、2014年のリーグ開幕戦(3月30日、浦和 3-2 INAC)以来、約3年ぶりである。

キックオフの午後5時を回っても、浦和駒場スタジアムの気温は34℃を示し、じっと座っているだけでも肌に汗がにじむような暑さだった。

立ち上がりから試合の主導権を握ったのは、ホームの浦和だ。

【先制点を呼び込んだ、浦和のタイトなプレッシャー】

浦和に流れを引き寄せたのは、連動したプレッシングと、ボールへの素早いアプローチだ。 特に、ポイントになったのが中盤だ。

INACは、中央で様々な選手がポジションを入れ替えながらボールを流動的に動かして相手ゴールを目指す。この試合では攻撃の起点となるボランチのMF中島依美が中央よりも左寄りにポジションを取っていたため、浦和はトップのFW安藤梢と、右サイドのMF柴田華絵、そしてボランチのMF猶本光の3人が、INACの左サイドにボールが入った瞬間に素早く、同時にプレッシャーをかけた。さらに、サイドや前方にボールが流れると、周囲も呼応して素早く奪い切ることを徹底。ボールを奪うと、前線の安藤とFW菅澤優衣香の2トップを狙い、スピーディーな攻撃でゴールに迫った。

これに対し、INACはパススピードを上げ、ダイレクトパスも織り交ぜながらビルドアップを図ったが、パスミスが多く、特に立ち上がりの30分は、浦和のペナルティエリアまでボールを運べない状況が続いた。しかし、浦和も2トップへのロングパスの精度が低く、決定的なシュートまでは持ち込めない。

そんな中で生まれた先制点は、INACのFW増矢理花の個の力が光ったゴールだった。

前半31分、ペナルティーアークの手前で中島からボールを受けたFW大野忍が、前方でゴールエリア右に向かって斜めに走った増矢にスルーパス。ファーストタッチでボールをゴール正面に大きく蹴り出した増矢は、自身を挟んでいた浦和のセンターバック2人を振り切ると、同時に飛び出してきたGK平尾知佳よりも一歩早くボールに追いつき、ゴール右隅に決めた。

この先制点で流れを引き寄せたINACは、その後、徐々に浦和陣内でボールを動かす時間が増えていった。しかし、再び決定的なチャンスを作るまでには至らない。

34分に、左サイドのタッチライン際で、大野がDF鮫島彩に落としたボールを、鮫島が右サイドから左に流れてきたMF杉田妃和にダイレクトで当てた場面は、INACらしい攻撃の連動性が見られた数少ないシーンだ。しかし、その攻撃もフィニッシュまでは持ち込めなかった。

一方、辛抱強くプレッシャーをかけ続けた浦和は43分、ついにワンチャンスを活かして同点に追いつく。

浦和は左サイドの自陣中央あたりで、センターバックのDF高畑志帆がインターセプトしたボールをMF塩越柚歩が拾い、すかさず菅澤にロングフィードを送った。

すると、ボールの軌道上でブロックしようとしたINACのMFチェ・イェスルのクリアが後方に逸れ、INACのオフサイドラインぎりぎりにいた浦和の菅澤が抜け出す形に。菅澤は、自分の右側を並走するINACのDF守屋都弥をドリブルで振り切ると、そのままペナルティエリアに進入し、飛び出してきたGK武仲麗依の頭上をふわりと越えるループシュート。浦和が同点に追いついた。

【勝負を分けた2点目】

前半、攻撃面でほとんど良い形を作れなかったINACは、ハーフタイムに2人を交代。右サイドの杉田妃和のポジションにボランチの中島をスライドさせ、ボランチにMF福田ゆいを投入。左サイドハーフのMF伊藤美紀に代えて、MF京川舞を送り出した。

松田岳夫監督はこの交代について「個で打開できる選手、ボールを受けたら前を向ける選手を入れて、チームの攻撃を機能させるための交代でした」(松田監督/INAC)と振り返る。

一方、浦和の石原孝尚監督は、後半、トップの安藤に代えてFW白木星(しらき・あかり)を投入。

すると、

「まずは守備で、がむしゃらに相手にプレスをかけていこうと思っていた」(白木/浦和) という白木が、言葉通りの積極的な守備で、浦和に再び流れを引き寄せた。

51分には、INACのGK武仲から左サイドに開いたDF三宅史織にボールが出た瞬間に、白木が素早く寄せてコースを限定し、MF筏井りさのインターセプトにつなげた。

そして、50分と51分には、浦和の塩越がカウンターの起点になり、ドリブルで自らフィニッシュまで持ち込んだ。

このリズムが、後半、浦和の早い時間帯の2点目につながった。

58分、INACのGK武仲からのスローイングを中島がペナルティエリア手前で受けて前を向いた瞬間、浦和の左サイドバック、DF北川ひかるが中島の前に立ちはだかった。この場面、北川は機敏なステップで、1人で中島からボールを奪い切ろうとしている。

さらに、白木が中島の背後から挟み込んでコースを限定すると、中島はたまらず、INACのゴール前にいた三宅にパス。三宅は左に開いた守屋にパスを出したが、守屋がトラップする瞬間を狙っていたのは、浦和の猶本だった。

「あそこにパスを出すな、と思いましたし、相手がトラップしている間に寄せられる自信がありました。グラウンドがスリッピーだったこともあって、意表をついて(ボールを)奪えたと思います」(猶本/浦和)

その瞬間、猶本はINAC陣内中央からゴール前に飛び出してボールを奪うと、すかさず、絶妙のヒールキックで後方の白木にパス。白木が長い右足を振り抜くと、シュートはゴール右隅に決まった。

残り30分で、ついに浦和がリードを奪った。

逆転され、再び攻撃のスイッチが入ったかに見えたINACだったが、浦和もリードしてからは無理してラインを上げず、カウンターとセットプレーから3点目を狙いに行った。

結局、INACは最後まで浦和の赤いブロックを攻略することはできず、試合はこのまま、2-1で浦和が勝利。

第7節を終えて、勝ち点を「14」に伸ばした浦和は、同「13」のINACに代わってBグループの首位に立った。

【積み重ねた自信】

浦和が狙い通りの守備でINACのパスワークを封じ、決めるべき選手が2ゴールを決めたことを考えれば、浦和は徹底した準備で、勝つべくして勝ったとも言える。

守備面だけではなく、セカンドボールへの意識の高さも顕著だった。

浦和は2トップを活かして縦に速い攻撃を狙っていたこともあり、縦パスを跳ね返される場面は多かったが、常に浦和のロングフィードのミスを予測して高いポジションを取り、セカンドボールを狙っていた。そのため、ボールを持っていない時でも、試合を優勢に進めているように見えた。

1対1の球際で競り勝つ場面が多かったことについて、石原監督は、

「週の初めに取り組んでいる体幹トレーニングの成果と、フィットネスを上げる取り組みが徐々に形になってきている」(石原監督/浦和)

と、トレーニングの手応えを口にした。

攻守において存在感が際立ったのが、ボランチの猶本だ。

攻撃面では、攻防が激しい中盤でボールを失う回数が少なく、前線へパスを供給し続けた。

また、確信を持って飛び出し、逆転ゴールを演出した2点目のアシストは、勝敗を分けたプレーだった。

それでも、猶本はチームの守備について

「まだ相手に寄せられる部分とか、もっと厳しく行った方がいい部分はありました」(猶本/浦和)

と、納得した様子は見せず、気を引き締めていた。

浦和は次節、勝ち点4でグループB4位のマイナビベガルタ仙台レディースと対戦する。浦和は今週末に試合はなく、7月22日(土)に、アウェイのユアテックスタジアム仙台に乗り込むことになる。

INAC戦に続き、今シーズン、まだ一度も勝っていない仙台にも勝利することができるか。次の試合はグループリーグの予選最終節となる。

【敵は己にあり】

INACにとって深刻だったことは、ミスから献上した2つのゴールではなく、浦和のプレッシャーになす術なく、持ち前のパス回しとハードワークが影を潜めてしまったことだ。劣勢の中で1点目を決めた増矢のように、プレッシャーの中で前を向いて仕掛ける勇気や力強さを、チーム全体としては見せられなかった。

プレッシャーに苦しみながらも、積極的に味方のサポートに回った中島は、次のように自らを戒めた。

「点を決められて、下を向いている選手が多かったですね。(私は)もっと、試合の空気を締めなければいけない立場ですし、プレーも物足りなかったと反省しています」(中島/INAC)

松田監督は、試合後、

「前半のゲームがうちの力だということを認めないと先に進めないと思います」(松田監督/INAC)

と、厳しい表情を見せた。

松田監督の試合に対する分析は、勝った試合でも負けた試合でも「選手、チームが持っている力を出し切れたか」という点にポイントが置かれる。

練習で好パフォーマンスを見せた選手を先発に起用する方針は、松田監督がINACの指揮を執ることになった2年半前から変わっていない。ボランチのMF福田ゆいやチェ・イェスルら、入団1年目の若手選手が重要なポジションを任されるようになったのも、日々のトレーニングの、競争の結果である。ところが、トレーニングで良くても、試合になると実力を発揮できなくなってしまう選手がいる。

それは、若さゆえのメンタルの好不調も一因だ。

しかし、「トレーニングで見せてくれても試合で出せないのであれば、それは持っていないのと同じ」(松田監督)ということになる。

敵は己の中にあり。チームとしてその課題をどう克服し、乗り越えていくかが問われている。

INACは次節、勝ち点3でグループB最下位のちふれASエルフェン埼玉を7月15日(土)にホームのノエビアスタジアム神戸で迎え撃つ。

試合詳細

なでしこリーグカップBグループ(1部)結果・日程

なでしこリーグカップBグループ(1部)順位

(2)【監督・選手コメント】に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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