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【年度内六冠ロード】藤井聡太竜王、力強い受けで佐藤天彦九段を降し、棋王挑戦権獲得まであと1勝!

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月19日。東京・将棋会館において第48期棋王戦コナミグループ杯・挑戦者決定二番勝負第1局▲藤井聡太竜王(20歳)-△佐藤天彦九段(34歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 10時に始まった対局は19時10分に終局。結果は79手で藤井竜王の勝ちとなりました。

 敗者復活から勝ち上がった藤井竜王が勝利を収め、12月27日に第2局がおこなわれます。その勝者が渡辺明棋王(38歳)への挑戦権を獲得することとなりました。

 藤井竜王は年度内に六冠に達する可能性を残しました。

 藤井竜王の今年度成績は31勝7敗(勝率0.816)となりました。

 藤井竜王と佐藤九段の対戦成績はこれで藤井4勝、佐藤1勝。第2局の前にはA級順位戦でも対戦します。

藤井竜王、中盤のねじり合いを制して優勢に

 振り駒の結果、先手は藤井竜王。後手の佐藤九段が横歩取りに誘導したのに対して、藤井竜王はいつも通り、相手の注文を堂々と受けて立ちます。

藤井「こちらがなんとか局面を収められるかどうかという感じの展開だったと思うんですけど。うまく動かれてしまってあまり自信の持てない局面が多かったような気がします」

 藤井竜王の飛車が中段五段目に浮いているのに対して、36手目、佐藤九段は46分考えて、その裏側に歩を打ちます。なんとも玄妙な一手。対して藤井竜王は1時間22分の長考に沈みました。

藤井「△2六歩と打たれるのに気づいていなくて。次に△8八角成から△3三桂(2五の飛車取り)で▲2六飛車△4四角と打たれると厳しいので。(△2六歩を)打たれてみると思わしい対応がわからなくて」

 37手目、藤井竜王はじっと角筋を止めます。なんとも力のこもった攻防でした。

藤井「本譜ではあまり自信がないのかなと思ってやっていました」

 一手誤ればたちまちバランスが崩れそうなところで、形勢はほぼ互角のまま推移していきます。

 佐藤九段が打った歩の効果で、藤井竜王の飛車は狭いスペースに囲まれた状態で、うっかりすると取られてしまいそうです。しかし藤井竜王はその形をおそれず、飛車のそばに強く攻めの銀を進めて、いつしか優位を築きました。

佐藤「先に攻勢をかけたのはこちらだったんですけれども。▲6六歩と突かれたところのあたりから、本当はもう少し攻めを継続していかなければいけないような気もするんですけど。ちょっとその具体案がわからなくて。ちょっと本譜は一回(8六に)出た飛車をまた(8四に)引かされて、逆に守勢に陥ったので。それで難しいところもあればというところもあったんですけど。結果的には押し切られてしまったかなあ、という気もするので。そうですね。▲6六歩に対して攻勢を継続する手段が取れなかったのが形勢悪化につながっていったかな、という感じは、ちょっと(終局直後の)いまのところですけど、しています」

藤井玉、相手陣に向かって進撃

 佐藤九段は藤井玉の背後に馬を作って迫ります。対して藤井竜王は正確な読みに基づいた力強い受けを連発。「中段玉寄せづらし」の格言通り、中段に逃げた玉が、なかなかつかまらない形です。

 71手目。佐藤九段は盤上中央、5五の地点で飛車を切り、香と刺し違えます。対して同馬と応じ、あとは味方の駒が多い右辺下段に逃げ出せば安全そうにも見えるところ、藤井竜王は強く同玉と取りました。

藤井「(▲5五)同玉はかなり不安定な形なのでちょっとどうなっているか、わからないところもあったんですけど。△5八馬(質駒の金を取って詰めろ)に▲5三桂不成が王手で入る(自玉への逃げ道を作りながら相手玉に王手できる)ので、なんとか、しのいでいてくれればというふうに考えていました」

 73手目、藤井玉はさらにもう一段進んで、佐藤陣に近づきます。最後はこの玉が攻めの基点になるという、なんとも力強い指し回しでした。

藤井「▲6四玉のあと▲6三歩(銀取り)と打って、上部に逃げ出す形が見えてきたのかなと思いました」

 79手目。藤井竜王はやはり自玉を基点として、金取りに歩を打ちます。攻防ともに見込みがないと判断した佐藤九段はここで投了し、終局となりました。

藤井「またしっかり集中して対局に臨めればと思います」

佐藤「今日はちょっと残念な結果にはなってしまったんですけれども。まあ、なんていうか・・・(小考)。まあ、ある意味、そうですね。藤井さんのような人と。もう一局指せるということで、はい(笑)。もちろん結果は求めていきたいんですけれども。そういうところもモチベーションにしながら、一生懸命戦っていけたらな、というふうに思います」

 第2局の先後はまた改めて、振り駒によって決められます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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