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タワマンは「将来、廃墟」でタダ同然に?建て替えもできない「危機」の真相

櫻井幸雄住宅評論家
タワマンは大きな日陰をつくり、眺望を遮る。周囲にはうっとうしい存在だ。筆者撮影

 タワマンという呼び名が定着しつつある超高層マンションに、ネガティブな報道が頻発している。

 修繕維持が困難になることからタワマンから逃げ出す住人が増える。タワマンを相続した人も権利を放棄して、関わりをもたない。結果、タダ同然でも引き取り手がなくなり、残された人はメンテナンスも建て替えもできず、廃墟同様の建物内に暮らすことになる……タワマンに住んでいる人にとっては、身の毛もよだつ予測もある。

 これら「タワマン・クライシス」と呼ぶべき報道には、根拠希薄なものや、そもそも的外れの予測に基づいているものがある。今広がっている「タワマン・クライシス」の中身、特にタワマンの将来価値について冷静に検証したい。

「タワマン・クライシス」の先行事例とされるのは、じつは特殊案件

 タワマンの価値は将来大きく下がる、という「先例」としてたびたび引き合いに出されるのが、上越エリアに建つリゾートのタワマン。現在、タダ同然の価格で売られることもあるからだ。

 じつは、上越エリアでタダ同然の中古タワマン住戸が出てくるのには独自のワケがある。しかし、そのことはなかなか報道されない。

 ワケとは、ほぼ100%管理費と修繕積立金の滞納があることだ。もともとの管理費設定が高いこともあり、滞納額は100万円以上が中心で、滞納額600万円以上という物件もある。中古マンションとして購入した人は、この滞納額を負担(基本的にキャッシュで払う)しなければならないので、滞納額が大きい物件はタダ同然でなければ買い手が付かないのである。

 リゾートのタワマンには、もうひとつ安く売られるワケがある。それは、「買いたい」という人が少ないことだ。

 東京への通勤はむずかしいので、東京に勤務する人のマイホーム利用は不可能。スキーブームが一段落した今、上越でリゾートライフを楽しみたいという人も限られる。だから、安くなってしまうのである。

 バブル期、上越エリアに建てられたタワマンには深刻な問題がある。それは事実なのだが、彼の地の状況をもとに、首都圏の通勤圏に建つタワマンの将来を危惧するのは乱暴な話といえる。

大都市のタワマンは資産価値が落ちにくいという事実

 首都圏や近畿圏など大都市部のタワマンは、都心部や郊外駅近に建設される。便利な場所であり、商業施設などとの複合再開発で生み出されるケースが多い。どんなに控えめにみても、リゾートのタワマンより利用価値は高い。

 都心部や郊外駅近の再開発エリアに建設されるタワマンには、「多くの人が住みたいと思う場所に、より多くの住戸を創出できる」という利点がある。そして、20階建て以上のタワマンであれば、10階建て程度のマンションよりも1戸あたりの分譲価格を安くできる。建設費は高くなるが、1戸当たりの土地代負担が小さくなり、その効果のほうが大きいからだ。

 つまり、タワマンには憧れの場所のマイホームをより多く、より安く提供できるという長所がある。

 憧れの場所に建つので、大都市部のタワマンには、新築時価格よりも大きく値上がりしているものが目立つ。値上がりしないにしても、値下がりもしていない。

 「通勤圏で、便利な立地」であれば、将来も、そこに住みたいという人は絶えないだろう。つまり、賃貸に出せば、高い家賃が得られ、中古としても売り出せば、希望価格で成立しやすい。

 この事実を無視し、値下がりし続ける上越のタワマンのようになる、というのは脅かしすぎだろう。同じ情報発信者として残念に思える点だ。

タワマンの短所とされるものは、マンション全体に当てはまるケースが多い

 じつは、「タワマン・クライシス」に限らず、分譲マンションのリスクを訴える報道には、雑な例出しが目立つ。

 個人大家が所有する賃貸マンションで、大家が失踪。放置されて荒れ果てたマンションを例に出し、「多くの分譲マンションがこうなる」というコメントを求められたことが、私にもある。当然ながら、「区分所有者によって管理される分譲マンションの問題とは異なる」という理由でお断りした。それは、「大家が賃貸経営に失敗すると、建物が荒れ果てる」という事例にすぎない。

 日本に分譲マンションが増え出した昭和40年代に建設され、管理組合もなく、大規模修繕も行わなかった結果、荒れ果てた中層マンションを例に出して、タワマンもこうなる、といわんばかりの説明に接したときは、これは倫理的にどうなのだろう、と考え込んでしまった。

 じつは、「管理組合もなく、大規模修繕を行っていない初期のマンション」は昭和後期から問題視され、「このようなマンションは、将来、大変なことになる」とテレビや新聞で報道されていた。その「大変な事態」が今、起きているわけだ。

 現在、「管理組合がなく、大規模修繕も行わない」という分譲マンションはない。状況があまりに違いすぎるし、タワマンと中層マンションを同列にとらえるのにも無理がある。

 マンション建て替えに際し、所在不明の所有者がいて、建て替えの同意を得られない、という問題をタワマンの不安として挙げるケースもある。

 が、これもタワマンに限らず、すべてのマンション建て替えで生じる問題だ。ちなみに、不動産会社など専門業者に委託して建て替えを行う場合、裁判所への申し立てや権利関係をどうするかなど、その対応策はすでに確立しており、粛々と実行されている。手が付けられない問題ではない。

外国人の所有が増えたことで、問題が生じやすいのは古い中層マンション

 近年都心部で増えている外国人所有の住戸では、管理費・修繕積立金の滞納が発生しやすく、所在不明になりやすい、という問題も指摘される。が、それもタワマンに限った話ではない。

 実際に外国人所有者が増えているのは、10〜15階建て程度で、築30年を超える古い中古マンションだ。タワマンは、1990年代の後半、平成10年代から一気に増えた。まだ若いし、長寿命の建物になっているのだが、築年数が30年を超える中古マンションは、それよりもずっと寿命が短い。

 外国人所有が増え、建て替えの支障になる、という問題を取り上げるなら、タワマンより都心の古い中層マンションにスポットを当てるべきだろう。

タワマンは、なぜやり玉にあがるのか

 タワマンも含め、すべての分譲マンションには、改善しなければならない点や懸念材料がある。それは、事実だが、一戸建てでは実現しにくい利点を生み出すのも、また事実。東日本大震災の後、仙台市内には分譲マンションを求める人が殺到し、空前のマンションブームが起きた。

 家を失った人たちが、一戸建てよりも地震に強い鉄筋コンクリート造のマンションを購入しようとしたからだ。

 長所もある居住形態なので、分譲マンションは短所を一つずつなくしていかなければならない。そのために、短所を挙げてゆく作業は必要だろう。

 「短所の洗い出し」を行うとき、分譲マンション全体の短所なのに、タワマンの短所ということになってしまいがち。それが、現在起きている「タワマン・クライシス」の実態ではないだろうか。

 といっても、タワマンにも独自の短所はある。

 背が高く巨大なタワマンは大きな日陰をつくり、周辺の日当たりをわるくし、眺望を遮ってしまう。「人の家を暗くして、自分は見晴らしのよいところでいい気なもんだ」との批判はタワマンならではのものだろう。

 タワマンは目立つ存在なので、見上げる人からすると、「いい気なもんだ」の気持ちがさらに大きくなる。だから、「タワマン・クライシス」報道が増えた、とするのは邪推の域をでない。が、異形のものが出現すると、おもしろがる人とともに、嫌悪する人が出てしまうのは、これまでの歴史が証明している。

 カップ麺だって、スマホだって、飛びつく人とともに、言下に否定する人たちがいた。どうしてもタワマンを受け入れられないという人もきっといるのだろう。

 タワマンは「悪」モノではない。もちろん、短所もあるが、よいところも多い。土地の有効活用という意味で、マンションのひとつの完成形ともいえる。そのタワマンは増え始めてから20年が経過し、よいところを活かし、短所を改善する動きが進んでいる。

 その改善を行っているのは、主にタワマンに住んでいる人たち。タワマン居住者は、従来のマンションより密接に協力し合い、自分たちの住まいを守ってゆこうとしている。各タワマン管理組合の活動姿勢は、かつてのマンションで見られた「無関心」や「無責任」ではなく、ずっと積極的でアクティブ。タワマンに問題があれば、それを放置しておくような甘さはない。

 その姿勢を知ると、「タワマンの将来は暗い」などということはできないはず。今頻発している「タワマン・クライシス」の報道は、少々無責任ではないかとさえ思えてしまうのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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