バレンシアに光明が差す。イ・ガンインとフェラン、映し出される未来への希望。
バレンシアに、希望の光が差し込んでいる。
昨季リーガエスパニョーラを4位で終えたバレンシアは、プレーオフの末にチャンピオンズリーグ出場権を獲得した。だが今季は序盤から苦戦が続き、リーガでは第27節終了時点で7位に位置。CLでも、グループステージ敗退に終わっている。
しかしながら、マルセリーノ・ガルシア・トラル監督率いるチームに、希望がないわけではない。コパ・デル・レイ準決勝でベティスを破り、5月25日開催の決勝へと駒を進めた。対戦相手は王者バルセロナである。
■我慢
「カバ(発泡酒)を身体中に浴びたよ。たくさん、かけられてしまったからね」とマルセリーノ・ガルシア・トラル監督はベティスを下した後、笑顔交じりにそう語った。そして、付け加えた。
「マテウ・アレマニーに感謝したい。マテウはよく我慢してくれたと思う。我々は(リーガの試合で)引き分けが多かった。良いプレーを見せていたが、勝利が遠かった」
ゼネラルディレクターを務めるマテウに、マルセリーノ監督は謝辞を述べた。リーガでの成績不振を理由に解任されてもおかしくない。マルセリーノ監督自身、それを覚悟していたのかもしれない。
■フェランとイ・ガンイン
1月の段階で、オーナーを務めるピーター・リムはマルセリーノ監督の解任を考慮していたという。だが、指揮官交代は断行されなかった。マルセリーノ監督の首がつながっている一つの大きな要因は、フェラン・トーレスやイ・ガンインのようなカンテラーノが出てきているからだろう。
フェランは2017年夏に行われたU-17欧州選手権で眩いばかりの輝きを放ち、レアル・マドリー、バルセロナ、ユヴェントスといったクラブの関心を引きつけた。同年11月にトップデビューを果たすと、バレンシアはフェランの移籍を阻止するため、その5カ月後に契約解除金を1億ユーロ(約130億円)まで引き上げるという異例の措置を講じた。
一方、10歳でバレンシアの下部組織に入団したイ・ガンインは、昨年10月30日に行われたコパ・デル・レイのベスト32第1戦エブロ戦でトップデビューを飾った。また、第19節バジャドリー戦でリーガデビューを果たし、17歳327日のリーガ1部デビューで外国人選手として史上最年少記録を更新している。
韓国人であるイ・ガンインはバレンシア到着直後、2000年生まれの選手と勘違いされ、1歳年上の選手たちの中で入団テストを受けたといわれている。言葉の問題があるアジア圏の選手にとって、リーガの舞台に立つのは簡単ではない。しかし、彼は大きな壁を乗り越えた。
■マルセリーノの存在
フェランとイ・ガンインは今後のバレンシアを牽引していきそうな逸材である。だが、20歳前後のプレーヤーを定期的に起用するのは容易ではなく、その点においてはマルセリーノ監督の勇敢さが評価されるべきだ。
元々、マルセリーノ監督は若手を積極起用するタイプの指揮官だ。アンデル・エレーラ(現マンチェスター・ユナイテッド)、マヌ・トリゲロス(ビジャレアル)、ロドリ・エルナンデス(アトレティコ・マドリー/スペイン代表)らを檜舞台に送り出した。バレンシア指揮官就任前の段階で、合計22人のカンテラーノをトップデビューさせている。
マルセリーノ監督の就任で、バレンシアに変化が訪れた。それはバレンシア・メスタージャ(Bチーム)が、トップチームと同じシステムで戦うようになったことだ。4-4-2の信奉者であるマルセリーノは、若い選手たちをその布陣に慣れさせ、順調に階段を上らせるための手筈を整えたのである。
2012年夏にウナイ・エメリ監督(現アーセナル)が退任して以降、マルセリーノ監督が就任するまで、実に10人の指揮官がバレンシアで指揮を執った。バレンシアに組織の再構築が求められていたのは明らかだ。フェランとイ・ガンインの台頭は、その「改革」が進んでいる証。そして今季、フェラン(公式戦26試合出場)とイ・ガンイン(9試合)の出場機会は増加している。
フェランとイ・ガンインだけではない。カルロス・ソレール、ホセ・ルイス・ガジャ、トニ・ラト、ハウメ・ドメネク...。現在のバレンシアを支えているのはカンテラーノたちだ。
リーガでの再浮上に加え、コパ・デル・レイで決勝に進み、ヨーロッパリーグでベスト8進出を果たした。一時の監督解任騒動も沈静化しつつある。下からの底上げで、バレンシアは甦ろうとしている。