欧州王者マンチェスター・シティの「法則」グアルディオラ、ハーランドの力を引き出したフィクサー
チャンピオンズリーグ決勝、マンチェスター・シティがインテル・ミラノを1-0で下し、初の欧州制覇を成し遂げている。ジョゼップ・グアルディオラ監督が望んでいたように、本当の意味でビッグクラブの称号が与えられるのだろう。悲願だったCLだけでなく、プレミアリーグ、FAカップも制覇し、トレブル(三冠)達成で歴史的な快挙だ。
そのシティは来日し、横浜F・マリノス、バイエルン・ミュンヘンとプレシーズンマッチを戦う。欧州王者の戦いは注目を浴びるだろう。さらに進化はあるのか。
常勝チームには、陣容を作り上げたフィクサーがいた――。
常勝チームの原理
スポーツディレクターのアイトール”チキ”ベギリスタインこそ、シティに栄光をもたらした”最高の脇役”と言えるだろう。
2012年10月、シティのスポーツディレクターに就任したチキは、まずマヌエル・ペジェグリーニ監督を招聘。2013-14シーズン、ヘスス・ナバス、フェルナンジーニョなどを獲得し、プレミアリーグで優勝に導いている。2015-16シーズンにはケヴィン・デ・ブライネ、ラヒーム・スターリングを獲得し、チャンピオンズリーグでベスト4に進出。欧州で冠たるチームにすべく、着実に強化していった。
そして2016-17シーズンから、FCバルセロナ時代にタッグを組んで欧州を制覇したジョゼップ・グアルディオラを監督に招聘し、栄光の時代を作り上げた。5度のプレミアリーグ優勝、8度の国内カップ戦優勝。そして再び欧州を制した。
チームコンセプトは明確だった。合わせて、選手の獲得条件もはっきりしていた。土台にあるチームマネジメントは、バルサ時代と変わっていない。
「強いチームを作るために、我々は各クラブでリーダーとなっていた選手たちを集めました」
2006年、欧州王者になったバルサでテクニカル・ディレクターを務めていたチキにインタビューをしたが、当時チキは強さの秘密をそう語っていた。
「チームが苦しいとき、その危急を救うのはリーダー的な選手です。ここぞというシーンで決定的な仕事ができたり、苦境でもチームを鼓舞し勝利に導けたり、集団をけん引できる選手が欠かせません。ジュリーにしても、エトーにしても、所属クラブでリーダーシップを発揮していました。彼らは“絶対に勝つんだ”という勝利のメンタリティを持っていたんです。持っている力のすべてを捧げ、“自分が勝たせる”という責任感があるんですよ。“自分こそがリーダー”という自覚がある選手が集まっているからこそ、バルサはどんな時も諦めず戦えるんです」
バルサ躍進の理由の一つが、リーダーシップというのは実に興味深かった。
チキは、シティでもそれを再現したのだ。
リーダーシップの意味
チキが語っていたリーダーシップは、いわゆるキャプテンシーではない。キャプテンシーはチームを鼓舞し、まとめ上げていく、いわゆる主将の領域だが、ここで言うリーダーシップは、“勝者のメンタリティ”を意味している。チームの中で果たすべき役割を全うしながら、“絶対に勝利に導く”気概というのか。”常勝精神“と言い換えてもいいだろう。
「自分がチームを引っ張っている!」
その自覚こそが、チキが求めたリーダーシップだった。そうした集められた選手が、最強の軍団になることは必然だったかもしれない。その集団は魅力的に映る。
「あの選手たちと、あの監督とプレーしたい。必ず勝利に近づける!」
チームに選手を引き寄せる引力が生じた。それこそ、マーケティングにおける勝利でもあった。
その証拠に、アーリング・ハーランドは6000万ユーロという格安の移籍金でシティを選んでいる。もっと高額な移籍金やサラリーを用意したクラブもあったが、本人の意向が強かった。
「世界最高の選手になる」
その夢をかなえるために、最善の選択だった。そしてプレミアリーグ得点王に輝いただけでなく、あらゆるタイトルを勝ち取っている。
今回の欧州制覇で、チキの選手編成は一つの集大成を迎えた。エデルソン、ジョン・ストーンズ、カイル・ウォーカー、ベルナルド・シウバ、ロドリ、ルーベン・ディアスなど欧州制覇メンバーの稼働率は抜群だ。
「あきらめずに戦える集団に」
そう語るチキは、強いクラブをさらに強くする法則を作り出している。