宇宙全体を揺らす!仮説上の現象「背景重力波」の存在を最新の研究で確認
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「重力波にまつわる最新の歴史的大発見」というテーマでお送りします。
2023年6月、仮説上の存在だった「背景重力波」という現象が存在する証拠を得たと発表があり、世界的に大きな話題を呼びました。
そして2024年5月に公表された研究成果でも、背景重力波が存在する有力な証拠を得られたようです。
本記事では背景重力波という現象と、その発見に関する解説をしていきます。
●重力波とは?
重力波とは、時空のゆがみが波として伝播していくものです。
アインシュタインの一般相対性理論によると、重力は時空のゆがみとして理解されます。
地球は太陽の周りを回っていますが、太陽の質量によってその周囲の時空がゆがみ、そのゆがみによって地球は重力を受けています。
質量をもつ物体が運動すると、それに伴って時空のゆがみが波となって光速で伝わっていきます。
重力波が通過すると空間が伸び縮みします。
しかし、重力はとても弱いため、重力波の効果は非常に小さなものです。
例えばダンベルを振り回すだけでも重力波が発生しますが、そのパワーはとてつもなく弱いです。
太陽をめぐる惑星や恒星同士の連星でさえ、人類が検出できるレベルの重力波を発することはありません。
重力波が検出される可能性が高いのはブラックホールや中性子星などの非常に高密度な天体同士の合体の瞬間です。
重力波が通り過ぎると、空間が引き伸ばされたり、ゆがめられたりします。
どのくらいゆがむのかというとそれは元の大きさのたった10の21乗分の1です。
つまり、長さ100光年の棒が1ミリ短くなるだけなのです。
これを測定するのはなかなか困難です。
そこで物理学者はLIGO(レーザー干渉計重力波天文台)という巨大な実験施設を建設しました。
この施設は、長さ4kmの2本のトンネルが直角につながっています。
そのそれぞれのトンネルの端までの長さが変わるのをレーザーで計ります。
重力波がやってくると、空間は一方には引き伸ばされて、それと直角の方向には縮められます。
2本のトンネルの端で反射してきたレーザーの干渉を測ことで、空間の伸縮を高い精度で測定できるのです。
●背景重力波とは?
2015年に初めて重力波の観測に成功して以来、これまで人類が観測してきた重力波は、強力な天体現象によって生じた突発的な重力波でした。
ですがこのような起源が特定可能な重力波以外にも、これまで検出されてこなかった「背景重力波」が存在していると考えられてきました。
宇宙は電磁波で満たされていて、宇宙のどこで観測しても、あらゆる方向からほぼ等しい強度の電磁波がやってきます。
この現象は電磁波の波長ごとに「宇宙マイクロ波背景放射」や「宇宙可視光背景放射」などと呼ばれています。
実は様々な波長の電磁波のように、重力波も宇宙を満たしており、宇宙のどの場所で観測してもあらゆる方向からやってくる重力波が存在すると考えられてきました。これが「背景重力波」です。
背景重力波は、宇宙に数多くある超大質量ブラックホールの連星系が公転し合うことで発生する重力波や、宇宙誕生直後のインフレーションの瞬間に生じた重力波など、様々な起源の重力波が重なり合って存在しています。
そのため背景重力波の発生源となった個々の現象を分解して理解することは難しいと考えられています。
中性子星や恒星質量ブラックホールの衝突現象によって生じる重力波が地球上の検出器でも検出可能だったのは、その周波数が高いためです。
しかし背景重力波は周波数が極めて低く、波長が光年単位で長いため、地球のような小さな天体上の小さな検出器で直接検出するのはほぼ不可能になってしまいます。
●背景重力波の観測に成功!
アメリカとカナダの190名以上の科学者から成る重力波研究グループ「NANOGrav」や、「欧州パルサータイミングアレイ(EPTA)」など、世界中のいくつかの研究チームは2023年6月、史上初めて背景重力波の検出に成功した可能性があると発表しています。
研究チームはLIGOなどの観測装置を天の川銀河規模にまで拡大して周波数の極めて低い背景重力波を観測するため、「パルサー・タイミング・アレイ」と呼ばれる観測手法を用いました。
この手法では、パルサーと呼ばれる天体からやってくる電波に着目します。
パルサーは地球に極めて正確な周期で電波を放射する天体です。
最新技術をもってすれば、数十ナノ秒という極めて小さい誤差でパルサー由来の電波の到達タイミングを予測できるそうです。
パルサーの正体のほとんどは、高速で自転し、磁極から電波のジェットを放射している中性子星です。
今回は特に「ミリ秒パルサー」と呼ばれる、1秒間に数百回も自転する中性子星が観測対象となりました。
背景重力波によって、パルサーと地球間の距離がわずかに変化すれば、パルサーの到達時刻も僅かに変化します。
研究チームは合計68個のパルサー由来の電波を分析し、天の川銀河規模での実験で背景重力波検出を試みました。
その結果、パルサーからの電波が背景重力波の影響を受けている場合に描かれると理論的に予測されている特徴が見事に浮かび上がりました。
この特徴が偶然検出された可能性は1000分の1未満で、科学的に新発見と確定できるレベルの精度には達していないものの、かなり高確率で背景重力波の証拠であると期待されています。
また欧州のパルサータイミングアレイチーム(EPTA)は、2024年5月に二度目の研究成果の公表を行いました。
インドのパルサータイミングアレイ(InPTA)も研究に参加しています。
大規模なチームによる多くのデータを扱った研究の末、全ての観測と分析で「長波長の背景重力波が存在する」という結論が導かれています。
いくつもの報告により、背景重力波が実在するという強い証拠がそろってきている現状です。
●これらのニュースがなぜ重要なのか?
これらの発見は世界中で騒がれており、背景重力波の存在が確定できれば、ノーベル賞級の成果になるかもしれません。
最後に背景重力波の発見の重要性について簡単に触れていきます。
まず、背景重力波の成分の多くは、この宇宙のどこかにある超大質量ブラックホールの連星系が放射した重力波である可能性が高いそうです。
そのため背景重力波の観測から、巨大ブラックホール連星に関する様々な情報が得られます。
具体的には巨大ブラックホール連星はどれくらいあるのか?合体するとどうなるのか?などについてが挙げられます。
また、ファイナルパーセク問題を解決するための手掛かりを得られるかもしれません。
この問題は、超大質量ブラックホール連星が1パーセク≒3.2光年以内に近付くと、接近が緩やかになり、現在の宇宙の年齢ほどの時間が経過しても衝突しなくなってしまう問題の事です。
一般的には、巨大なブラックホール連星は、周囲の恒星などの物質と衝突することで徐々に公転速度を落とし、お互い接近していくと理解されています。
しかし1パーセク以内に近付くと周囲の恒星の密度が下がり、接近が緩やかになってしまうのです。
巨大なブラックホール同士が衝突合体することで現在観測されているようなさらに巨大なブラックホールが形成されたとみられているため、この問題は解決する必要があります。
そんな重大な問題であるファイナルパーセク問題を解決するための手掛かりも、背景重力波の検出によって得られるかもしれません。
さらに背景重力波によって、宇宙誕生直後の情報が新たに得られる可能性もあります。
これまでの天文学では、宇宙の情報は主に「電磁波」を観測することで得てきました。
宇宙は余りに広すぎるため、遠くで放たれて長い間宇宙を旅してきた末に今この瞬間地球で観測された電磁波は、遥か昔の天体の情報を持っています。
例えば1億光年彼方にある天体から1億年前に放たれ、1億年かけて今この瞬間地球で観測された電磁波は、1億年前の放射源天体の情報を持っていることになります。
この宇宙で最も古い情報を持った電磁波は「宇宙マイクロ波背景放射」です。
このマイクロ波は宇宙誕生から約38万年後の情報を持っています。
逆に言えば電磁波で遡れる限界が、宇宙誕生から約38万年時点までなのです。
それ以前の宇宙のことは、電磁波による観測では原理的に理解できません。
一方重力波は、それ以前の宇宙の情報も持っています。
最古の重力波である「原始重力波」は宇宙誕生直後から存在していたため、原始重力波が検出されれば、私たちは宇宙誕生直後まで遡ることができます。
背景重力波の成分の一つが、原始重力波であると考えられています。
よって背景重力波の検出は、人類が宇宙誕生直後にまで遡る第一歩となり得るのです。