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ロシア対外貿易銀行(VTB)など、キプロス危機回避で金融支援の可能性

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

キプロス議会は19日、債務・金融危機を回避するため、いわゆるトロイカ(欧州連合と欧州中央銀行、国際通貨基金の3つの国際機関)による同国への100億ユーロ(約1.2兆円)の金融支援の前提条件となっている預金課税を実現するための法案を賛成多数で否決したことで、今後はキプロスと政治的にも経済的にも深い関係があるロシアの金融機関が危機打開に貢献するとの見方が現実味を帯びてきた。

VTBのドゥビニン監査役会会長=VTBサイトより
VTBのドゥビニン監査役会会長=VTBサイトより

モスクワ・タイムズ(電子版)が20日に伝えたところによると、ロシア2位の国営金融大手VTB(対外貿易銀行)のセルゲイ・ドゥビニン監査役会会長は同日、声明文を出し、キプロス国民から強い反対を受けている預金課税の代替案として、経営破たんの恐れがあるキプロスの国内銀行(ライキ銀行やキプロス銀行など)を国有化し、ロシアを含む欧州から経営者を送り込み経営再建を行うべきだとしている。その上で、次の段階として、すべての預金を小分けしてすぐに引き出しを可能な状態にし、その後は最大15年間にわたって預金の引き出しをできるようにする必要があるという。

他方、ロシア国営天然ガス最大手ガスプロムの金融部門であるガスプロムバンクもキプロス沖の天然ガス資源の開発権を担保に金融支援を行うことを検討している。融資額は明らかにしていないが、ロシアの法律では最大30億ドル(約2900億円)の支援が可能と見られているようだ。キプロスの天然ガスの埋蔵量は34億立方メートル、石油は2億3500万トンで、欧州に近いため輸出が容易という市場性に優れているので、ガスプロム側のメリットは大きい。

また、ロシアの大手法律事務所エゴロフ・プジンスキー・アファナシエフ・アンド・パートナーズのドミトリー・アファナシエフ会長は、キプロスへの融資となれば、政府系のVTBが最も有望だと指摘する。VTBはこうしたキプロスの石油・天然ガス資源の開発権、さらにはキプロスの不動産や銀行株を担保に資本市場で社債を発行し、資金調達も可能だという。この法律事務所は2008年の世界的な金融危機の際、170億ドル(約1.6兆円)の負債を抱えたロシアのアルミ地金世界最大手UCルスアルの経営再建に寄与したことで知られるだけに、キプロス危機もビジネスチャンスと見ている。

キプロスは欧州の中では法人税が低いため、多くのロシア企業はいわゆるタックス・ヘイブン(租税回避地)としてキプロスの銀行に多額の預金をしており、その預金額は推定300億ドル(約2.9兆円)にも達しているといわれる。3月14‐15日のEU(欧州連合)サミットで、キプロスは総額およそ170億ユーロ(約2.1兆円)の救済資金を必要としているが、そのうち、58億ユーロ(約7200億円)を自己負担し、100億ユーロ(約1.2兆円)をEUからの融資を受けることで合意した。しかし、この自己負担を銀行預金に課税することで、事実上、預金の一部が国によって没収されるため、キプロスでは課税前の取り付け騒ぎが起きている。(了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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