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「理想的な体重」管理をしても「タバコ」を吸えば元の木阿弥

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 痩せ過ぎでも太り過ぎでも健康リスクが高くなるが、これに喫煙が加わればほとんど致命的だ。最新の研究では、たとえ理想的な体重を維持しているとしてもタバコを吸えば死亡リスクが高くなることがわかった。

太ることを気にして禁煙できない人

 日本人の特に女性は一般的に痩せ気味とされ、体重(Kg)を身長(m)で2回割って得られるBMI値も国際比較すると低い。太ることを気にして禁煙に踏み切れない人がいるが、タバコを止めた後、一時的に体重が増えたとしても喫煙による健康リスクを補ってあまりある恩恵を得ることができる(※1)。

 多少は人種的な違いがあるものの、洋の東西を問わず特に痩せ過ぎと太り過ぎの人で高リスクということがわかっている。これをグラフにするとUもしくはJカーブを描くが、加熱式タバコを含む喫煙は百害あって一利なしでBMI値との関係で強い悪影響を及ぼす(※2)。

 だが、これまでの研究では日本人のBMI値で死亡リスクの低い最適値、そして喫煙がその最適値にどのような影響を及ぼすかわかっていなかった。もちろん、こうしたことを知る場合、BMI値と死亡リスクには喫煙以外に多くの要因が関与するから、多くの人を対象とした大規模な疫学調査によって慎重に分析する必要がある。

 今回、東北大学の東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)などの研究グループが、日本で行われた13のコホート(集団)調査(参加総数17万9987人、平均年齢58.7歳、男性11万1705人、平均BMI値23.3)を使って平均9.8年間(1987〜1995年)追跡しつつBMI値と年齢、性別を分析し、死亡リスクとの関係を研究した結果を日本疫学会の学術誌『Journal of Epidemiology』のオンライン版に発表した(※3)。

 この調査研究のエンドポイント(評価指標)は、死亡でBMI値との関連を調べた。BMI値は参加者を40のグループに分け、喫煙については、タバコを吸ったことのない群、過去喫煙群、現在喫煙群(2つのコホートでは過去喫煙者はタバコを吸ったことのない群)に分けた。また、健康度合いについてタバコを吸わない人の総コレステロール値(Total Cholesterol)4.1mmol/L(160mg/dL)を規準とし、エンドポイントの死亡については単純死亡率(Crude Mortality Rate)とハザード比(Hazard Ratio、リスクの度合い)で算定したという。

痩せ過ぎ太り過ぎより高い死亡リスク

 その結果、調査期間中に1万71166人(男性9503人)が亡くなり、死亡リスクとBMI値との関係ではU字型のカーブが示され、BMI値が21以下と29以上で死亡リスクが高くなった。1つのコホート調査を除き、特にBMI値19以下、30以上で死亡リスクが一貫して上昇することがわかったという。

 逆に、死亡リスクが低いBMI値は22〜24.9となり、この影響は年齢や性別、喫煙の有無に影響されなかったが、BMI値がこの間の数値でも性別に関係なく現在喫煙者の場合、タバコを吸わない人のBMI値18.9以下や30以上より死亡リスクが高くなった。つまり、健全で中庸なBMI値であっても、痩せ気味や太り気味のタバコを吸わない人より喫煙者のほうが何らかの原因で死ぬリスクが高いことになる。

 研究グループは、不健康な人にはBMI値が低い傾向がうかがえ、同時にBMI値が低いこと自体が死亡リスクである可能性が高いという。体重が増えるという理由で禁煙に踏み切れない喫煙者もいるが、そもそも痩せ気味なことがリスクだ。タバコを止めて体重が少し増える程度なら、むしろ死亡リスクが減少するかもしれない。

 今回の調査研究からはBMI値22〜24.9の低死亡リスクがわかったが、もし仮にその値の範囲内だとしてもタバコを吸っていれば元の木阿弥というわけだ。加熱式タバコを含むタバコは、百害あって一利なしということがよくわかると思う。

※1-1:Robert Carreras-Torres, et al., "Role of obesity in smoking behaviour: Mendelian randomisation study in UK Biobank." BMJ, Vol.361, 2018

※1-2:Kyuwoong Kim, et al., "Weight gain after smoking cessation does not modify its protective effect on myocardial infarction and stroke: evidence from a cohort study of men." European Heart Journal, Vol.39, Issue17, 1523-1531, 2018

※1-3:Yang Hu, et al., "Smoking Cessation, Weight Change, Type 2 Diabetes, and Mortality." The NEWENGLAND JOURNAL of MEDICENE, Vol.379, 623-632, 2018

※2-1:Motonobu Miyazaki, et al., "Effects of Low Body Mass Index and Smoking on All-cause Mortality among Middle aged and Elderly Japanese." Journal of Epidemiology, Vol.12, No.1, 2002

※2-2:Kenneth F. Adams, et al., "Overweight, Obesity, and Mortality in a Large Prospective Cohort of Persons 50 to 71 Years Old." The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE, Vol.355, 763-778, 2006

※3:Atsushi Hozawa, et al., "Association between body mass index and all-cause death in Japanese population: pooled individual participant data analysis of 13 cohort studies." Journal of Epidemiology, doi.org/10.2188/jea.JE20180124, 2018

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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