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【飲食コンサルが解説】飲食店新規出店のための投資回収シミュレーション

三ツ井創太郎飲食店コンサルティング(株)スリーウェルマネジメント代表
(筆者作成)

飲食店コンサルティング会社スリーウェルマネジメント代表コンサルタントの三ツ井創太郎です。

これまでのコラムでは、「商圏分析」「競合店・モデル店調査」「業態コンセプトシート」について、繁華街にて客単価5,500円のイタリアンレストラン等を3店舗展開しているF社長からのご相談事例をベースにお話をさせて頂きました。

なお、今回の内容はYouTubeチャンネルでも解説していますので、よろしければ下記よりご覧ください。

(筆者作成)

アフターコロナの新規出店の失敗は財務面においても影響が大きいためより慎重にならなくてはなりません。それはF社長の会社においても同じで、コロナ借入金返済等が始まる状況においては、今回の出店は必ず成功させなくてはなりません。F社長の会社は今までは出店に際して、しっかりとした投資回収シミュレーションができていませんでした。そこで、これまでの商圏調査結果や既存店の損益構造等をベースに、投資回収シミュレーションを実施させて頂く事にしました。

今回のF社長の会社で使用した実際の投資回収シミュレーションが次の表となります。

【飲食店の投資回収シミュレーション例】

(筆者作成)
(筆者作成)

Ⅰ.投資/物件条件

写真:イメージマート

まずは、投資金額や物件の賃料等の条件面を整理していきます。今回F社長の出店においては居抜き物件となりますが、一部厨房機器や内装・外装に関してはやり直しをしますので、概ね2,000万円程度の投資金額となりました。減価償却費については厳密には耐用年数等を考慮して算出しますが、ここでは一旦簡易的に総額を60カ月(5年)で案分して設定をします。

Ⅱ.損益/投資回収シミュレーション

写真:イメージマート

次に売上原価、人件費率、減価償却費、その他経費等を加味して損益シミュレーションを作成します。この時に1点注意をして頂きたい事があります。それは最初にしっかりとした「損益分岐点売上高」を算出するという事です。「目標売上」から考えてしまうと、どうしても希望的観測から高い目標売上を設定してしまいがちです。なお損益分岐点売上高は下記公式で求める事が可能です。

【損益分岐点売上高 =固定費 ÷(100% —変動比率)】

ちなみにこの公式をF社長の今回の出店に当てはめると次のようになります。

【損益分岐点売上高4,420千円=固定費1,193千円÷(100% — 変動比率73%)】

そして次は「この物件において損益分岐点売上高である月商442万円が売れるか?」という検証をします。検証方法について、商圏分析結果や既存店の坪効率、競合店の売上状況等を踏まえて複合的に判断します。なお、人件費については今回のシミュレーションにおいては簡易的に30%の変動費として設定していますが、実際には売上別のモデルシフト等から算出していきます。

こうしたデータを踏まえて、F社長はこの物件への出店を決め、売上目標を月商700万円に設定しました。この場合の営業利益額は69万円であり営業利益率は約10%です。さらにこの営業利益に法人税等の実効税率を40%と仮定して設定し、税引後純利益を算出します。さらにこの税引後純利益に、実際には毎月キャッシュアウトしていない減価償却費を足した金額を「キャッシュフロー」とします。そして年間キャッシュフローを総投資額で割る事でROI(Return On Investment)、つまり投資収益率を算出する事が可能です。ROIについては税引前営業利益で算出する場合もありますが、今回はより資金繰り計画の精度を高める為にキャッシュフローベースのROIを算出しました。こうして算出された月商700万円の場合の本物件のROIは45.1%でした。さらに総投資額を年間キャッシュフローで割ると投資回収年数を算出する事ができ、本物件の目標月商達成時の投資回収年数は2.2年である事が分かります。

Ⅲ.日商シミュレーション

写真:アフロ

最後に月商700万円の目標を達成する為の日商目標値を設定していきます。この日商目標をベースに人員の採用計画や厨房設備のスペック設定等を行っていくのです。

ここまでお話をさせて頂いた通りF社長の会社においては、しっかりとした事業計画を立てた上で、いよいよオープンとなりました。現在の月商は当初目標の700万円を上回る800万円ベースで推移しており、月100万円程度の営業利益となっています。この調子でいけば約2年で投資回収ができる計算となります。

オープン後の定例フォローミーティングでF社長とお話をしましたが、F社長は「今回、改めてしっかりと商圏分析や業態コンセプト設計、投資シミュレーションをしてみて、いかに今までの自社の出店が勘頼みの“ギャンブル出店”だったか分かりました。今回の物件も今まで通りギャンブル出店をしていたら、こんな成功は絶対にしていないと思います」とおっしゃっていました。

ぜひ皆様も開業、出店に失敗しないよう、しっかりとした調査やコンセプト設計、投資回収シミュレーションを行って頂く事をお勧めします。

最後までお読み頂きありがとうございました。

(筆者作成)

<筆者プロフィール>

飲食店コンサルティング会社スリーウェルマネジメント

代表取締役 三ツ井創太郎

https://www.threewell.co/business

飲食店コンサルティング(株)スリーウェルマネジメント代表

㈳日本フードビジネス経営協会代表理事。飲食企業で店長、SV、事業統括の経験を経た後、2011年に東証一部上場のコンサル会社である(株)船井総合研究所に入社。飲食コンサルティング部門のリーダーとして数多くの飲食店支援を行う。2016年飲食店特化のコンサルティング会社(株)スリーウェルマネジメントを設立。「飲食店オーナー様に徹底的に親身なサポートを!」を理念に、個人店から大手チェーンまで日本全国の飲食店へ支援を行う傍ら、テレビのコメンテーターや行政、金融機関と一体となった飲食店支援も行う。著書「V字回復を実現する! あたらしい飲食店経営35の繁盛法則 」はアマゾンの外食本ランキングで1位を獲得。

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