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世界でもっとも有名な日本の女優、京マチ子訃報に「美しく神秘的だった」と惜しむ海外ファン

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
若きころの京マチ子さんはまるで、和製オードリー・ヘップバーンのよう。(写真:REX/アフロ)

普段のニューヨークでの生活で、私が日本人とわかれば、初めてお会いする人からこのような言葉がかかることがある。

「クロサワのファンです」「セブン・サムライ(七人の侍)は傑作だね」「ジブリが好きなんだ」「ダイゴロウ(子連れ狼)のスペイン語放送を観て育ちました」

そう語る多くは、だいたい映画関係者か一般の映像ファンだ。

つい最近も取材でお会いしたスモールビジネスの経営者で、創業前はイタリアで映画を撮ってきたという男性は、取材中に何かのきっかけで話が脱線し、このように告白してきた。「実は私、黒澤明、小津安二郎、北野武の大ファンなんです」

とにかく彼らは、相手が日本人とわかれば、いかに自分が往年の邦画ファンか、それらはどのように素晴らしい作品かを語りたがる。昔も今も、海外における(主に昭和の)邦画人気は根強い。

世界を魅了した大女優の死を惜しむ声

そんな海外に多くのファンがいる往年の日本映画界は、先日一つの宝を失った。

1950〜60年代の昭和を代表する大女優、京マチ子さんが5月12日、心不全のため95歳でその生涯を閉じた。京さんは女優として近年目立った活動はなかったものの、昭和の時代の長きにわたる世界的な大スターだった。特に黒澤明監督『羅生門』、溝口健二監督『雨月物語』、小津安二郎監督『浮草』など大作に出演し、世界でもっとも有名な日本人女優だったのは間違いない。

海外に住むファンからも、突然の訃報を悲しむ声がたくさん聞こえてきた。

伝説に残る日本の女優、京マチ子さん。多くの日本の名画に出演し、魅惑的で輝くような美しさだった。中でも小津安二郎監督の『Floating Weeds』(邦題:浮草)の彼女が一番好きだ。

彼女を初めて観たのは、大学時代の映画哲学の授業でのこと。その神秘的で普通ではない美しさに思わず息を飲んだものだ。だから訃報を聞いてとても悲しい。

黒澤明(1950年べネチア国際映画祭ゴールデンライオン賞受賞)監督『羅生門』に出演した素晴らしい日本の女優が亡くなった。彼女は賞賛、感謝の念、そして愛とともに、いつまでも私たちの記憶の中にある。

京マチ子さんは、古典的な日本映画スターの最後の数人の1人だった。彼女が亡くなったことで、世界における日本映画の一つの歴史が幕を閉じた。

米『Hollywood Reporter』マガジンも、さまざまな出演映画が国際映画祭でグランプリに輝いたことから、彼女のニックネームが「グランプリ女優」になったことなどを紹介しつつ、大女優の死を悼んだ。

アメリカでは今週、京マチ子さん以外にも次々と著名スターがこの世から去っている。5月13日に歌手のドリス・デイ(享年97歳)、翌14日に亡くなったコメディ俳優のティム・コンウェイ(享年85歳)らもそうだ。往年の大スターを惜しむ声が「R.I.P.」(安らかにお眠りください)というメッセージとともに続々と上がっている。

身体は滅びようと彼らが残した功績や妖艶さは、映像の中で、そして人々の記憶の中では永遠であろう。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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