2023年の出生数が戦後最少に。それが財政面で意味すること
2月27日に、厚生労働省が発表した2023年の出生数の速報値(外国人を含む)は、75万8631人と戦後最少となった。
国立社会保障・人口問題研究所が2023年4月に公表した最新の「将来推計人口」では、2023年の出生数を76万2000人(出生中位推計)と見込んでいたから、それより少なかった。ただ、その差は3300人ほどである。誤差率は約0.4%である。
同じ「将来推計人口」で、出生数(出生中位推計)が76万人を割るのが、2035年と見込んでいた。だから、出生数の減少は12年も早く少子化が進行したという論調がある。しかし、これは大げさだ。
最新の「将来推計人口」が出たのは2023年4月で、まだ2023年の出生数の動向が完全にはわからない段階で、既に前掲のように2023年の出生数を76万2000人と見込んでいた。つまり、それだけ2023年の出生数が減ることは織り込まれていたのである。
2023年に戦後最小となった出生数をどう解せばよいか。それは、12年も早く少子化が進行したということではない。問題なのは、2023年の出生数そのものよりも、2024年以降の出生数である。
前述のように、2023年の出生数における誤差率は0.4%にすぎない。その程度で、それ自体が、今後の経済、社会、財政に大きな影響が及ぶというほどのものではない。
ただ、最新の「将来推計人口」では、2024年以降、出生数(出生中位推計)は77万人台でしばし推移するとみている。特に、2024年の出生数は77万9000人と、2023年よりも増加するという推計になっている。
そこで大きく推計と実績が乖離すると、将来的に経済、社会、財政にそれなりの影響が及ぶ可能性がある。
その最たるものは、財政面でいえば、公的年金である。
わが国の公的年金は、2004年の年金改正で、有限均衡方式を採用して年金積立金を将来の年金給付の底上げのために取り崩すこととしたため、賦課方式(現在の年金保険料収入を現在の年金給付に充てる方式)の性質が強い仕組みとなった。
したがって、今の公的年金制度のまま少子化が想定外に進むと、2020年代生まれの世代の人口が少なくなり、その世代が現役で年金保険料を納めてくれる時期に、総額として年金保険料収入がそれだけ少なくなる。すると、その同じ時期の高齢者への公的年金給付は増やせなくなる。年金財政ではそうした影響が考えられる。
ただ、前述のような推計と実績の乖離が、少しでも起こればそうなるというわけではない。あくまでも「想定外」に進むと、ということである。
では、「想定外」とはどの程度なのか。それは、同じ「将来推計人口」で「想定内」ともいえる範囲を超えるものである。
ならば、「将来推計人口」での「想定内」はどれほどまでか。それは、前述の出生数ではない。前述の出生数は、注意深く「出生中位推計」と記した。「将来推計人口」では、出生率に高位、中位、低位と3段階の前提を置いている。(そうなってほしくはないが)出生数が少なくなるとしても、「将来推計人口」で「想定内」といえるのは、低位推計までである。
では、「将来推計人口」の低位推計で、2023年の出生数をどう見ていたか。出生低位推計では、2023年の出生数は67万8000人である。実績値は、その想定よりも多いといえる。ちなみに、2024年の出生数は69万人である。
2023年の出生数は、中位推計よりわずかには少なかったが、低位推計よりも多いという水準である。その意味で、(それでよいとは言えないが)まだまだ「想定内」である。
とはいえ、出生数が少ないということは、年金財政からみて、それだけ将来の年金保険料収入が総額として少なくなる可能性があるということには変わらない。
「想定内」とはいえ、出生低位推計に近い出生数にまで落ち込んでしまうと、公的年金の財政は将来持たなくなるのかだろうか。それを見極めるには、
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