ウルトラマンは、なぜ最初からスペシウム光線を撃たないのか? 全シーンを見て考察してみた。
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。
ウルトラマンが地球上で活動できる時間は、わずかに3分。ボクシングの1ラウンドと同じで、極端に短い。
それであんなに活躍できたのは、彼がスペシウム光線という必殺技を持っていたからだ。左右の腕を十字に組むと、右手から放たれて怪獣を爆破する必殺光線!
ところがウルトラマンは、この技をなかなか出さない。怪獣と対峙しても、初めは殴ったり蹴ったり投げ飛ばしたりして、制限時間ギリギリになってようやくスペシウム光線を放つ。
なぜだ!? そんなすごいワザがあるなら、最初から撃てばいいのに――と多くの人が思ってきたに違いない。もちろん、筆者も子どもの頃から不思議だった。
ところが『ウルトラマン』全39話を見直して、スペシウム光線の発射状況を確認したところ、意外な事実が浮かび上がってきたのである。
◆勝利の黄金パターン
ウルトラマンの戦い方は、その第1話「ウルトラ作戦第一号」での対ベムラー戦に基本形のすべてが詰まっている。戦いの要素を順に記すと、こんな感じだ。
①ハヤタ隊員としてできるだけ頑張る
②ウルトラマンに変身
③ベムラーと組み合い、殴る蹴るの肉弾戦
④カラータイマーが鳴る
⑤スペシウム光線!
⑥ベムラーは倒れ、ウルトラマンは空へ
カラータイマーが点滅を始めたウルトラマンの様子を見て、科学特捜隊のイデ隊員は「だいぶ慌てているようですよ」「エネルギーが切れるみたいですね」と、まことに的確な推測をしていた。
これによって「必殺のスペシウム光線は、ギリギリになって撃つ」というイメージが強まったのかもしれない。
ところが『ウルトラマン』全話を見直してみると、必ずしも前述のようなパターンの戦い方をしているわけではない。いや、そうでないほうが多いくらいなのだ。
全体を俯瞰すると、全39話でウルトラマンが戦った怪獣は38匹。このうち26匹との戦いで、スペシウム光線を撃っている。
その発射タイムは、平均して登場から1分40秒後。3分の制限時間の、半分ちょっとのところで発射しているのだ。予想外に早い!
しかも、この26回のスペシウム光線のうち、カラータイマーが鳴った後に発射されたのは14回しかない。残る12回はスペシウム光線のほうが先。
というか、カラータイマーが鳴り始める時間の平均が1分53秒後であり、平均値でもスペシウム光線のほうが早いのだ。
◆スペシウム光線の結果一覧
オドロキはそれだけではない。
以下に、スペシウム光線を撃った結果がどうだったのか……を示す。
〇は一撃で倒した場合、△は複数回の発射で倒した場合、×は効かなかった場合。
ベムラー 〇
バルタン星人 〇
ネロンガ 〇
ラゴン 〇
グリーンモンス 〇
アントラー × ⇒科特隊の活躍
レッドキング × ⇒別の技で倒す
ジラース × ⇒別の技で倒す
ドドンゴ 〇
ペスター 〇
2代目バルタン星人 × ⇒別の技で倒す
ブルトン △ ⇒スペシウム2発目で倒す
ザラブ星人 △ ⇒スペシウム2発目で倒す
アボラス △ ⇒スペシウム3連発で倒す
ヒドラ × ⇒外れる
ケムラー × ⇒科特隊の活躍
グビラ 〇
ゴモラ 〇
ダダ △ ⇒スペシウム2発目で倒す
ゴルドン 〇
ケロニア × ⇒別の技で倒す
ザンボラー 〇
ザラガス 〇
ジェロニモン × ⇒科特隊の活躍
キーラ × ⇒別の技で倒す
ゼットン × ⇒自分が倒される
なんとなんとなんと!
全26戦中、1発目のスペシウム光線が致命傷となったのは、たったの12戦だけである。
残る14戦の内訳は、別の技で倒したこと5回、2~3発目のスペシウム光線で倒したこと4回、科学特捜隊に助けてもらったこと3回、当たらなかったこと1回、自分が死んだこと1回。
ウルトラマンには「スペシウム光線1発で敵を倒す」というイメージがあったが、この光線がそのとおりの威力を発揮した「必殺率」は46%にすぎない。
◆どんどん効かなくなってくる
ウルトラマンの戦いぶりを、前記の一覧に沿って見てみると、第1話から5話まではすこぶる快調である。
概ねカラータイマーの点滅後にスペシウム光線を放ち、いずれも致命傷を与えるという黄金パターンで、開幕5連勝。ウルトラマンも「これは行ける!」と思ったことだろう。
ところが、物語も中盤に差しかかると様相が一変する。
第16話では2代目バルタン星人に向かって、対峙後わずか5秒でスペシウム光線を発射するが、なんとバルタン星人の胸には「スペルゲン反射鏡」が取りつけられており、光線はあっさりはね返されてしまう。
続く第17話のブルトン、18話のザラブ星人(にせウルトラマン)、19話のアボラスには1発で致命傷を与えることができず、複数回のスペシウム光線でなんとか倒している。
さらに第20話の高原竜ヒドラには光線をかわされてしまい、21話の毒ガス怪獣ケムラーには命中させたものの、まったく効かない……! 1発目のスペシウム光線に関する限り、実に6回連続で「通用しない」という結果になってしまったのである。
このときのウルトラマンの不安は、どれほどだっただろう。「この調子でいけば、いずれオレは死んでしまうのでは!?」と予感しても不思議はない。
実際、その後も効いたり効かなかったりを繰り返して、前述の「必殺率トータル46%」という数値を叩き出してしまうのである。
この事実を見ると、スペシウム光線は必ずしも「必殺技」とはいえない。
「制限時間ギリギリになって発射する必殺光線」というイメージは、番組の初期に視聴者が勝手に抱いたものだった……!
そして、もしウルトラマン自身が「スペシウム光線? あれは必殺技じゃないし……」などと、実情を認識していたら、戦いの状況次第でいつ撃っても不思議ではないだろう。
半世紀以上前に放送された番組の、当時から抱いていた疑問が、全シーンを見直してみた結果、意外な結論に至ってしまった。
思い込みとはオソロシイ。そして、そんな人生訓を教えてくれる『ウルトラマン』は、やっぱり深い。筆者はしみじみ感動しています。