「成功事例」が教えてくれるのは過去の「成功確認」だけ
成功事例を紹介するドキュメンタリー番組が人気
偉大な功績を残した人、事業を成功に導いた人のドラマ、活劇は、テレビや書籍、雑誌など、いろいろなところで紹介されます。そのような人物の生き様、考え方に触れると感情が高ぶりますし、自分もやらなくちゃと奮い立たされることが多いからでしょう。
このようなドキュメンタリー番組といえば、「プロジェクトX」「プロフェッショナル 仕事の流儀」「情報大陸」「カンブリア宮殿」「ガイアの夜明け」などが有名です。いずれも人気番組となっています。
先述したとおり、特定の分野で活躍する人物や、歴史に刻まれるような一大プロジェクトは、私たちに多くのことを教えてくれます。それとは反対に、そのような成功事例に触れても感化されない人もいます。感情が揺さぶられることなく、「興味を持てない」「感情移入できない」といった反応を持つ人もいることでしょう。
特に先述のドキュメンタリー番組などは「ドラマ性」を重んじるため、幾多のストレス、葛藤を乗り越えた末に大きな果実を手にした人たちが登場してきます。ですから、砂を噛むような努力、汗の匂いが蔓延するドラマを煙たがる人にはなおさらです。
「要素分解」と「再構築」するスキルがあるか?
成功事例は、ひとつの「塊(かたまり)」です。それを成し遂げた人が、エッセンスを噛み砕いて解説してくれるかもしれませんが、あくまでも「要素分解」するのは受け取る側です。したがって私たち受け手に、成功事例を「要素分解」できるスキル、それを自分の生活や仕事に生かすために「再構築」する能力が求められます。
何より重要なのは、過去に自分が同様の成功体験があるか、という点です。どんなに小さな成功体験でもいいのです。何かを達成しようとして、試行錯誤を繰り返してやり遂げた、多くの人の協力を得てやり抜いた過去や歴史があるなら、成功者の事例に触れたときに「そうそう」「わかるなァ」「やっぱりそうだよなァ」と共感することができるのです。
成功事例から教えられるのは、自分の過去の成功体験を記憶の隅から引っ張り出して再確認させてもらえることです。その一点です。極端な話、過去に何も成功した歴史がない人(たとえば幼児)が、偉大な成功事例に触れても学び取ることは多くないでしょう。
「うまくいく人」と「うまくいかない人」の違い
結局のところ、「うまくいく人」は……
● うまくいく人は、過去にうまくいった体験があるから、うまくいく人の事例が理解できる
● うまくいく人は、過去にうまくいかなかった体験もあるから、うまくいかない人の事例も理解できる
いっぽう「うまくいかない人」は……
● うまくいかない人は、過去にうまくいった体験がないから、うまくいく人の事例が理解できない
● うまくいかない人は、過去にうまくいかなかった体験さえないから、うまくいかない人の事例も理解できない
結局のところ、何事も「うまくいかない人」は、うまくいった過去も、うまくいかなかった過去も乏しいのです。うまくかなかった過去さえない、というのは、正確には「うまくいかなかった過去を自分のこととして正しく認識していない」ということです。うまくいかなかったのは家庭や職場、所属先など外的要因によるものであり、自分のせいでうまくいかなかったわけではない、と受け止めているということです。こういう人は、何をやらせてもうまくいかない人を目にしても、自分との共通点を見出すことができず、そこから学ぶことができません。反対に、うまくいく人は、うまくいかない人の姿勢や体験談に触れても、教えられることがたくさんあるのです。成功も失敗も両方とも過去に体験しているからです。
何をやってもうまくいかないと感じている人は、成功事例に触れてばかりいても気付きがありません。共感することもなく、奮い立たされることもありません。知識で圧倒する仕事術で書いたとおり、成功事例という二次元の知識に奥行きがないため、知識が「3D化」していかないのです。
「非効率」であろうが、「非合理的」であろうが、「古い」と言われようが、「カッコ悪い」と揶揄されようが、まずは死にもの狂いで成果を掴みとるのです。幼いころ、若いころは特にそうです。どんな小さなことでもいいから、「やり切った」「限界を超えた」と思える体験をするのです。その一つ一つの体験が、成功事例を要素分解し、再構築するスキルを提供してくれますから。