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横浜、広島商監督に学ぶ指導者心得 明治神宮野球大会の決勝後に語った言葉から

安藤嘉浩スポーツ文化ジャーナリスト/元朝日新聞編集委員
荒谷忠勝監督(左)と村田浩明監督(写真:矢内浩一,安倍貞晴/文化工房)

 野球シーズンを締めくくる明治神宮野球大会の決勝(高校の部)で対戦した横浜(神奈川)と広島商。試合後に両監督が語った言葉から、指導者として大切な心得が感じとれた。

求められるスポーツ指導者像

 日本スポーツ協会(JSPO)のホームページ(https://www.japan-sports.or.jp/)に、「求められるスポーツ指導者像」が示されている。その一部を抜粋する。

 「スポーツ指導者は、自らがスポーツ文化を理解し、プレイヤーとお互いに尊敬しあい、プレイヤーの立場に立ち、サポートしていかなければなりません」

 こうした観点から、優勝した横浜の村田浩明監督(38)、準優勝した広島商の荒谷忠勝監督(48)が報道陣に語った談話をまとめてみた。

選手の成長と課題を把握し、サポートする

横浜・村田監督

 「(先発して9回途中まで投げた1年投手の織田翔希について)プレッシャーの中で彼なりにやり切りました。その姿を見て、(2年生エースの)奥村(頼人)が最後まで投げ切った。あのピンチでストレートを3球続ける強さが出てきました」

 「奥村は『いつでも準備してるぞ』と先輩らしいことを言っていました。織田も悔しさを残して終われたので、また成長できるチャンスがある。いい相乗効果でいけていると思います」

広島商・荒谷監督

 「(横浜の)素晴らしい2投手のボールを見られたので、本当に鍛え甲斐のある冬を迎えられると思います。素晴らしい投手を相手に、4点先行されて厳しい状況の中で、追い上げて、1点差までいくことができた。今後は選手が、その1点をどう防ぐか、どう入れていくかという努力をしていければいいと思います」

 「せっかくの財産なんで、この冬は選手がしっかり考えて、いい練習というか、成長の場になればいいと思ってます」

 指導者の大切な役割は、選手をよく観察し、その成長と課題を把握し、サポートすること。両監督とも、成長したいという選手の意欲をくみとり、自主性を重んじている。

選手に声をかける横浜の村田浩明監督=中央奥(写真:安倍貞晴/文化工房)
選手に声をかける横浜の村田浩明監督=中央奥(写真:安倍貞晴/文化工房)

相手をリスペクトし、いいプレーを称える

横浜・村田監督

 「1試合1試合、素晴らしいチームと戦わせてもらえました」

 「(決勝は)あと1点がどうしても取れず、どんどん流れが向こうにいってしまった。セカンドの子(広島商・西村銀士)が素晴らしいプレーをしていました」

広島商・荒谷監督

 「広島県、中国地区のチームと、本当にいいチームと試合させてもらいました」

 「横浜さんのようなスキルやフィジカルを、選手たちには見習って欲しいという思いがあります」

 対戦相手がいなければ、スポーツは成り立たない。相手に感謝し、学ぼうという姿勢が感じられる。

指導者自身が謙虚になり、ともに成長しようと心掛ける

横浜・村田監督

 「今回は『優勝』という言葉を使っていません。それを言い過ぎて、選手が自分のプレーを見失ってしまったのが、去年、一昨年のぼくの反省なので」

広島商・荒谷監督

 「(先発投手に)もう少し長く頑張って欲しかったですけど、そこは日頃の自分の指導不足ですから、しょうがないと思います」

 選手の失敗を叱るのでなく、自分の指導力不足と考える。そして、選手とともに成長しようと考えている。

ベンチ前に整列する広島商の荒谷忠勝監督=中央(写真:矢内浩一/文化工房)
ベンチ前に整列する広島商の荒谷忠勝監督=中央(写真:矢内浩一/文化工房)

スポーツ文化を理解する

横浜・村田監督

 「決勝戦はすべてが凝縮された試合。ここでできた、できないが一番の課題になる。できなかったことがたくさんあるので、それを洗い出してやっていければ、また春に違ったチームができると期待して、ワクワク、ドキドキしています」

 「(1997年以来の優勝について)すごくうれしいことですが、それよりも、このメンバーで優勝できたことがうれしいです。毎年メンバーも違いますが、いつも本当に勝ちたいと思える世代にしていきたいと思ってます」

広島商・荒谷監督

 「(今大会の収穫は)神宮大会という素晴らしい大会に出場させてもらい、甲子園以外で素晴らしい経験をできたことです」

 「広商として全国大会の決勝は昭和63(1988)年夏の優勝以来だと思います。やっとスタート地点に立てたという気持ちでいますので、もう 1 回フラットにして、いいところは自信にして、課題をしっかり見直してやっていきたいと思ってます」

 スポーツはゲームであり、結果がすべてではない。そこは経験の場であり、その経験が成長の糧になる。

 広島商は戦前から昭和にかけて、横浜は昭和から平成にかけて高校野球界をリードしてきた名門校だが、両監督の言葉からは、伝統に縛られることなく、選手とともに新しい歴史を作り上げていこうという意識がにじむ。

 そんな村田監督、荒谷監督のもとで、横浜、広島商はこれから濃密なシーズンオフを過ごすことになる。その成果を披露する場になるであろう第97回選抜高校野球大会(2025年3月18日開幕)が今から楽しみだ。

スポーツ文化ジャーナリスト/元朝日新聞編集委員

1965年、岐阜市生まれ。立教大学卒、筑波大学大学院修了。元・朝日新聞編集委員。高校野球を30年以上にわたって取材し、松坂世代や決勝再試合など数々の名勝負に立ち会ったほか、大会運営や100回史(朝日新聞出版)の編集に携わる。メインライターを務めた名勝負連載「あの夏」や「高校野球メソッド」は書籍化された。プロ野球や大学野球、大リーグ、第1回WBCも取材。アテネ五輪では柔道などを担当し、日本の金メダル16個のうち12個の取材に携わった。現在は(株)文化工房(テレビ朝日グループ)のスポーツライター・プロデューサー。

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