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立教、東大野球部がつくるサンマ? 鬼ごっこ、だるまさんがころんだ… 東京六大学野球が取り組む社会課題

安藤嘉浩スポーツ文化ジャーナリスト/元朝日新聞編集委員
立教大学野球部グラウンドで鬼ごっこをして遊ぶ小学生と野球部員

 子どもたちが走ったり、転んだり、ボールを投げたりできる公園が減っている。そんな現状に一石を投じる東京六大学野球連盟による社会連携アクション「野球部グラウンドを子どもたちの遊び場へ」が、今年も開催された。立教大学(埼玉県新座市)と東京大学(東京都文京区)の様子を見に行ってきた。(写真はすべて筆者撮影)

野球場で遊ぼう!

東大球場で落ち葉を空に向かって投げて野球部員と遊ぶ子どもたち
東大球場で落ち葉を空に向かって投げて野球部員と遊ぶ子どもたち

 「鬼ごっこをしたい人、集まれ!」

 「だるまさんがころんだは、こっちでーす」

 野球部員が声をかけると、やりたい遊びの看板を持った部員のもとに、子どもたちが集まっていく。付属校や地元の小学生100人ほどが参加した2時間のイベントが始まった。

 立教大学はこのイベントを担当したマネジャーの小野馨子さん(3年、女子聖学院)が、6つのコーナーを用意し、一緒に遊ぶ部員をランダムに振り分けた。

①だるまさんがころんだ

②ドッジボール

③野球体験(ティーバッティング)

④鬼ごっこ

⑤フリースペース

⑥ちびっこゾーン

立教大学野球部グラウンドで鬼ごっこをして遊ぶ桑垣秀野選手と子どもたち
立教大学野球部グラウンドで鬼ごっこをして遊ぶ桑垣秀野選手と子どもたち

 鬼ごっこでは、桑垣秀野(しゅうや)選手(3年、中京大中京)が子どもたちの人気を集めていた。今秋のリーグ戦で2本塁打を放った強打者は小さい子たちを巧みに誘いながら走り回り、「自分は5人兄弟の一番上ですからね。子どもと遊ぶのは任せて下さい」と豪快に笑った。埼玉県朝霞市から参加した石川咲花さん(小学4年生)は「すごく面白かった。立教のお兄さんは足がめちゃくちゃ速かった」とはしゃいだ。

立教大学野球部グラウンドでボール投げをする子どもと野球部員
立教大学野球部グラウンドでボール投げをする子どもと野球部員

子どもの体力は無限

 フリースペースでは野球部員とボールを投げたり、蹴ったりして遊ぶ子どもたちも。ノックをして欲しいとお願いし、大学生にボールの捕り方を教わる風景も見られた。

 リリーフ投手として今秋10試合に登板した吉野蓮投手(3年、仙台育英)はサッカーをした後、鬼ごっこに合流した。「自分も走り回っていたころを思い出し、懐かしい気持ちになりました。子どもの体力は無限ですね」と肩をすくめる。閉会式では副主将として、「楽しかった人?」と子どもたちに問いかけ、「また来年も遊びに来てください」と訴えた。

 最後に小野さんが「このお兄ちゃんたちのカッコいい姿を見に、ぜひ神宮球場にも来てください!」と呼びかけ、集合写真を撮影して楽しい時間を締めくくった。

立教大学野球部グラウンドでノックを受ける子どもたち
立教大学野球部グラウンドでノックを受ける子どもたち

自然と広がる友だちの輪

 東京大学は東京六大学リーグで唯一、東京23区内に野球部グラウンドがある。

 「文京区は広い公園が少なく、思い切り遊べる場所がないので、子どもたちには思い思いに遊んでいただきたいと思います」と、担当したマネジャーの堂埜智咲紀さん(2年、湘南)。だから、あえて具体的な遊びコーナーは設けなかった。柔らかいボールやプラスチックバットなどだけ用意し、広い球場を自由に使ってもらうことに。文京区とも連携し、区内の小学校に通う約100人が集まった。

 親子でキャッチボールをしたり、バドミントンやフリスビーを楽しむ子も。もちろん、野球部員を捕まえてボールを投げたり、打ったりする子どもも多い。

 今秋6試合に先発登板し、初勝利を挙げた渡辺向輝投手(3年、海城)は捕手役をしたり、キャッチボールをしたりして子どもたちと遊んだ。

東大球場で子どもたちと野球を楽しむ渡辺向輝選手
東大球場で子どもたちと野球を楽しむ渡辺向輝選手

 「野球の楽しさを思い出させてもらいました。最近はどうしても勝ち負けしか考えなくなっていたので、これぞ自分たちも楽しんでいた野球なんだ、と感じました」。渡辺投手にとっても笑顔が絶えない2時間になった。

 「ナイスボール!」「いいねえ」。杉浦海大(かいと)主将(3年、湘南)は小学3年生の男の子と約20分間、キャッチボールを楽しんだ。「みんな遊ぶ場所を欲しているんだと感じました。子どもは本当に元気だなあ。ぼくらが逆に元気をもらいました」

東大球場で地域の子どもとキャッチボールする杉浦海斗主将
東大球場で地域の子どもとキャッチボールする杉浦海斗主将

サンマ(3間)を提供する

 野球部グラウンドを子どもの「あそび場」として提供するイベントは、早稲田大学野球部のOB有志を中心に2018年から始まった。同大学の安部球場(東京都西東京市)に小学生を集め、現役部員だけでなく、当時はプロ野球・日本ハムに在籍していた斎藤佑樹さんらOBも参加している。

 コロナ禍を経て、2023年から東京六大学で一緒に取り組もうということになり、2年目を迎えた。今年は12月14日(土)に立教大学、明治大学(東京都府中市)、法政大学(川崎市)、15日(日)に東京大学、早稲田大学、慶応大学(横浜市)で開催された。

東大球場で「試合がしたい」と大学生のもとに集まる子どもたち
東大球場で「試合がしたい」と大学生のもとに集まる子どもたち

 いわゆる野球教室ではない。

 あくまでも広いグラウンドを「あそび場」として開放し、子どもたちに体を動かして遊んでもらう。

 もちろん、遊びの中にはボール遊びがあり、それが野球の楽しさに触れる機会になればうれしいが、決して強要しないし、あれこれ教えたりはしない。

 背景には、子どもの「あそび場」が減っているという現状がある。公園や学校の校庭は利用時間や遊び方の制限がかかり、ボール使用を禁じているところも多い。

 その結果、子どもたちにとっての「サンマ(3間)」が減っている。

 「空間」「時間」「仲間」の「サンマ(3間)」である。

 6校の担当者が事前にオンラインで3度ミーティングを重ね、そんな社会課題を共有して、この週末を迎えた。

野球をしたくても、場所も時間も仲間も…

 東京大学では大学生が下から緩く投げるボールを順番に打って楽しんでいた子どもたちが、「試合がしたい!」と言い始めた。大学生のもとに10人ほどが集まり、「チームを決めよう」「ピッチャーは誰にする?」と即席のルール作りが始まった。

 大学生も交えて考えた結果、2チームに分かれて試合するが、投手役はそれまでと同様に大学生が務める。打ったら一塁に走る。守備側はボールを捕ったら一塁へ投げる真似をする。そのタイミングによってアウトかセーフかを決める――。

 学校も学年もバラバラな子どもたちは、この絶妙なルールのもと、「野球ゲームごっこ」を存分に楽しんだ。「ぼくもやりたい」と言ってくる子がいたら、どちらかのチームに加える。

 「4番、いけー!」

 「もっと後ろに守ろう」

 「アウトだ!アウトだ!」

 広い空間と柔らかいボール、バットを使い、初対面の子どもたちの輪がどんどん広がっていった。

東大球場で即席のルールをつくり、試合を楽しむ子どもたち
東大球場で即席のルールをつくり、試合を楽しむ子どもたち

 予定の時間が過ぎてアナウンスが流れても、子どもたちは「野球ごっこ」をやめようとしない。

 「あと1回だけ」

 「この子が打つまでいいでしょ?」

 そうやってせがんで、大学生を困らせた。

 30~40年前までは、公園や広場で、ごく普通に見られた光景を思い出す。ぼくが小学生だったころも、こんな感じだった。

東大球場で遊んだ東京大学野球部員と子どもたち
東大球場で遊んだ東京大学野球部員と子どもたち

 そんな昭和の風景を取り戻すことができるのだろうか。

 まずは、大学(大学生)と子どもと地域を結びつけてみる。

 その先に、なにができるのか。

 みんなで考えていきたい。

立教大学野球部グラウンドで遊んだ野球部員と子どもたち
立教大学野球部グラウンドで遊んだ野球部員と子どもたち

スポーツ文化ジャーナリスト/元朝日新聞編集委員

1965年、岐阜市生まれ。立教大学卒、筑波大学大学院修了。元・朝日新聞編集委員。高校野球を30年以上にわたって取材し、松坂世代や決勝再試合など数々の名勝負に立ち会ったほか、大会運営や100回史(朝日新聞出版)の編集に携わる。メインライターを務めた名勝負連載「あの夏」や「高校野球メソッド」は書籍化された。プロ野球や大学野球、大リーグ、第1回WBCも取材。アテネ五輪では柔道などを担当し、日本の金メダル16個のうち12個の取材に携わった。現在は(株)文化工房(テレビ朝日グループ)のスポーツライター・プロデューサー。

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