Yahoo!ニュース

キラキラした人たちへの劣等感から“普通”を強みに。キネ旬で新人3位の女優が卒業制作に悩む役を等身大で

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)2023「青すぎる、青」製作委員会

昨年公開の『神田川のふたり』に主演して、キネマ旬報の新人女優賞の3位になった上大迫祐希。鹿児島出身で上京5年でも都会に染まらない素朴さが目を引き、今関あきよし監督の新作『青すぎる、青』では、美大の卒業制作に悩む主人公を演じている。地元の鹿児島で撮影し、自身も卒業制作に取り組んでいる最中だったという。葛藤ぶりまで等身大で、もがきながら大人への扉を開こうとする姿が胸を打つ。

役のために人生初のショートカットに

――去年は『神田川のふたり』に主演して、キネマ旬報ベスト・テンで新人女優賞の3位になりました。

上大迫 驚きでした。「キネマジュンポウって、あのキネマ旬報?」と(笑)。作品を面白がって観てくださる方が多かったのが嬉しかったし、その中で長回しの演技とかを評価していただけたのがありがたくて、自信になりました。

――今回の『青すぎる、青』の劇中ではショートカットですね。

上大迫 去年の11月に3週間くらいで撮りました。役柄的にこざっぱりした感じにしようと、監督やメイクさんとお話しさせていただいて、人生初のショートにしました。似合うか不安はあったんですけど、切ってもらったら「あれ? 全然普通だな」と思って(笑)。

――違和感はなかったと。

上大迫 そうですね。すごくさっぱりして、普段もボーイッシュな服を気軽に着られるようになりました。気分転換ができました。

学生時代に歩いてた道で撮るのは不思議な感覚

――『青すぎる、青』は祐希さんの地元でもある鹿児島で撮影されました。佐多岬とかは馴染みの場所だったんですか?

上大迫 佐多岬には初めて行きました。鹿児島でも最南端にあって、県民でもあまり行かない場所なんです。鹿児島市内でのロケでは、私自身が学生時代に普通に歩いていた道で撮ったりして、不思議な感覚でした。

――演じた美巳はフェリーを交通手段として使っていて。

上大迫 鹿児島市内と桜島を15分くらいで繋ぐフェリーに乗船して撮りました。何往復もずっと乗りっぱなしで、どっちに向かっているのか、わからなくなって(笑)。高校時代はロードレース大会で桜島にある公園の外周を走るために、フェリーで行っていて。私はそのイメージが強かったです。

――この映画では「心揺れ動く、卒業間近の女子大生を丁寧に演じている」と紹介されていて。王道の青春系かと思いましたが、冒頭から美巳が夜空に浮かび上がったり、ファンタジー要素が入ってますね。

上大迫 私も初めはプロットだけをいただいたんです。監督と何度かお会いして、お話しさせてもらいながら、「ファンタジーものを作りたい」ということで脚本が肉付けされていく感じでした。美巳は卒業制作に悩んでいますけど、当時の私自身、大学で卒業制作に取り組んでいたので、そこもかいつまんで脚本に起こしてくれたのかなと思いました。

何を表現するか見つからないのは自分と重なりました

――では、美巳は演じやすい役でした?

上大迫 美巳と親友の希良では、私は断然、美巳寄りでした。凛としてカッコいい希良に憧れを抱きながら、自分は何を表現したらいいのか見つけられずにいるところが、私の心情とすごくリンクしました。

――美巳は終始「何もわからない」と言ってましたが、そういうことが祐希さんにもあったと?

上大迫 人と比べてしまったり、自分の居場所が見つけられないのは、芸能の世界で感じていたことです。美巳みたいにわかりやすく閉じこもったり、イヤになって走り出すような行動はしないにせよ、そういう気持ちは私も抱えていました。

――美巳は夜のフェリーで窓に映る自分に、「お前は何がしたいんだよ?」とつぶやいたりもしていました。

上大迫 私はやりたいことはありつつ、どう向かっていけばいいかわからず、悩むことが多かったです。人と比べたときの劣等感や不甲斐なさ。私だからできることは何なのか。人に勝ることができるのか。そういったことを考えて、モヤモヤしてしまって。

――クライマックスでは美巳が胸のうちをぶちまけて、「私は何から卒業するの?」とも叫んでいました。祐希さんは大学と同時に何かから卒業した感覚はありました?

上大迫 この映画を撮るまでの私は、自分のできないところにばかり、目が行っていたんです。芸能でもそうだし、大学でも友だちの作品を見て「こんなふうにできたらいいのに」とか、羨ましさだけがあって。でも、美巳を演じることで、等身大の自分のままでぶつかっていけばいいんだと、教えてもらったような気がします。今の私ができることを他の人と比べる必要はない。そこから少し前向きになりました。

平凡な人間の立ち位置を大事にしようと

――先ほど、「美巳と希良なら美巳寄り」とのお話がありました。でも、世の中の多くの人がそうだと思います。前回の取材では「田舎の子の役なら任せてほしい」と話されてましたが、より広く「普通の子」を演じるときのリアルさが強みになりそうですね。

上大迫 このお仕事をしている方々の中で、私は平凡な人間だと思っています。物語の中でも、1人の普通の人として見てもらえる立ち位置を大事にしたいです。物語が終わっても、どこかで生活していそうだなと思われるお芝居を、目標にしているので。

――ご自身を平凡だと位置付けているんですね。

上大迫 お仕事で同世代の方たちとご一緒すると、皆さんキラキラして見えます。私は鹿児島にいた頃とそんなに変わりなく、気持ちも当時のまま。この先も、きっと東京に染まり切らない気がしていて。それが強みになると今は思えているので、無理に変わろうとしなくていいかなと。

――祐希さんが3位だったキネマ旬報の新人女優賞で1位の嵐莉菜さんはハーフの美形モデルで、それこそキラキラタイプでした。

上大迫 本当にそうですね。羨ましいところばかりですけど、競うものではないと思っています。

背伸びしてマイナス志向になった時期はあります

――自分もキラキラしたいと思った時期もありました?

上大迫 はい。やっぱり素敵な人、きれいな人に憧れはあるので。そこで自分を比べては落ち込んで、劣等感からどんどんマイナス志向になってしまった時期がありました。でも、自分が背伸びしてまで、そこのポジションに行く必要があるかというと、そうでもないと思えてきて。「私なんて」みたいに考えずに済むようになりました。そんな心情の変化があって、今の私がいられる場所を大事にしたい気持ちに至っています。

――東京で夜遊びするようになったりもしていませんか?

上大迫 ないですね。夜は家に帰って寝ています(笑)。

――遊びに行くとしたら、どんなところに?

上大迫 友だちと美術館や写真展に行っています。あとは、映画を観に行ったり。1人で過ごすことが多くて、お仕事終わりやお休みの日に、ふらっとどこかの公園とか、落ち着ける場所を探しに行きます。

――そんな祐希さんがロールモデルにしている人はいますか?

上大迫 好きな女優さんは杉咲花さんです。お芝居のパワーはもちろん、自分を確立されている印象があって。年齢はそんなに離れていませんけど、カッコ良く見えます。

――作品でいうと、どの辺から入ったんですか?

上大迫 最初は『湯を沸かすほどの熱い愛』です。そこから『夜行観覧車』とかいろいろ遡って観て、『おちょやん』では本当に素晴らしいと思いました。ずっと憧れの存在です。

何かにすがるしかない気持ちで叫んでいました

――『青すぎる、青』の話に戻ると、クライマックスの「降りてこい、バカUFO!」などと叫び続けるシーンは、どんな心境で撮ったんですか?

上大迫 あの前が美巳がずっと走っているシーンで、監督が私に気持ちを作らせるためもあってか、同じ場所を何往復もしたんです。息を切らして展望台まで来て撮ったので、感情を素直に乗せられました。あの場所から見える、海と空の青が広がる景色に吸い寄せられるようで、想いをすべて空にぶつける感覚になれました。

――集中して気持ちを作ったわけではなくて。

上大迫 あまり多く時間を取らず、1回テストして、すぐ本番に入りました。そこまでに感情のギアは作れていたので。「もう何かにすがるしかない」みたいな気持ちから叫んでしまう心情だったと思います。事前にたくさん練習したわけでもなく、あの場所に行ってから感情を持っていくつもりでした。

――映画が完成して観ると、自分で「こんな表情をしていたんだ」と思ったり?

上大迫 そうですね。気持ちを全面に出して叫んでいただけで、どう撮ってもらっているかは正直わからなかったので。「こんなふうになっていたのを希良が見ていたんだ」と思いました。

便利でないから自然のパワーを浴びられて

――「魂の通り道」とされたがじゅまるの木には、何か感じるものがありましたか?

上大迫 本当に神秘的な印象を受けました。軽い気持ちでは入れない、神聖な感じがあって。佐多岬には東京のような便利なものは一切なく、だからこそ、自然が持つパワーを全身で浴びられました。本当にロケーションには恵まれていた感じがします。

――美巳の伯母さんが食卓に出す郷土料理のあくまきは、作ったことはありました?

上大迫 映画で初めて作りました。鹿児島にいた頃はおじいちゃん、おばあちゃんがよく作ってくれていたので、日ごろから口にしていて。懐かしいと思いましたけど、作り方は終盤のシーンで初めて知りました。

――美巳は唯一の家族だった父親を亡くして、家業の店を切り盛りするために来てくれた伯母さんに素っ気なく接していました。

上大迫 ずっと反抗期で、中学生みたいでしたね(笑)。自分で「ありがとうくらい言えよ」とつぶやきながら、行動に移せない。子どもだなと思っていました。

自分が育った風景を写真に収めておきたくて

――撮影時期と重なっていた自身の卒業制作では、どんなことをしたんですか?

上大迫 自分が鹿児島で育って見てきた景色を収めた写真集を作りました。その話も監督にさせていただいて、だから美巳が写真を撮るひと幕もあったのかなと思いました。

――そっち系の大学なんでしたっけ?

上大迫 服飾系ですけど、私は映像を専攻していて。卒業論文でなくて制作という形で写真集を提出して、美巳と共に終わらせた感じです。

――美巳みたいに悩まずに?

上大迫 あれほどギリギリまで悩みはしませんでした。去年1年で、鹿児島の風景を撮るために帰ったりもしていて、両親の実家にも行きました。母方が奄美大島で、父方がさつま町。海と山のまったく違った景色が見られました。いつも食べているごはんとか、日常の風景を切り取ることが目的で、さつま町の家ではいまだにお風呂を薪で炊いていたり。東京ではなかなか撮れない写真も収められました。

――子どもの頃とは変わっていた景色もありませんでした?

上大迫 小学生の頃に住んでいた場所では、登ったらいけない山の道を通って川に遊びに行ってたんですけど、そこはガードレールが設置されて、入れなくなっていました。でも、景色はあまり変わってなくて。自己満足の写真集になりましたけど、改めて見返すと、こんな素晴らしい風景の中で当たり前に生活していたことを、再認識しました。

きっと私は変わらないと思います

――今年は舞台出演が続いていますが、次はドラマも目指しますか?

上大迫 まだ出たことがないので、地上波でも配信でも、ドラマに携わりたい気持ちは強いです。『ブラッシュアップライフ』がすごく面白くて、ああいう作品に出られたらいいなと思いました。友だちとの日常を切り取ったようなテイストが好きです。

――祐希さんはNHKに好まれそうな感じがします。

上大迫 本当ですか? 朝ドラも大河も憧れで、いつか出演するのが最大の目標です。

――東京に染まらないという強みは、これからも保てそうですか?

上大迫 はい。今、上京して5年ですけど、きっと私は変わらないし、変えられないと思っています。もちろん変えていきたい部分もあって、良い方向に自分を持っていけるように意識して、頑張りたいです。

――どういう部分は変えたいと?

上大迫 性格的に優柔不断だったり、言葉にするのが苦手なところですかね。ものごとを伝えることの難しさはすごく感じているので、切り替えていきたくて。

――1人でシャレたバーに行くようになりたい、とかは?

上大迫 まだバーに憧れはないです(笑)。『青すぎる、青』をできるだけ多くの人に観ていただけるように、自分からも発信していくのが、今年の残りの目標です。

――クリスマスに盛り上がったりはしませんか?

上大迫 友だちと会うくらいですかね(笑)。

アイエス・フィールド提供
アイエス・フィールド提供

Profile

上大迫祐希(かみおおさこ・ゆうき)

2000年12月28日生まれ、鹿児島県出身。

2021年に『スパゲティコード・ラブ』で映画デビュー。映画『神田川のふたり』、『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』、舞台『ショウは終わった』、『ウェルカム・トゥ・ホープ』などに出演。主演映画『青すぎる、青』が11月4日より全国公開。

『青すぎる、青』

監督/今関あきよし 脚本/小林宏利

出演/上大迫祐希、原愛音、肥後遼太郎、窪塚俊介、佐伯日菜子ほか

鹿児島ミッテ10で先行公開中、11月4日より新宿ケイズシネマほか全国順次公開

公式HP

唯一の家族だった父親を亡くし、心に穴が開いたままの美巳(上大迫祐希)。父の代わりに店を切り盛りするためにやって来た伯母・嘉子(佐伯日菜子)との向き合い方もわからず、訳もなく当たり散らしてばかり。前向きな親友の希良(原愛音)と裏腹に、美大の卒業制作も手を付けられずにいた。そんな美巳に変化が起こり、見えないはずのモノが見え、聴こえないはずの声が聴こえるようになって……。

(C)2023「青すぎる、青」製作委員会
(C)2023「青すぎる、青」製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

斉藤貴志の最近の記事