メッシとバルトメウ会長の深まる溝。減給とレイオフをめぐる対立構造。
バルセロナが、揺れている。新型コロナウィルスの影響でクラブ財政が圧迫され、リオネル・メッシをはじめとする選手たちとジョゼップ・マリア・バルトメウ会長をトップに据える理事会の溝が深まる事態になっている。
争点となったのは、ERTE(レイオフ/一時解雇)適用と減給の問題だ。リーガエスパニョーラを含め、欧州5大リーグは新型コロナの影響で現在中断している。それによる収入減が見込まれ、バルセロナは厳しい財政を前に対策を講じなければいけなくなった。
■メッシの「発表」
2019-20シーズンのバルセロナの予算は10億4700万ユーロ(約1256億円)になる見込みだった。だがリーガの11試合、チャンピオンズリーグにおいては(最大で)6試合を残す状況で、大きな収入源であるテレビ放映権による資金調達の先行きが不透明になっている。
また、入場券、バルセロナが営むサッカースクール、グッズ販売、ミュージアムやスタジアム観戦ツアー、チャンピオンズリーグ出場権獲得、そういったものから得られる収入さえ、計算できない状況だ。
そこで、バルセロナはERTEの適用と選手たちのサラリーの70%カットを考慮。バルトメウ会長が主将たち(メッシ、セルヒオ・ブスケッツ、ジェラール・ピケ、セルジ・ロベルト)と話し合いの場を設けたものの、すぐには合意に至らず、交渉が続けられていた。その間、メディアでは、「選手たちが申し出を断っているのではないか」という憶測が流れた。
最終的には、メッシが自身のソーシャルメディアを通じて、減給を受け入れる旨を「発表」した。その後、クラブがERTR適用を公式声明で伝えた。地元紙『スポルト』のインタビューで選手たちが最初から減給を受け入れる姿勢だったことを明かしたバルトメウ会長だが、後の祭りだった。不快感を隠せなかったメッシが、一連の騒動におけるクラブの対応を批判するニュアンスのコメントを残していたからだ。
■言葉の重み
今季、バルセロナの選手たちと首脳陣との関係性は悪化の一途を辿っている。今季開幕前には、ネイマールの再獲得に動いたが、移籍成立には至らなかった。
1月に行われたスペイン・スーパーカップ準決勝でアトレティコ・マドリーに敗れた際には、責任を負う形でエルネスト・バルベルデ前監督の契約解除が発表された。シーズン途中の事実上の解任だった。そして、バルベルデの解任をめぐり、スポーツ部門のエリック・アビダルとメッシが舌戦を繰り広げることになった。
バルセロナで、メッシの負担は日を追うごとに増している。ピッチ上でのパフォーマンスだけではなく、ピッチ外でも彼をスケープゴートにする流れが加速しているためだ。メッシが補強に口出しをしている、メッシが減給を拒んでいる、メッシが新しい監督を望んでいる...。根も葉もない噂を書き立てられ続け、それをクラブが守ってくれないのであれば、彼が辟易するのも無理はない。
度々、D10S(『神』を意味するDIOS/ディオスと背番号10をかけた造語)と称されるメッシだが、彼は神ではない。人間だ。ピッチを離れたら、32歳の普通の青年である。メス・ケ・ウン・クルブ(クラブ以上の存在)を謳うバルセロナだからこそ、いま、メッシの言葉を重く受け取るべきだ。