ノート(76) 音楽プロデューサーによる著作権をめぐる詐欺事件との出会い
~回顧編(1)
勾留27日目(続)
プレゼンテーション
大阪地検特捜部では、毎年4月初めや新部長着任の際、各検察官が特捜部長に対して手持ち事件の説明を行う。中堅や若手の検事らが捜査主任を務める機会もあるからだ。
他方、東京地検特捜部には、こうした慣行がない。東京では、内偵段階の段階から3つの班の「キャップ」、すなわち年次の序列で班内最上位の班長がそれぞれ捜査主任を務め、配下の班員を指揮して捜査を進めているからだ。
詐欺や横領、背任など様々な罪名の告訴状や告発状こそ大量に舞い込むが、起訴できそうな事件だとキャップに配点されたり、刑事部や警察などに回されるし、不起訴相当の事件だと数名の検察官で構成される直告受理係で処理される。
これに対し、大阪では、直告受理係が1名だけで、時として副部長がこれを兼ねており、「前さばき」を完全に行うことなどできないことから、そうした事件も個々の検察官に配点されている。
起訴相当の事件のうち、社会の関心が高いものや人手を要するもの、難解なものなどの場合、年次が上の経験豊富な検事に配点されてはいるが、これからこぼれるものの中にも、強制捜査を要するケースはある。
いくら東京特捜の経験が長くても、キャップを務めなければ、特捜部が手がける事件で幹部決裁を受けたり、逮捕状や捜索差押許可状を請求することはない。
逆に大阪特捜では、たとえ年次が最も下の検事でも、事件を掘り起こして着手すれば捜査主任となり、決裁を受け、逮捕状などの請求も自ら行う。
期が上の先輩検事らに捜査班に入ってもらい、彼らから「主任、主任」と呼ばれ、その応援を得ながら捜査を進めるので逆に気を使うが、それでも、組織マネジメントや幹部に対するプレゼンテーションの能力は磨かれる。
手持ち事件の中身
大阪特捜における検事らの手持ち事件は、おおむね次の3つに分類される。
(1) 告訴・告発事件のうち、不起訴見込みのもの
(2) 告訴・告発事件のうち、起訴見込みのもの
(3) 告訴・告発とは無関係に、自ら独自に内偵捜査を進めているもの
(1)や(2)は、直告受理係や副部長、部長を経て、自らに配点されている事件のことだ。配点当初は起訴見込みという触れ込みだったが、その後の捜査で不起訴相当となったものは(1)に、逆の場合は(2)に分類される。
(1)と(2)を合わせ、検察官1人あたり10数件あるが、(1)がほとんどで、(2)は1件あるかないかだ。
(3)は、例えば、全く別の事件で押収した証拠物や取調べで得た情報、報道を含めてマスコミから得た情報、大型の公共工事などにまつわる様々な周辺情報、特捜検事が個人的に抱えている情報源からの情報、投書やタレコミなどによる。
経験の浅い若手検事だと、内偵捜査を独自に行うノウハウなど知らないので、(3)は1件もない。
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