野党候補の争いとなった韓国大統領選挙 どっちが勝っても対日、対北政策は同じ!
韓国大統領選挙は5月9日の投票日まで後、1週間と迫った。
選挙戦は事実上、旧与党「自由韓国党」の洪準杓候補、野党第1党の「共に民主党」の元代表である文在寅候補、野党第2党の「国民の党」の前代表である安哲秀候補の3人の争いとなっているが、いずれの世論調査でも支持率では文在寅候補がトップを走っている。
直近の世論調査をみると、「リサーチ&リサーチ」(4月29~30日)は文候補が39.4%、安候補20.8%、洪候補16.2%。「リアルメーター」(4月28-29日)は文候補44.1%、安候補21.8%、洪候補16.6%。「韓国社会世論研究所」(4月30日)は文候補41.4%、安候補22.1%、洪候補16.6%と、文候補が二人を大きく引き離している。一時は安候補に逆転されたこともあったが、今ではダブルスコア―の差だ。
このままだと文候補が逃げ切る公算が強いが、当確を打つにはまだ早すぎる。というのも、過去の大統領選挙では直前の異変で逆転するケースが何度もあったからだ。
例えば、1987年の大統領選挙は約2週間前に発生した北朝鮮による大韓航空機爆破事件が追い風となり、投票日前日に実行犯の金賢姫が拘束されたバーレンから韓国に連行されてきたことで序盤苦戦が伝えられていた与党の盧泰愚候補の当選を決定付けた。
また、1997年の大統領選挙では野党の金大中候補が仇敵だった第2野党の自民連代表の金鍾泌元首相との提携により与党の李会昌候補に逆転勝利した。さらに、2002年の大統領選挙も、泡沫候補とみられていた革新系の盧武鉉大統領が「国民統合21」という新党を結成し、出馬表明した現代財閥の6男で、大韓サッカー協会会長を務めた鄭夢準候補との一本化が土壇場で成立し、再出馬の保守系李会賛候補を破り、番狂わせを演じている。
罷免された朴槿恵大統領も前回の大統領選挙(2012年)では投票率が70%以上だと不利とみられていたが、投票率が75.8%に上ったのに蓋を開けてみると、支持層である高齢者の投票率が野党の文在寅候補を支持する若い層より上回ったことで接戦を制し、初の女性大統領となった。何が起きるかわからないのが韓国の選挙だ。
もう一つ言えることは、韓国の世論調査は民意を反映してないため外れるケースが多いことだ。直近では大番狂わせとなった昨年4月の総選挙が挙げられる。
韓国のメディアの世論調査ではいずれも与党(当時セヌリ党)が過半数(151議席)を越え、安定多数の162議席以上は確実と予想されていた。中には3分の2に迫ると予想したメディアもあったが、結果は122議席と、過半数を大きく割り込み、第1党の座を野党に明け渡すなど与党は惨敗を喫した。
今回の大統領選挙は現状では文候補の優位は動かないものの、二番手に付けている安候補がどこまで追い上げるかが焦点となりそうだ。どちらにせよ、韓国大統領選挙史上初の野党(革新系)候補同士の争いになりそうだ。
日本のメディアは安候補を中道もしくは保守中道とみなす向きもあるが、そもそも安候補も文候補とは同じ革新系の党(新政治民主連合)に属していた。袂を分かれたものの、同じ釜の飯食った仲間であり、根っこは一緒だ。換言するならば、盧武鉉政権時代、大統領秘書室長を務めた文候補が急進左派ならば、安候補は本質的には穏健左派と言っても過言ではない。文候補が「左」だから、「右」を取り込むため選挙対策上「中道」を装っているに過ぎない。何よりも、安候補を担ぐ「国民の党」の地盤は全羅道で金大中大統領の流れを汲んでいる。従って、二人の政策や考えに大きな違いは見られない。例えば、北朝鮮政策だ。
文候補は6者会談など多様な両者、多者会談を積極的に活用することと北朝鮮の核廃棄に伴う朝鮮半島平和協定の締結を公約に掲げているが、安候補もまた4者会談及び6者会談の再開と平和体制の構築を目指すとしている。どちらが当選しても、対北政策は過去10年間の李明博―朴槿恵政権の北風政策から金大中―盧武鉉政権下の太陽政策にシフトすることになるだろう。
但し、細部では若干違いがある。文候補は昨年2月に韓国政府が北朝鮮への独自制裁として操業を停止した南北経済協力事業、開城工業団地の操業再開や南北間の社会文化交流の活性化といった公約を掲げているが、安候補は開城工業団地の操業を直ぐに再開することはないとしている。
また、安候補が国際社会と共に制裁を掛け続けるとしているのに対して文候補は制裁については言及してない。一方で、文候補は安候補と違い、南北間の軍事的緊張緩和の推進を公約に掲げている。
南北首脳会談についても文候補は「米国よりも先に平壌を訪問する」と積極的なのに対して安候補は「核問題の解決に役立つと判断した場合に行う」との条件付きだ。温度差はあるものの南北対話を推進する考えには変わりがない。
安保については両者の公約はほとんど同じだ。
文候補は「強い韓国」と「強固な米韓同盟」を口にしており、北朝鮮の核に対応するための核心戦略(KAMID/キルチェーン)の早期戦力化を目指すとしている。一方の安候補も「自強安保」の推進と、対北優位軍事力の維持、戦略兵器の大幅増強を唱え、キルチェーンの早期完了を主張している。二人とも、「強固な米韓同盟の基礎の上での」(文候補)あるいは「米韓連合防衛体制を存続させた上での」(安候補)戦時作戦統帥権転換の準備進めるとしていることでも共通している。
高高度ミサイル防衛システム(THAAD)についても両候補とも当初は反対の立場に立っていたが、文候補は即反対ではなく、「新政権下で慎重に検討する」し、「北朝鮮が核実験した場合は設置に同意する」と条件付きながら前向きの姿勢を示している。一方の安候補は保守層の支持を取り付けるためか、反対から一転、賛成に方向転換しているが、早期設置については異論を唱えている。両者とも国民の理解と支持がTHAADの設置の前提であるという点では同じ認識に立っている。
二人の違いをあえて挙げるならば、民族主義者の文候補は「米国にノーを言える大統領」になるが、安候補は金大中元大統領のような「親米大統領」を目指していることだ。
対日政策はどうか?慰安婦問題に関する日韓合意をどうみているのか?
(参考資料:韓国大統領候補全員が日韓合意見直し、少女像撤去には反対)
結論を先に言うなら、両候補とも日本との慰安婦合意については揃って「再交渉」を主張しており、また大使館や領事館前に設置されている少女像の撤収には反対の立場だ
文候補は自身のフェイスブックで「日本は大使や総領事を召喚し、通貨スワップ協定再交渉を中断するなど強硬な措置を取っている、一体全体、我が政府は何の合意を交わしたのか」と怒りを露わにし、合意見直しと新たな交渉を求めていた。
安候補もまた合意の再交渉を主張しているが、文候補と違って、日本が領有権を主張する独島(竹島)問題の解決も公約としている。
両候補とも経済政策でも財閥の改革や雇用の創出、中小企業の保護などで差異はなく、結局、今回の大統領選挙は60代の文候補(64歳)を選ぶのか、50代の安候補(55歳)を選ぶのかが唯一の争点かもしれない。