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負傷した軍人は北朝鮮兵? ウクライナが「証拠」として公開した映像に疑問符!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
ウクライナの偽情報対策センターが公開した北朝鮮兵士(U now テレグラムから)

 北朝鮮がロシアに派兵した兵士の多くはウクライナが侵入し、占拠したロシア西部のクルスク州に配備されている。その数は約1万1千人で、韓国やウクライナ情報当局の発表では「暴風軍団」と呼ばれている特殊参戦軍所属の特殊部隊とされている。

「暴風軍団」と呼ばれている北朝鮮の特殊作戦部隊員(朝鮮中央通信から)
「暴風軍団」と呼ばれている北朝鮮の特殊作戦部隊員(朝鮮中央通信から)

 北朝鮮の援軍がロシアに派遣されたのは10月で、11月には激戦地クルスクに配属されたことはウクライナ当局だけでなく米当局も韓国当局も確認している。

 ウクライナのセルヒー・シャプタラ総参謀長は11月24日、ウクライナのテレビを通じて「北朝鮮兵士らはクルスク前線でウクライナ軍と交戦している」と述べ、またゼレンスキ―大統領も今月1日に「共同通信」とのインタビューでクルスクに派遣されている北朝鮮兵士の中に「死傷者が出ている」と語り、約2週間後の13日には「大量の北朝鮮兵士が本格的に最前線に投入されている」と発言していた。

 さらにウクライナ国防省情報総局は今月16日、ウクライナが越境攻撃をしているクルスク州の前線付近でロシア軍と共に戦っている北朝鮮兵のうち「少なくとも30人が週末に死傷した」と伝えていた。死傷者はクルスク州のプレホボ村、ヴォロジバ村、マルティノフカ村付近で確認されたとのことである。

 このウクライナ国防省情報総局の情報について米国防総省のライダー報道官も同日、記者団に対して「北朝鮮兵士がクルスクで戦闘に参加したと判断している」として断定はしなかったものの「死傷者が出た兆候もある」との見解を述べていた。

 そうした最中、ウクライナ国家安全保障防衛会議傘下の偽情報対策センター(CCD)は先週の18日、北朝鮮兵士とみられる複数の男たちが廊下を歩いている13秒の映像をSNSで公開していた。その中には足を引きずったり、包帯が巻かれた手を押さえたり、あるいはベッドで横たわっている兵士の姿もあった。

 クルスク州やモスクワ州にある「北朝鮮兵のための病院」は「負傷した兵士でいっぱいになっている」との情報もあり、ウクライナ当局は18日午前の時点で北朝鮮兵の死傷者について「200人以上」と発表している。

 韓国の情報機関・国家情報院(国情院)も19日には「少なくと100人が死亡し、負傷者は1000人に達する」と国会に報告していた。

 直近の情報としてウクライナ特殊作戦軍19日、クルスク州にあるウクライナ軍の陣地を襲撃してきた北朝鮮兵を「12人を殺害し、20人に負傷を負わせた」と伝えている。

 最前線の激戦地に投入され、ウクライナ軍と正面から交戦すれば、当然のこと、死傷者は出る。ロシアと北朝鮮がいくら沈黙をしても、覆い隠せるものではない。

 ウクライナ情報当局は死者が北朝鮮兵であることを隠すため顔を焼き、また、身分証も朝鮮人に容貌が比較的近いヤクート人やブリヤート人として発行するなど偽造工作をしていると暴露しているが、ロシアも北朝鮮も北朝鮮兵の存在を今なお否認しているだけにこうした偽造工作は十分にあり得る話だ。

 しかし、ウクライナ当局もまた、欧米からの軍事協力を早急に取り付ける必要性から北朝鮮の「参戦」を殊更にクローズアップさせる一方で「北朝鮮の弾薬やミサイルは不良品が多い」とか「北朝鮮はロシア軍の足手まといになっている」等の情報を意図的に流し、露朝に楔を打ち込むための様々な心理戦や攪乱戦を駆使していることもあってウクライナ側の発表をすべて鵜呑みにできないもまた事実である。

 例えば、ウクライナの偽情報対策センターが18日に公開した「北朝鮮兵士」らしき兵隊らを見ると、彼らのヘアスタイルは明らかに北朝鮮兵士らと違うことに気づく。

 

 北朝鮮兵士は将校以外は短髪か坊主で、長い髪や前髪を垂らしている兵士は皆無である。それは、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が10月2日、西部地区の朝鮮人民軍特殊作戦部隊の訓練基地を視察し、戦闘員の訓練の視察した時の前出の写真と比較すると一目瞭然である。

北朝鮮の丸刈りの兵士(朝鮮中央テレビから)
北朝鮮の丸刈りの兵士(朝鮮中央テレビから)

 

 交戦状態に入って1か月以上が経ち、北朝鮮兵の死傷者が200人から1000人に上るとみられているのに、また、ウクライナが北朝鮮兵士に向け投降し、韓国での幸せな生活を送るよう促すビラを撒いているのに未だ「決定的な証拠」となる脱走者や捕虜を一人も確保できないのがウクライナ当局にとっては痛いとこである。

 国際社会に北朝鮮の「戦争犯罪」を訴えるには殺傷するよりもなによりもウクライナ特殊部隊がまずは北朝鮮兵士を一人でも二人でも生け捕りするのが先決のようだ。

(参考資料:ゼレンスキー大統領の「北朝鮮兵士が死傷」発言は今度こそ、本当!?)

(参考資料:「北朝鮮兵士500人戦死」の信憑性 ウクライナ戦場での熾烈な情報、心理、攪乱戦!)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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