「生活用水がない、ポリタンクもない、警察官もいない、トイレも我慢、暮らし見えない」清水区からのSOS
■生活用水が足りない、トイレも我慢
大規模断水から3日目、静岡市清水区の現場に入った。
現地では飲料水以上に、トイレや手洗い、風呂、洗濯などに使える生活用水が足りていない。給水を受けるためのポリタンクも不足しており、地域のホームセンターから商品が消えた。
取材でお話を伺った母と娘の親子は、家にある衣装ケースを代用して、離れた駐車場に停めた車まで苦労しながら水を運んでいた。
ポリタンクを求めて山梨県まで買いに出たという住民もいた。
清水区入江に工場を構える巴川製紙所は、余剰分の工業用水を住民の生活用水に役立ててもらおうと、急遽、敷地の二か所に給水所を設置。ペットボトルや大きなビニール袋を持った住民たちなど、長い列ができていた。
午後6時に給水所の一つを閉める予定にしていたが、住民の列が絶えないため、担当者の判断で急遽水を追加し要望に応えた。
現場担当者は「余剰分の水があったので、こうした給水ができていますが、それがなかったら厳しかったと思います。少しでも地域に貢献できればという会社の判断です」と語り、水を求めにやってきた人たちに「まもなくタンクの水がなくなりますが、追加しますので安心して下さい。十分ではないかもしれませんが」と、呼びかけていた。
■信号も消えた、通行止めもあった、でも警察官はいなかった
午後7時前、清水区内では幹線道路から抜け道まで激しい渋滞が発生していた。
水を求める人、食事を求める人、資材を求める人、様々な事情から、災害の影響を受けなかった他の地域まで足を運ぶ人が少なくないからだ。通常だと10分ほどで移動できる距離も、渋滞の影響で1時間近く余計にかかった。
住民の話によると、台風の影響で停電が発生し、信号機がつかなくなったものの、交通誘導をする警察官の姿などはなく、ドライバー同士が互いに気をつけながら通行をするしかなかったと振り返る。
今日も、取材中、渋滞を避け迂回路を探したものの、ところどころ通行止めが発生し立ち往生することもあった。事前に交通を整理する警察官の姿などはなかった。
住民からは「安倍元総理の国葬の警備のため県内の対応が手薄になっているのではないか?」という声も聞かれた。
■断水を知らせる自治体の広報は発生から4〜5時間後
行政の対応は決して早いとは言えなかった。
清水区の住民で今も断水に悩む幾世恵さん(プライバシー保護のため下のお名前だけ)。断水は24日午後に突然始まったといい、行政からの広報はその4時間から5時間後だったと振り返る。
当初、テレビでの報道もほとんどなく、Twitterでの情報が頼りだったという幾世恵さん。自らもSNSを使って、清水区の窮状を知らせるため発信を続けた。自治体が国に対して自衛隊の派遣要請を行うのも遅すぎたと憤る。
「私たちが一生懸命、自分たちで発信せざるを得ませんでした。本来発信するべき立場の人たちがしっかりと情報を伝えてくれなかったように思います。市長は断水の解消は1週間程度かかると言っていましたが、その間、私たちはどのように暮らしを維持すればよいのか、もっと対策や見通しを説明して欲しいです」と語った。
■災害への意識高いはずだった静岡県、しかし・・・
さらに、今朝私に連絡をくれた清水区住民の久美子さんを訪ね、あらためて現場の状況を現地で説明してもらいながら話を聞いた。
今回の洪水では、区内でも1.3メートル以上の高さまで水が押し寄せたところがある。水に浸かり、被災した商店主たちからは「今必要なのは水、そして今後営業を再開するための補償の有無を知りたい」という要望が多いと訴える。
区内でも断水のあるところと、ないところでは情報の格差も生まれ、支援が必要な当事者たちが孤立していくような不安を感じたという。
また、静岡県は防災教育や訓練に力を入れてきた地域にも関わらず、今回、災害を目の当たりにして、情報も物資も十分に行き渡らない現状に大きな課題を感じたという。
「東南海地震などに備え、子供の頃から防災訓練を徹底的に受けてきたつもりでした。しかし、実際に被災者になってみると戸惑うことばかり。今回の災害対応で何が良くなかったのか、何ができなかったのか、もう一度点検しなおすことで、今後の防災に役立てなくてはいけないと思いました」と語った。
断水の原因は、地域に水を供給する興津川の承元寺取水口を堰き止めてしまった流木やがれき。一刻も早く撤去作業を進み復旧することを望みたい。政府や自治体は断水解消に向け、一致団結して対処の強化を図るべきだと強く要望したい。