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「分断を解消するため、彼が再び戻るのだ」トランプ大統領候補指名の日、ニューヨークで聞いた市民の声

堀潤ジャーナリスト
トランプタワーの地下一階のトランプグッズを売る店 客足は絶えなかった 撮影:堀潤

米大統領選挙に向けた共和党の全国大会で、15日夜、ドナルド・トランプ氏が正式に大統領候補に指名された。襲撃事件から2日後、壇上に現れたトランプ候補の右耳には白いガーゼがあてられていた。

タイムズスクエアのモニターではCBSニュースの中継が 撮影:堀潤
タイムズスクエアのモニターではCBSニュースの中継が 撮影:堀潤

筆者はこの日、ニューヨークにいた。中心街のタイムズスクエアの大型モニターでは共和党大会の模様がLIVEで配信されいていた。トランプ氏が大写しになると、観光客など人々が立ち止まって、スマートフォンで撮影する様子が目立った。

今回の大統領選挙、米国の有権者は何を思うのか。TOKYOMX「堀潤モーニングFLAG」の取材で各所で話しを聞いた。

タイムズスクエアは大勢の観光客でごった返していた。撮影:堀潤
タイムズスクエアは大勢の観光客でごった返していた。撮影:堀潤

取材の模様は映像にまとめてあるので、ぜひご覧いただきたい。

◆トランプ氏もバイデン氏もどちらも支持しない

最初に話を聞いたのは、前回の選挙ではバイデン氏に投票したという男性。今回の選挙ではまだ決めかねているということだった。

まず、トランプ氏についてどう思うのかを尋ねた。

海外からの観光客で溢れかえる中、米国市民かどうかの確認しインタビュー 撮影:白井浩太郎
海外からの観光客で溢れかえる中、米国市民かどうかの確認しインタビュー 撮影:白井浩太郎


男性)

彼についてどう思うかって?つまり、正直なところ、よくわからないんだ。あまり関心を持っていないけど、彼が命を落としかけたのは悲しいことだよ。選挙のために誰かが危険にさらされるべきではないと思う。それが僕の意見だね。うん、彼が銃撃されたことには驚いたけど、彼が生き延びたのは良いことだ。

堀)

アメリカの現状についてはどう思いますか?

男性)

アメリカの状況は他の国々から見て笑われていると思うよ。選挙やソーシャルメディアなど、いろいろと馬鹿げたことが起きているからね。もっと良くなるべきだと思う。

堀)

バイデン氏とトランプ氏、どちらの候補を支持しますか?

男性)

どちらも支持していないよ。前回はバイデンに投票したけど、今は何が起きているのかよくわからない。だから今はどちらも支持していない。バイデンは物忘れが多いと言われているし、彼に投票するかはわからない。トランプについてもまだ判断できないんだ。だから、今はどちらも支持していない。

◆「俺はコメディアンだ。選挙は、異常だよ」

さらに、タイムズスクエアの一角に集まる若者たちに声をかけた。すると、長身の男性が「俺はコメディアンだ」と言って握手を求めてくれた。インタビューをしていると伝えると、ぜひ話をさせてくれと快く取材に応じてくれた。

撮影:堀潤
撮影:堀潤

堀)

今回の選挙についてどう思っていますか?

男性)

今回の選挙は狂っているよ。トランプは狂っているし、バイデンも信じられない。

暮らしぶりを尋ねると。隣にいた女性が思わず割って入ってきた。

男性)

僕たちはみんな貧乏だよ。

女性)

水や食べ物の値段が上がっている。アメリカの状況はひどいよ。白人に差別されることもあるし。

マンハッタン中心部、5番街付近。子どもを抱えた女性が寄付を求めていた 撮影:堀潤
マンハッタン中心部、5番街付近。子どもを抱えた女性が寄付を求めていた 撮影:堀潤

日本総研が18日に公表したリポートによると、米国の個人消費は、良好な所得環境や株高による資産効果に支えられ、底堅く推移。しかし、所得水準の違いなどにより消費行動の階層格差が広がっている可能性。

とりわけ、若年層や低所得層の消費は抑制、クレジットカードなどの債務の延滞が増加し、信用環境の悪化により、追加的な借入余地も縮小している。


◆事件の後、警備増強「トランプタワー」前で聞いた、ジャーナリストの声

共和党全国大会から一夜が明けた16日、トランプ候補のお膝元、マンハッタン中心部にある「トランプタワー」を尋ねた。

事件後、警備は強化され、ニューヨーク市警の警察官たちが道路を規制し、出入り口にポリスボックスを設置するなどして、通行人や訪問者たちの確認を続けていた。警察犬が絶えず、人々の動向に目を光らせているのも印象に残った。

撮影:堀潤
撮影:堀潤


トランプタワーの前には、国内外のメディアが集まっていた。ジャーナリストたちは今回の襲撃、そして大統領選をどうみているのか。ABC NEWSのカメラマンが取材に応じてくれた。

ABC NEWSのカメラマン、マービックさん 撮影:堀潤
ABC NEWSのカメラマン、マービックさん 撮影:堀潤


堀)
今回の選挙は普通ではありませんよね。どうみていますか?

男性)

ジャーナリストとして、選挙に関して自分の意見を挿入するのは難しいです。仕事は公正に報道することですから。個人的な意見は重要ではなく、バイデンやトランプについて特定の意見を持っているとストーリーに挿入するべきではないと感じます。

撮影:堀潤
撮影:堀潤

最終的には、投票するときに自分の意見を表明しますが、ジャーナリストとしては中立的な視点で報道するのが仕事です。元大統領が撃たれたことについては、それは馬鹿げていて起こるべきではなかったです。彼についてどう思うかに関わらず、誰も撃たれるべきではありません。そして、犠牲になった人々のことも忘れてはいけません。亡くなった方や負傷した他の人々もいます。

その人々についても話さなければなりません。その人々のことを考えるべきです。父親であり、コミュニティの重要な一員でした。その人を失い、他の負傷者も出ました。トランプ氏が死ななかったのは幸いですが、もっと悪い事態になり得たでしょう。すでに悪い状況ですが、人が亡くなっています。それ自体が悪く、ひどいことです。

撮影:堀潤
撮影:堀潤


堀)
民主主義が危機に直面しています。世界の分断も進んでいます。


男性)

なぜそんな状況に陥る必要があるのでしょうか。意見の違いがあっても、なぜあなたを殺さなければならないのでしょうか。選挙の結果については、選挙の週まで待つべきです。誰もが異なる見解を持つかもしれませんが、結果を待ってみるべきです。

民主主義のプロセスを進行させ、投票させ、その結果を見るべきです。民主党は困難に直面しています。共和党が勢いを持っていますが、最終的には投票数が次の大統領を決定します。これが民主主義のプロセスの美しさです。

誰もが傷つくことなく、民主主義のプロセスが進行することを願っています。

堀)
民主主義を守るために、私たちが個人としてできることは何でしょうか?

男性)

民主主義の価値を守るためには、お互いの意見を尊重する必要があります。すべての人が同じ意見を持つ必要はありません。あなたがリンゴが好きで、私はオレンジが好きなら、それでいいのです。民主主義のシステムでは、意見の違いを持つことができるべきです。それが民主主義の本質です。それが私の意見です。

撮影:堀潤
撮影:堀潤

堀)
バイデン氏、トランプ氏、それぞれについてどう考えていますか?

男性)

リーダーにはそれぞれ異なるリーダーシップのスタイルがあります。各サイドには異なる選択肢があります。人々はそれぞれの理由でバイデンを好むかもしれないし、トランプを好むかもしれません。それがあなたの権利です。

ジャーナリストとして、私の仕事は中立を保ち、人々の違いを尊重し、どちらの意見にも平等に対応することです。それが民主主義のシステムです。

◆「誰が勝っても納得のいかない大統領選挙」

トランプタワー前でのインタビューを続けていると、バイデン氏が唯一の選択肢だと語る女性、ミアさんに出会った。しかし、表情は決して明るくはない。

撮影:堀潤
撮影:堀潤


堀)
選挙についてどう思っていますか?

女性)
正直なところ、混乱しています。良い候補者がいないし、アメリカは分裂しています。銃撃事件もあって、良くない状況です。誰が当選しても満足する人はいないでしょう。

堀)

世界が分断しています。

女性)

その通りですが、さらにアメリカは非常に分裂していて、どの危機にも同意できないでしょう。人々がどちらを選ぶかは難しいです。

私はバイデンに投票しますが、トランプは嫌いです。でもバイデンが最良の選択かどうかもわかりません。私たちに与えられた唯一の選択肢です。

◆「彼は分断を解消するために戻ってくる」トランプ支持者の声

トランプタワーの地下一階にある店を訪ねた。

トランプ氏のグッズを専門に販売するこの店。オーナーのロジャー氏はトランプ氏と17年以上の付き合いがあるという。熱烈なトランプ支持者の一人だ。

撮影:堀潤
撮影:堀潤


男性)
彼とは17年以上の付き合いがあります。

私は多くのビジネスを持っていて、以前にトランプ氏が私にこのビジネスを任せるように招待してくれました。2015年に彼がエスカレーターから大統領選に出馬することを発表したとき、皆がその場で写真を撮っていました。

その翌日、私は彼にメールを送りました。2015年8月に彼に「あなたは次の大統領になるでしょう」と伝えました。選挙前にそう言ったんです。彼は私を上に呼んで、サインをくれました。「ありがとう、ロジャー」と言ってくれました。

それからニューヨーク・タイムズが、私の大きな記事を掲載してくれました。

「この男はトランプに賭けている」と書かれました。これが私です。なぜ私なのか?この記事を見てください。この記事を撮ってください。この記事が私とトランプ氏についてすべてを教えてくれます。

堀)今回の銃撃事件についてどう思いましたか?

男性)
銃撃事件が起きたとき、私は建物の中でライブを見ていました。午後6時15分頃に起こったことを見ていました。すべてがショックでした。みんな驚き、緊張しました。こんなことは誰にでも起きるべきではありません。彼は圧勝するでしょう。私はすでに彼に100百万票以上を獲得するとメールしました。

彼は最高の大統領になります。彼は再びすべてを変えるでしょう。彼は世界を次のレベルに引き上げるでしょう。

現在、すべてが非常に悪い状態にあります。法と秩序がなく、安全もなく、清潔さもありません。すべての価格が上がっています。ガスの価格、食料品の価格が40%上がっています。普通の人々が生きていくのは非常に難しい状況です。70%以上の人々が給料から給料まで生きています。

2016年から2020年までの間、トランプ氏が大統領だったとき、すべてが正常でした。人々は幸せでした。犯罪もありませんでした。みんなが幸せでした。世界全体が異なるレベルにありました。

今はすべてが変わりました。

だから彼を戻したいんです。そして彼は戻ってきます。

撮影:堀潤
撮影:堀潤


堀)
世界は完全に分断されていますよね?

男性)
それは良くないことです。だからトランプ氏が大統領になれば、必ず団結するでしょう。100%団結します。彼が大統領になったとき、すべてを忘れて、ただ団結して、すべてを元に戻すために協力すると言っています。キャンペーンでいつもそう言っています。

堀)バイデン氏についてはどう思いますか?

男性)
バイデンは戦争のリーダーとして強くありません。彼は強くあるべきですが、10時から8時までしか働けないと言われています。それはリーダーとして適切ではありません。何かが起こったときにすぐに対応できるべきです。トランプ氏とバイデンを比較すると、バイデンにはスタミナがありません。

堀)
トランプ氏の強みは何ですか?

男性)
彼は非常に強力なリーダーです。すべてが元に戻り、経済は良くなり、国境は安全になります。世界全体が安全な状態になるでしょう。

撮影:堀潤
撮影:堀潤


◆トランプ大統領再選で「格差は開く」試算も

前半で紹介した、日本総研のリポートによると、トランプ氏が次期大統領に再選される場合、所得格差は一段と拡大する見込みだ。

トランプ氏が保護主義的な通商政策を掲げ、関税を大幅に引き上げる方針が理由。

これは、輸入物価の上昇を通じて、家計負担を増大させる見込み。なかでも、消費に占める輸入品割合が高い低所得層の負担が増す可能性が高いという。

トランプ氏は、関税引き上げによる家計負担の増大を減税で補うというが、減税の恩恵は高所得層に偏り、低所得層への恩恵は小さいとみている。ピーターソン国際経済研究所の試算によると、関税引き上げとトランプ減税延長が同時に実施された場合、上位1%の高所得者層では税引後所得が1%強増加する一方、低所得者層では所得が3.7%減少する。


ジャーナリスト

NPO法人8bitNews代表理事/株式会社GARDEN代表。2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーター、「Bizスポ」キャスター。2012年、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校で客員研究員。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。2021年、株式会社「わたしをことばにする研究所」設立。現在、TOKYO MX「堀潤LIVE Junction」キャスター、ABEMA「AbemaPrime」コメンテーター。2019年4月より早稲田大学グローバル科学知融合研究所招聘研究員。2020年3月映画「わたしは分断を許さない」公開。

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