8月28日から不動産取引時に水害リスクの説明が必須に!ハザードマップを読む際の落とし穴に注意を
2020年8月28日から不動産の売買や賃貸借の時の重要事項説明に水害リスク情報が加わりました。
地震であれば古い家が倒壊することが多いのですが、水害について気になるのは、新しく建てられた家も被災しているということです。
そして、昔から住んでいる人に聞くと、「あそこはよく水に浸かる地域だから」と明かされることも決して稀ではなく、もっと早く知っていれば、土地を買ったり借りなかったのにという声も出ています。
さらに、たとえ一部損壊といっても、床上にわずかでも浸水すれば、壁紙や断熱材が水を吸い上げ、気づかず放置したことでカビが蔓延し、天井を含め広い範囲の修繕が必要になって、数百万円も費用がかかることもあります。不動産取引をする際に、水害リスクを知らないということは、その後の一生を左右することにもなりかねません。
そこで、2020年7月に宅地建物取引業法施行規則が改正され、8月28日から施行されることになりました。「水防法に基づき作成された水害ハザードマップ」を対象物件の所在地と共に示して説明することにして、不動産取引をする人が水害リスクを判断できるようにしたのです。
水防法に基づき作成された水害ハザードマップとは
では、「水防法に基づき作成された水害ハザードマップ」というのは、何でしょうか。
「洪水」「雨水出水」「高潮」の3つがそれにあたります。注意して欲しいのは、「津波」と書かれていないけれど、それはすでに重要事項として説明されているからです。ただし、説明されているのは、「津波災害警戒区域」に該当するかどうかで、今回の水害のようにハザードマップで説明してもらえるわけではありません。
ただ、「津波災害警戒区域」に指定されている場所はまだ多くはなく、津波到着時間などはハザードマップのほうがわかりやすいことが多いです。
国内には、津波到着予想時間が発災から5分以内という過酷な場所もあるので、ハザードマップで津波到着時間と近くの高台を必ず確認してください。また、土砂災害のリスクについても従来から重要事項説明に入っているので、記載されていないだけです。水害リスクを避けたら、土砂災害のリスクが高い場所になってしまう場合もあるので、両方確認してください。(その他、造成宅地危険区域に該当するか、地震については旧耐震基準で建設された建物は、耐震診断を受けたかどうか等の重要事項説明があります。)
洪水のハザードマップには2種類あり古いタイプで説明を受ける場合もある
洪水ハザードマップというのは、想定によって2種類あります。「計画規模」というものと「想定最大規模」と呼ばれるものです。(下のマップでは基本想定と最大想定と書かれています。)最近の線状降水帯や台風による雨量の多さから、想定外の水害も起こってしまったことの反省から、2015年(平成27年)に水防法が改正され、想定最大規模のハザードマップが作成されるようになりました。
ただ、残念ながらまだすべての自治体で想定最大規模のハザードマップが作成されているわけではありません。そのため、今回の改正で、せっかく説明を受けても、古い水害ハザードマップの場合があります。国土交通省のQ&Aでは、そのケースについて以下のように書かれています。
古い水害ハザードマップしか存在しない場合、それで説明をしたとしても不動産業者には、落ち度はありません。けれども、不動産を購入したり借りたりする人にとってみれば、今後、最新のハザードマップに変更されると、浸水範囲に該当してしまうかもしれません。また、油断して、避難が遅れるかもしれません。そうならないために、契約時、どのタイプのハザードマップで説明を受けたかをご自身で確認してみてください。ハザードマップに「想定最大規模」と書かれていたり、「1000年に一度の雨」の想定雨量が書かれていると、最新のハザードマップです。自治体のHPや国土交通省ハザードマップポータルサイトからも確認できます。
また、すでにその河川を対象にして想定は出ているのに、自治体に予算がなく、ハザードマップ化されていなかったり、作成している途中なので最新のハザードマップとなっていない地域もあります。紙では作成されているのに、ネット上には公開されていない自治体もありました。そんな場合は、国土地理院 重ねるハザードマップで住所検索していただくと計画規模と最大想定規模を表示する項目があるので、想定があるかないかも含めて確認できる場合があります。
なお、この重ねるハザードマップは、地震や土砂災害、避難場所などの情報が一度に重ねて地図上に表示されるので、ご自身の自宅や職場のリスクを把握するのに、役立つツールです。不動産取引の予定がない人も確認しておいていただければと思います。
家屋倒壊等氾濫想定区域になっていないかチェックを忘れずに
平成27年(2015年)9月関東・東北豪雨において、堤防決壊による氾濫流で、家屋が倒壊・流出し、多数の方が逃げ遅れて自宅で孤立しました。そのため、家屋の倒壊・流失をもたらすような堤防決壊に伴う激しい氾濫流や河岸侵食が発生することが想定される区域(家屋倒壊等氾濫想定区域)がハザードマップに記載されるようになりました。
この区域では木造家屋が倒壊や流失したり、洪水により地盤が削られ、河岸侵食が起こることが想定されています。浸水の深さだけみていると、2階等の上層階に避難すればよいように思えるかもしれません。しかし、ここは、立ち退き避難が必要になる地域です。しかも、早い段階で決断する必要があります。この情報を見逃さないでください。
ハザードマップの浸水深の色が白くても安全という意味ではない
また、都道府県が管理する中小河川の中には想定最大規模のハザードマップ化がまだのところがあります。全国に19000ある小規模河川については、令和元年(2019年)台風19号を受けてハザードマップ化がやっと検討されたばかりです。さらに、本流の水量が増えた事で、支流からの流れがせき止められ、時には逆流して水害が起こるタイプのバックウォーター現象が起こった時、被害が大きくても浸水想定域になっていない場合もありました。ハザードマップ中の浸水深の色が白いからと言って安全ではないことに注意が必要です。
これについて、国土交通省Q&Aでも、不動産取引の説明の際、「水害のリスクがないと取引の相手方が誤認することがないよう配慮してください。」と注意をうながしています。
「雨水出水」とは内水氾濫のこと まだハザードマップ化されていない地域も多い
「雨水出水」という言葉は聞き慣れないかもしれません。雨が降ったらみんな雨水では?と思いがちですが、これは条文上の用語で、一般的には「内水氾濫」と呼ばれるものです。内水氾濫については横浜市の内水洪水ってなんのこと?の説明がこどもにもわかりやすく書かれています。
この内水氾濫もハザードマップ化がまだの地域があります。都市部でまわりと比べて土地が低い場合は内水氾濫の危険があるので、標高がわかるアプリや重ねるハザードマップで、自分の土地が低いのかどうかを調べてみてください。また、1時間に50mmの雨量以上になると都市部で内水氾濫が起こりはじめる想定になっていますから、天気予報で雨の強さを見逃さないでください。
川崎市の浸水実績図は、住所入力をするだけで過去の浸水箇所がわかるので、土地勘がない転入者も調べやすいものになっています。
ハザードマップの作り方は自治体によって違う
ハザードマップがわかりやすいものだと避難しやすいです。葛飾区は、想定の前提の積算雨量の数字も読みやすいので、雨の量から避難を決断しやすいですし、地域別の避難のタイミングや逃げる方向まで記載されています。
足立区のハザードマップの解説動画は、足立区以外の方にもハザードマップの読み方の基本がわかる内容になっています。そして、北千住駅がAR画像で浸水していく様は、水害の怖さがわかります。2分23秒の動画です。
さらに、 国土交通省 浸水ナビでは、堤防が破断する場所を入力すると浸水がどのように広がっていくか、シミュレーションできます。大河川が対象ですが、不動産契約をする際には確認してみてはいかがでしょうか?
保険も忘れずに
水害については火災保険で補償される場合が多いので、契約内容を確認する事もお忘れなく。最近は、水害ハザードマップに連動して保険料金を設定する商品も出てきています。リスクが高い場所は、避難行動も必要になりますし、被災すると生活再建にお金がかかります。不動産取引価格が安く設定されていても、保険代や生活再建費用もあわせてかかる費用を検討してみていただければと思います。
業者が説明を怠った場合の責任について
被災者支援に詳しい弁護士の永野海氏に教えていただきました。
これを機にハザードマップはしっかり確認を
水害多発時代の昨今、水害リスクの説明と内容の理解は、業者にとっても重要です。手順をふまないことは大きなリスクにつながります。
買主や賃借人にとっても、命や財産を守るために自分でリスクを検討する重要性が増しています。これを機にしっかりハザードマップを確認していただければと思います。