辰巳総監督が語るモータースポーツとブランド。【スバルが挑む、9度目のニュル24時間レースVol.2】
スバルが現在挑戦を続けるモータースポーツは、日本で最も人気のあるレースである「スーパーGT」と、今回のニュルブルクリンク24時間レースがある(その他に全日本ラリー選手権にも参戦)が、スーパーGTとニュルブルクリンク24時間レースともに総監督を務めるのがスバルテクニカインターナショナル(以下STI)の辰己英治氏だ。
ニュルブルクリンク24時間レースには、2008年から総監督として参戦し続けている。そんな辰己氏にとってモータースポーツは、「自動車メーカーとしてのブランドを高める、ひとつの大切な要素」だと言う。
「自動車メーカーとして、ただ良いクルマを作っているだけではブランドは築けません。モータースポーツをやることで自動車メーカーとしてのブランド力や価値が上がっていく。あのメーカーのものだから良いと感じていただき、価値を感じてお金を払ってもらう。そのためにモータースポーツに挑戦し、そこで勝つことに意味があるのです。もちろん安くて性能が良い、で買ってもらったり、安いことでブランドになるものもあるとは思います。が、それは消去法で選ばれたり、指名で選ばれたものではないし、それならばモータースポーツをやらなくても良いと思う。しかしこのメーカーの、このクルマが欲しい、と言ってもらえるようになるためには、やっぱりモータースポーツをやっていく必要があります」
辰己氏が言いたいのは、モータースポーツに参戦することは商品や性能を訴求するだけでなく、そのスタイルや雰囲気を含めた「ブランド」を伝えていくということだろう。
「もちろんモータースポーツだけで価値が上がる、というわけではありません。そこに商品も伴って、上がっていく価値だとは思います。ただそうしたきっかけとしてモータースポーツは役に立っていると思っています。またモータースポーツに挑戦しても、急に価値が上がるわけでもないのです。でも5年、10年のスパンで考えた時に、会社を変えていこう、ブランド価値を高めていこうと考えた時には、やっていくべきことだと考えています」
ただもちろん、辰己氏はブランドの価値向上だけを考えているわけではない。
「目の前の目標達成ももちろん必要ですし、自分のための目標達成でもあります。が、やはり最大の目的は、スバル・ファンが喜んでくださって「来年も頑張って」と言ってくれることです」
では辰己氏にとって、24時間レースとは何か?
「カッコ良いことを言いたいですが、常に『苦痛』が伴うものですね。趣味ならばモータースポーツは楽しいですが、仕事として向き合うと常に、『お客様の期待を裏切りたくない』という思いがあります。それを常に背負っているというか、意識しています」
ディフェンディング・チャンピオンとして迎えた今年は、予選でアウディTTにトップを譲る2位となった。そしてこの数時間後にはレースがスタートする。果たして辰己氏の抱える苦痛は、勝利によって癒されるだろうか?
スバル・ファンに喜んでもらいたい一心で、レースへと挑戦する。そうしてその先に、強く揺らぐことのないブランドが生まれることを辰己氏は見据えて、今年もニュル24時間レースに挑戦しているのだ。