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後手番なのに1手目を指してしまい反則負け 千田翔太七段(28)B級1組順位戦で痛恨のうっかり

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月22日10時、東京・将棋会館でB級1組10回戦▲近藤誠也七段(26歳)-△千田翔太七段(28歳)戦が始まりました。そして開始直後。後手番の千田七段が1手目を指してしまい、反則負けとなるアクシデントが起こっています。

 本当は後手番なのに、先手番と勘違いしてしまい、相手が指す前に1手目を指してしまった。かつての将棋界では笑って元に戻し、互いの合意でもう一度やり直し、ということもあったようですが、ルールの運用が厳格化された現在では、反則負けの裁定がくだされます。

 順位戦など、将棋界のリーグ戦では抽選時に先後が決められるため、対局直前の振り駒はありません。そのため、しばしば忘れてしまったり、勘違いしてしまったという例もまれにはあります。

 対局が始まる際には、記録係がどちらの先手かを必ず口にします。しかし本局の場合には、ずっと先手番と思って事前の対策を用意してきた千田七段が、集中していて、記録係の声でも自分が後手であることに気づけなかったようです。

 2007年7月のC級2組2回戦▲東和男七段(現八段)-△有吉道夫九段戦では、後手の有吉九段が1手目に3筋の歩を突いてしまい、やはり反則負けとなっています。筆者はこの日、東京で中継を担当していて、事件が起こった大阪からの一報に驚いた記憶があります。

 最近、中村太地七段と鈴木肇さんのYouTubeチャンネルでも、その▲東-△有吉戦の事例がクイズとして取り上げられていました。

 中村七段自身も順位戦で先後を勘違いして、対局に臨んだことがあったそうです。

中村「僕も実は順位戦で、対局開始のときまで、僕が、自分がたしか後手番だと思ってたのに、記録係から『それでは中村先生の先手番でお願いします』って言われたことがあったの。で、『えっ?』ってなって。『今日、後手番じゃなかったの?』って思って。パニックになって。(中略)あわてて、どうしようかなとなったときに、下の階(将棋会館階下の事務室)に順位戦の表が貼ってあるわけですよ。先後が決まった表があって。それを見に行って。当然、記録係の発声が合ってたんだけど。『マジか・・・』ってなって」

鈴木「先生の場合でもそういうことがあるんですね」

中村「その1回だけ。もう本当に、心臓飛び出るかと思った。後手番の対策を延々と用意していったのにさ、急に『先手番でお願いします』と言われて」

鈴木「先生でもあるんだから、誰でもありますね」

出典:棋士中村太地将棋はじめch

 また2007年4月の倉敷藤花戦2回戦▲甲斐智美女流二段(現五段)-△関根紀代子女流四段(現六段)戦。振り駒をして甲斐女流二段先手と決まったあとで、やはり後手の関根女流四段が1手目を指してしまったという例もあります。

 千田七段が初の例というわけではありません。しかし順位戦におけるB級1組という上位クラスでのアクシデントだけに、衝撃は大きそうです。

 リーグ成績は近藤七段が6勝4敗、千田七段が4勝5敗となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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