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凄まじいエネルギーを持つ宇宙線「アマテラス粒子」、衝撃の正体が判明!?

どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。

今回は「最強の宇宙線アマテラス粒子の正体が判明か」というテーマで動画をお送りしていきます。

東京大学や大阪公立大学などの国際研究チームは、2023年11月、人類の観測史上2位に相当する、桁違いのエネルギーを持つ宇宙線である「アマテラス粒子」を検出したと発表しました。

そして2024年6月には、アマテラス粒子のような最高エネルギー宇宙線の正体は従来の予想である単体の陽子ではなく、陽子と中性子が複数結合した重い原子核である可能性が高いことが判明しました。

本記事では宇宙線やアマテラス粒子のおさらいをし、その後最新の発見について解説していきます。

●宇宙線とは何か?

この宇宙には、非常に高いエネルギーを持った粒子(放射線)が、光速に極めて近い速度で飛び交っており、地球にも常に到来しています。

宇宙を飛び交う放射線を特に「宇宙線」と呼んでいます。

宇宙線は放射線なので人体も被ばくしてしまい有害ですが、私たちは普段地球の大気に守られているおかげで、あまり宇宙線の影響を受けずに済んでいます。

ですが宇宙からやってくる宇宙線に対し、大気のバリアがあまり働かないような高度の高い場所だと、被ばく量は増大します。

具体的には地表に対し、高度40kmにある国際宇宙ステーション(ISS)だと100倍にもなります。

そのためISSに滞在する宇宙飛行士は被ばく量が一定値を超えないよう、滞在期間に制限が設けられています。

○宇宙線(放射線)の種類

では宇宙線(放射線)には、どのような種類のものがあるのでしょうか?大きく分けて、物質を構成する粒子(陽子、中性子、原子核、電子)と、電磁波(X線、ガンマ線)が挙げられます。

私たちが知る物質は、どんどん拡大していくと「原子」という非常に小さい構造から成っています。

そんな原子をさらに分解すると、+の電荷を持った「陽子」と電荷を持たない「中性子」から成る「原子核」の周りに、-の電荷を持った「電子」が存在するような構造を持ちます。

これらの物質を構成する細かい粒子たちが、宇宙のどこかで何らかのメカニズムで加速させられ、ほぼ光速に近い速度で宇宙を飛び交っているというわけです。

NASA Goddard Space Flight Center Conceptual Image Lab
NASA Goddard Space Flight Center Conceptual Image Lab

また、私たちが目にする光は、「電磁波」と呼ばれるものの一種です。

電磁波は波なので波長があり、この波長が長いと電波、赤外線などと呼ばれ、逆に短いと紫外線、X線、ガンマ線などと呼ばれます。

このような電磁波にもエネルギーがあり、波長が短いほど高エネルギーになります。

そのためX線やガンマ線は高エネルギーで有害な放射線の一種となります。

放射線にはこのように高エネルギーの粒子や電磁波がありますが、宇宙線の場合はほとんどが荷電粒子、つまり陽子、または陽子と中性子が複数組み合わさった原子核です。

特に単一の陽子が宇宙線の大部分を占めているとされます。

○空気シャワー

大阪公立大学/京都大学L-INSIGHT/Ryuunosuke Takeshige
大阪公立大学/京都大学L-INSIGHT/Ryuunosuke Takeshige

宇宙線が地球大気を構成する窒素や酸素の原子核と衝突すると、新たな粒子が飛び出します。

この新たに生成された粒子が地球大気を構成する別の原子核と衝突し…という風に連鎖的に反応を起こします。

このようにして宇宙線の到来から、地球の大気内で無数の粒子が発生する現象のことを、「空気シャワー」と呼びます。

これは元の宇宙線のエネルギーが高いほど大規模になり、特に高エネルギーの宇宙線が到来した場合だと、シャワーが地表に届いたり、シャワーの中心軸付近で紫外線が放射されることがあります。

○宇宙線のエネルギーと存在比

Credit:Sven Lafebre
Credit:Sven Lafebre

宇宙線は、エネルギーが高いほど珍しく、地球に到来する頻度が下がります。

具体的には宇宙線のエネルギーが10倍になると、地球に来る頻度は約1000分の1になります。

宇宙線の中でも特に高エネルギーで、到来頻度も低いものは「超高エネルギー宇宙線」と呼ばれます。

●最高エネルギー宇宙線を狙う

地球にやってきた宇宙線を検出するには、先述の「空気シャワー」を利用します。

空気シャワーは高エネルギーの宇宙線が地球大気を構成する原子核と衝突し、無数の粒子が発生する現象のことでした。

高エネルギーの宇宙線が到来すると、空気シャワーは地表まで届いたり、中心軸付近で紫外線を放射したりするのでした。

そこで地表まで届いた空気シャワーで発生した粒子を直接検出したり、シャワー中心軸付近で発生した紫外線を観測することで、宇宙線が到来したことを検出することができます。

ただしこれらの方法で宇宙線を検出することができても、宇宙線の大半は荷電粒子であり、宇宙空間の磁場で進路を曲げられているため、その起源を特定することは極めて難しくなっています。

そんな中、実は最高クラスのエネルギーを持った宇宙線が単体の陽子であれば、磁場の中でもほぼ直進することができることが知られています。

そのため最高エネルギー宇宙線のみを分析すれば、起源天体を特定できる可能性があります。

ただし先述の通り宇宙線は高エネルギーほど地球への到来頻度は大きく下がってしまいます。

磁場の中を直進できる最高エネルギー宇宙線ともなると、100km^2の範囲でも1年に1個程度しかやってきません。

そのため最高エネルギー宇宙線由来の空気シャワーによって発生した粒子を地表で直接検出するには、通常の検出器では面積が小さすぎて、いくら待ってても目当ての最高エネルギー宇宙線がやってきてくれません。

そのためこのような宇宙線の痕跡を地表で直接捉えるには、膨大な面積をカバーできる特殊な観測システムが必要になります。

●アマテラス粒子を検出!

Credit:Telescope Array、ADRIAN CHO, science
Credit:Telescope Array、ADRIAN CHO, science

アメリカユタ州の砂漠で広大な範囲にわたって検出器を設置し、最高エネルギー宇宙線の検出を狙う「テレスコープアレイ(Telescope Array,TA)実験」は2021年5月27日、過去最強クラスの宇宙線を検出しました。

この研究成果は大阪公立大学などの国際研究チームにより2023年11月24日に発表されています。

Credit:Telescope Array、ADRIAN CHO, science
Credit:Telescope Array、ADRIAN CHO, science

TA実験では、最高エネルギー宇宙線を検出するために、アメリカユタ州の砂漠地帯に、粒子検出器を1.2km間隔の格子状に507台設置し、なんと約700km^2という膨大な面積をカバーしています。

Credit:Telescope Array
Credit:Telescope Array

さらにその周囲に38台の広角望遠鏡を設置し、上空で発生した空気シャワー由来の紫外線を捉えることもできる仕組みになっています。

そんなTA実験により、2.44×10^20電子ボルトというまさに桁違いのエネルギーを持つ宇宙線が検出されました。

新たに検出された宇宙線はTA実験史上最強の宇宙線であり、人類史上でも、1991年に同じくアメリカユタ州の別の実験で検出された「オーマイゴッド粒子」が持つ3.20×10^20電子ボルトに次ぐ歴代2位の記録です。

新たに検出された粒子は、発見者が日本人だったこと、現地時間の明け方に検出されたことなどから、「アマテラス粒子」と命名されました。

アマテラス粒子が持つ「2.44×10^20電子ボルト」というエネルギーについて、もう少し詳しく見ていきましょう。

アマテラス粒子の持つエネルギーは、なんと時速約85kmの野球ボールが持つ運動エネルギーと等しいのです。

微小な荷電粒子が人間の投げる野球ボールと同等のエネルギーを持っているというのが、いかにこれが桁違いに強力な宇宙線であるかを物語っています。

Credit:Yahoo News UK
Credit:Yahoo News UK

アマテラス粒子は、人類が粒子加速器で実現できるエネルギーの最高値の、さらに4000万倍のエネルギーを持っています。

人類はまだ宇宙のエネルギーの足元にも及んでいません。

○到来方向、起源について

Credit:大阪公立大学
Credit:大阪公立大学

最高エネルギー宇宙線の起源は、銀河中心の活発な超大質量ブラックホール(活動銀河核)など、極めて高エネルギーの天体や現象であると考えられます。

しかしアマテラス粒子の到来方向は、天の川銀河から比較的距離が近い宇宙空間の中でも、非常に密度の低い「局所的空洞(ローカルボイド)」が存在する領域でした。

アマテラス粒子を含め、最高エネルギー宇宙線の起源は未だ不明であり、最高エネルギー宇宙線の研究において最大の課題となっています。

●最高エネルギー宇宙線の正体が判明!?

アマテラス粒子などの最高エネルギー宇宙線の正体は、単体の陽子ではなく、陽子と中性子が複数結合した「重い原子核」である可能性が高いことが判明したと、2024年6月に発表がありました。

最新の研究では、アマテラス粒子のような最高エネルギー宇宙線の正体を新たな手法で分析しました。

この新たな手法は、これまでの実験によって得られた情報のうち最も信頼できる、宇宙線の「到来方向」と「エネルギー」のみに基づいて、宇宙線の正体について推定が行えるという強みがあります。

新たな手法の手順としては、まず最高エネルギー宇宙線の方向毎の到来頻度の理論的な予想を反映したモデルを生成します。

このモデルは、最高エネルギーの宇宙線の正体が陽子であり、どこかの銀河から到来すると仮定して作られています。

実際銀河のような物質が豊富にある環境でないと、最高エネルギー宇宙線を生み出せるような超高エネルギー現象は起きにくいはずです。

さらにこのモデルは、宇宙の不規則な磁場の影響も考慮して作成されています。

Credit:Abbasi et al. (2024)
Credit:Abbasi et al. (2024)

その後、生成した方向毎の到来頻度の予測モデルと、TA実験で得られた実際の到来方向のデータを比較します。

明るい赤の部分が到来頻度が高く、暗い紫の部分が到来頻度が低いとモデルにおいて予想されている領域です。

このような手法による分析の結果、モデルと実際の最高エネルギー宇宙線の観測結果(白い丸)には明確なズレが見られました。

Credit:Abbasi et al. (2024)
Credit:Abbasi et al. (2024)

100EeV(電子ボルト)以上の最高エネルギー宇宙線の場合、宇宙線の正体が磁場の影響を大きく受ける電荷の大きい粒子、つまり陽子を多く持った原子核であるほど、到来方向のばらつき(縦軸)が大きいと予想されます。

単体の陽子の場合は赤の横線、ヘリウム原子核はオレンジ、酸素原子核は緑、ケイ素原子核は青、そして鉄の原子核は紫の横線で、その到来方向のばらつきの予想が示されています。

実際の最高エネルギー宇宙線の到来方向のばらつき(黒の実線)は非常に大きく、よって最高エネルギー宇宙線の正体は、例えば「鉄」などの重い原子核である可能性が高いことがわかりました。

TA実験のチームは今後、現在進行中の検出器の面積を4倍に拡大する「TAx4」計画によって最高エネルギー宇宙線の観測例を増やし、同時に宇宙線の特性をより正確に理解できるように識別法を向上していくとのことです。

より高精度な検出装置が実現し、最強レベルの宇宙線を発生させている未知の天体や現象の正体が解明されるのが、今から本当に楽しみです。

https://arxiv.org/html/2406.19287v1
https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP673323_Z10C24A6000000/
https://release.nikkei.co.jp/attach/673323/02_202406191521.pdf
https://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/news/14465/
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2140M0R21C23A1000000/
サムネイルCredit: 大阪公立大学/京都大学L-INSIGHT/Ryuunosuke Takeshige

「宇宙ヤバイch」というYouTubeチャンネルで、宇宙分野の最新ニュースや雑学などを発信しているYouTuberです。好きな天体は海王星です。

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