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『鎌倉殿の13人』今井兼平役で大河ドラマ連続出演。スカウトマンから俳優になった町田悠宇が糧にするもの

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)NHK

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で、源頼朝のライバルの木曽義仲の側近・今井兼平を演じている町田悠宇。前作『青天を衝け』にも出演して、パリでの断髪シーンが話題を呼んだ。福岡で飛行機の整備士、モデルのスカウトマンから俳優に転じて、映画で全国デビューしたのが32歳だった2年前。異色の経歴を持ち、劇中では鋭い眼光が印象的な彼の辿ってきた道と、演技への独特な取り組みを聞いた。

主従関係がどう成り立っているか深掘りしました

 町田悠宇が『鎌倉殿の13人』で演じている今井兼平は、源氏の棟梁の座を源頼朝と争う木曽義仲と乳母子だった側近。平家との戦いで共に各地を転戦し、義仲を傍で支えてきた。

「兼平は史実の記録が結構残っている武将で、お墓参りにも行ってきました。義仲との確固たる主従関係はどう成り立っているのか、しっかり掘り下げておきました。子どもの頃から知っている幼なじみでありつつ、義仲がボスという間柄で、信頼はもちろんありますけど、イエスマンではないなと」

 劇中、「平家を倒せば恩賞などどうでもいい」と言う義仲を「家人どもは命懸けでやってきたのですぞ」と、苛立ちをのぞかせつつ諫める場面があった。

「『いやいや、殿。違いますよね?』というニュアンスを、どう表現するか。『違うじゃないですか!』とストレートに言っても成り立ちますけど、兼平は忠告しつつ義仲を立てるので。イライラを抑えきれず、ちょっと滲み出るくらいがいいかなと、あの言い方を選択しました」

 馬に乗るシーンはさり気なく見えたが、事前の練習では苦労したそう。

「乗馬クラブに15回くらい通ったんですけど、僕が乗った大きな馬が全然言うことを聞いてくれなくて。一緒に稽古した(源義経役の)菅田将暉さんも初めてだったのに、スッと乗っているんですよね。一線でやっている人は何ごとも違うのかな、馬も人を見て『こいつの言うことは聞かんでいい』と思われているのかなと、落ち込みました(笑)。でも、その馬は競走馬上がりの荒くれということでした。僕のタッパ(184cm)に合わせて大きい馬を、気をつかって用意してくださったみたいです」

(C)NHK
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学校では目立ちたがり屋で卒業式でもボケを(笑)

 福岡出身で現在33歳の町田だが、演技を始めたのは8年ほど前から。その人生は波乱に富んだものだった。

「学生時代は遊ぶことばかり考えていました(笑)。毎日をどう楽しく過ごすか。友だちとツルんだり、釣りに行ったりしていましたね。運動神経は子どもの頃から天才的でしたけど、競技でズバ抜けていたわけではなくて。幼稚園の遠足で崖に近い山のてっぺんから走って転ばずに降りたり、生命力が強かったみたいです」

 小学生のときに剣道で全国大会に出場。中学、高校では野球部に入っていた。ふたつ下の後輩だったのが、当時から俳優活動をしていた池松壮亮。

「一緒に遊んだり、ごはんを食べたりしていました。池松は『蒼き狼』というチンギス・ハーンの映画の撮影で、学校をずっと休んでモンゴルに行ったりしていて、すごいなと思っていました」

 そんな存在が身近にいても、自身は芸能界に興味を持たず、「洋画はよく観ていて『オーシャンズ』シリーズが好きでした」という程度だった。だが、「目立つことは好きすぎて(笑)」とも。

「全校集会で小ボケをかましたり、服を脱いだり(笑)。高校の卒業式でも、『卒業生代表、○○くん』と呼ばれたときに、関係ない僕が『ハイ!』と立ち上がるチープなボケをしたんです(笑)。ちょっとウケましたけど、式が終わってから全先生に囲まれて『やっていい場と悪い場がある!』と本気で怒られました(笑)」

T-TRIBE提供
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スカウトしたモデルと演技未経験で劇団を結成

 高校卒業後は地元で飛行機の整備士になり、3年ほど働いたのち、シンガポールへの転勤を断って退職。知り合いのツテで福岡のモデル事務所に入ったが、与えられた仕事はスカウトだった。

「抵抗はなかったんですけど、どうしたら事務所に来てもらえるか考えて、虚勢を張って強気に声を掛けるようにしました。自分が芸能界の仕組みをわかってなくても、たどたどしく話していたら怪しまれるので」

 大活躍中のある女性タレントが福岡の高校生だった頃、街頭で「君ならすぐ結果を出せる」と誘ったりもしたそう。事務所に自らスカウトした男性モデルが増え、仕事の場を作ろうと劇団「TEAM LOCO」を2014年に結成。自身も役者として参加した。

「最初はひどいものでした(笑)。誰もお芝居をやったことがなくて、舞台で台詞は飛ぶわ、そこで対処もできないわ。ただ、みんな一生懸命ではあって。『ワーッ!』でも何でも声を出して、どうにか繋いでいって、奇跡的に成り立っていました」

 公演を重ねるうちに評判が高まり、町田はNHK福岡放送局のドラマやローカルCMに出演するように。2019年公開で、テレビ西日本のドラマから映画化された『めんたいぴりり』では、のちに『ザ・ファブル』などを手掛ける江口カン監督から「愛あるシゴキをしていただきました」と語る

「戦時中のお話で、僕は1~2シーンに出演した日本兵の役でした。マラリアで死にかけていて、江口監督に『もっと気持ちを出せ』と言われたんですけど、それだと元気な人に見えてしまうと思って。そう話したら、監督は『ふざけるな』と。『演出のイメージと辻つまを合わせてクリエイトするのが役者だろう!』と怒られて、当時は意味がわかりませんでした」

「その頃は自分の価値観だけで演じていたし、その価値観もめちゃくちゃ狭くて。経験もなければ、腹も括れていない。そこがダメだと監督が教えてくれたのが今なら理解できて、財産になっています。打ち上げで監督に『お前は才能がある』と言われて、『あんなに怒っておいて』と思いましたけど(笑)、本格的に役者を目指すきっかけになりました」

T-TRIBE提供
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大河ドラマはいつか出るときのために観てました

 2020年に上京。自身の境遇とも重なる劇団員役で出演した映画『ロックンロール・ストリップ』が公開されて、全国デビュー。さらに、岩井秀人主宰の劇団「ハイバイ」の舞台『投げられやすい石』に出演したことが、転機になった。

「暴力をふるうことに抵抗のない役で、稽古で岩井さんにずっと『やさしすぎる』と言われていました。岩井さん自身が家庭で暴力を受けてきた経験を元に作品を書かれていて、僕が暴力的なことをする前に取る間(ま)はないんだと、細かく演出をされました」

 この舞台を観ていたNHKのプロデューサーの目に留まり、オーディションなしで『青天を衝け』の無骨な水戸藩士・菊池平八郎役に抜擢される。

「お芝居をするようになってから、大河ドラマと朝ドラは観るようにしていたんです。いつか自分が出演するとき、日常と違う時代背景に取ってつけたように入るのは難しいと思って。もちろん国民的ドラマへの道は遠いと思っていたのが、最初に決まったから焦りました。それでも自分で観て準備しておいたから、精神的には落ち着いて臨めました」

 菊池平八郎は主人公の渋沢栄一らと共に、パリ万博使節団に随行。一行は洋服に合わせるために髷を切ることに。喜んでハサミを入れられていた渋沢らと対象的に、菊池は辞世の句を詠み、自らの刀で断髪したシーンが話題を呼んだ。

「見せ場と言ったらおこがましいですけど、『やるぞ!』というのはありました。水戸藩は尊王攘夷の思想が強くて、ヨーロッパに馴染もうとする渋沢栄一たちとの対比をはっきり見せたかったんです。武士が髷を落とすのは誇りもすべて投げ捨てるに等しくて、その魂をどうバイタリティ高く表現するかに重きを置きました」

T-TRIBE提供
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断髪は100%自分のプランで感情を爆発させたくて

 その断髪シーンの撮影現場では、緊迫感が漂う瞬間もあったとか。

「感情を全部爆発させたいと思っていたんです。切腹に似せるということでしたけど、そこで所作を意識すると、今の自分のポテンシャルでは、そっちに気を取られてしまう。だから、リハーサルでは100%自分のプランでやってみたくて。所作の先生の『何で聞きにこないんだ?』という目線をずっと感じながら、自分の考えてきた通りに刀を使っていたら、ドライになって『全然違う!』と怒られました」

「でも、自分の中で役のスイッチが入って、切らさずにいこうと思っていたら、監督が『このまま撮ろう』と言ってくださって。カメラワークの調整も省いて、メイクの直しをしてもらっていると、所作の先生が横に来て、小声で『刀の抜き方だけいい?』と。筒だけ投げたほうがキラキラが残るといったことを教えていただいて、本番はバーンとできました。監督も『こんなシーンになるとは思いませんでした!』とすごいテンションで言ってくれて」

「所作の先生に『こういう理由があって聞きに行けませんでした』と謝りにうかがったら、『すごく良い芝居を見せていただきました』と言われて、ゾワゾワしました。現場で一番ペーペーの自分が度胸を振り絞って、やってみたことが良い結果になって。毎回こういうことばかりしていてもダメですけど、自分の中のひとつの成功体験として得られたものがありました」

 町田の肝の据わったところが感じられるエピソードだ。『鎌倉殿の13人』では、今井兼平の出番は24日放送の16話が最後になる。史実では討ち死にした木曽義仲の後を追って自害しているが……。

「人生を共にしてきた義仲に自害を勧めて、最後のシーンは自分の中では、『青天を衝け』の断髪に匹敵するくらいの気持ちになっていました」

T-TRIBE提供
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今までの生き方で良かったと現場で感じます

 20代半ば過ぎでゼロから演技を始め、大河ドラマに2作続けて出演したのは快挙だが、もっと早く俳優活動をスタートしておけば……と思うことはないだろうか?

「正直それはめちゃくちゃ思います。オンエアで自分の演技を観ると、イメージとかけ離れていて辛いくらい、本当にまだまだなので。ただ、今までの自分の生き方があって良かったと、現場で感じることもあります」

「たとえば今回、三谷(幸喜)組にポンと入って、一流の方たちの中で気おくれすることもあると思うんです。でも、自分はそうならずにいられた。今までちゃんと生きてきた誇りがあって、強気に出られたのかなと。周りの皆さんのパワーはすごいので、ちょっと気を抜くとヘニョーッとなってしまいますけど、浮つかずに心を静められます。卒業式で全校生徒の前でバカをやった度胸が、活きているのかもしれません(笑)」

 飛行機の整備士やモデルのスカウトの仕事を、全うしてきた自負もあるのだろう。

「スカウトをしていたことはめちゃめちゃ活きています。経験していくうちに、ただ声を掛けて事務所に来てもらうだけでなく、相手に沿ったプランを提案することを学びました。自分の価値観だけを押し付けたらダメ。お芝居でも自分のやりたい演じ方をチョイスしがちですけど、役は別の人間なので。柔軟な置き換えができるようになっていたのは、スカウトをやっていたからかなと思います」

 そうした人生経験が、俳優養成所などでは学べない糧となっているようだ。そして、遠回りをしたとはいえ、町田は役者に向いていたように感じさせる。

「向いているかはわかりませんけど、お芝居はめちゃめちゃ好きです。どんなシーンでも、カメラが回る直前の『ヨーイ』くらいのところで、自分の中に何かがボワーッと出るんです(笑)。日常でそんなにテンションが上がることはありません。終わって冷静になって、『また出ていたな』と思います。それも子どもの頃の目立ちたがりと繋がっているのかも(笑)。お芝居でできないことはまだ多くても、町田悠宇史上では今が一番イケています」

T-TRIBE提供
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しっかり人生を歩んで圧倒的な存在になれたら

 演技力を向上させるための努力は、日ごろから重ねている。

「ドラマや映画を観ていて、『こういう言い方をしたら、こう見えるんだ』とか気になると、マネして言ってみることは常にしています。あと、人間を磨くことを最近は心掛けていて。今回の大河ドラマの現場で一番感じたのがそこだったんです。役者さんたちがエネルギッシュで、かつ包容力がある。素敵な言葉を掛けてくれるわけでなくても、生き様が出ているのかと思いました」

 それは、木曽義仲役の青木崇高や主人公の北条義時役の小栗旬らから感じたことだという。

「青木さんは野性味溢れる役でしたけど、本当にハートフルで、オーガニックなイメージがありました。自然の大地のような豊かさを持ってらっしゃる方です。小栗さんは宇宙のように大きい方で、『どんな経験をしたら、こんな人間になれるんだ?』と思いました。僕も人生をどっしり歩んでいきたくて、“しっかり生きる”をテーマにしています」

 町田のプライベートは想像しにくい感じもするが、何をしているのだろう?

「週に1回、キックボクシングのジムに通っています。知り合いのK-1ファイターのマイク・ジョーさんに習いたくて。撮影現場でいざ大御所の俳優の方と向き合うとき、安定したメンタルが一番大事で、常に鍛えておかないといけない。何をすればいいか考えて、格闘技が近いのかなと」

「K-1ファイターの方はめちゃ怖いです。殴られたらもちろん痛いし、こちらはどう殴ればいいかわからない。その中でも攻めないといけない。そんな状況が大先輩との演技に似ていると思ったんです。体を鍛えるのはもちろん、メンタルのトレーニングにもなります」

「プライベートだと、あとはラーメンが好きです(笑)。福岡出身なのでとんこつ派で、事務所の近くに一風堂のお店を見つけて、テンションが上がりました(笑)」

 最後に、役者として大河ドラマで描かれる天下獲りのような野心はあるのか、聴いてみた。

「いつか主役をやりたいというのはありますけど、何より圧倒的な存在になりたいです。自分との闘いの中で人間として磨き続けて、大きくなりたい。そうなれば比例して、いろいろな役もできると思うので、そんな野心はめちゃめちゃ強いですね」

T-TRIBE提供
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Profile

町田悠宇(まちだ・ゆう)

1988年8月9日生まれ、福岡県出身。

2014年に劇団「TEAM LOCO」を旗揚げして、俳優活動を開始。2020年に映画『ロックンロール・ストリップ』に出演して全国デビュー。2021年にドラマ『青天を衝け』に出演。ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)に出演中。

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』

NHK/日曜20:00~

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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