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世田谷で人気マンションが続出。オワコン扱いされた高級住宅地に何が起きた?

櫻井幸雄住宅評論家
日本初の「分譲住宅地」が誕生した歴史を持つ世田谷区。一時は人気が下降したが……。(写真:イメージマート)

 1月22日、インターネットサイトに物件のホームページを立ち上げた途端に資料請求が殺到。全22戸のうち販売される住戸は14戸しかないのに、3週間で1000件に迫る資料請求が来たマンションが世田谷区内にある。

 建設地は、住宅地としての歴史が長い世田谷区瀬田一丁目で、風致地区内だ。国分寺崖線上に位置する場所で地盤が強固。そして、東急田園都市線二子玉川駅から徒歩9分、と立地条件はよい。

 加えて、低層3階建てで、建物の地下に全戸分の駐車場を備えるなど建物のつくりもよいため、高額マンションとなる。販売住戸は100平米クラスで2億円を少し切るくらいの予定価格で、80平米住戸は1億2000万円台とか1億4000万円台の予定だ。

 この予定価格を資料請求者に伝えても人気が落ちることはなく、モデルルーム見学の予約が取れない状況が生じている。2月下旬の販売は抽選になるのは間違いない。

資料請求が殺到している「サンウッド瀬田一丁目」。設備仕様のレベルも高く、小規模ながらディスポーザー付き。LDと主寝室に天井埋め込みのカセットエアコンを備える。モデルルームにて、筆者撮影
資料請求が殺到している「サンウッド瀬田一丁目」。設備仕様のレベルも高く、小規模ながらディスポーザー付き。LDと主寝室に天井埋め込みのカセットエアコンを備える。モデルルームにて、筆者撮影

 世田谷区内の人気マンションはそれだけではない。

 現在販売中のマンションで、多くの資料請求やモデルルーム見学希望が集まっている物件として、「プレミスト世田谷喜多見」や「シティハウス二子玉川 ザ・グランド」、「グレーシア世田谷尾山台」があり、大規模マンションの「アトラスシティ世田谷船橋」やこれから販売が始まる「クレヴィア三軒茶屋」も資料請求や集客が好調だ。

 さらに、マンションではないが、1月下旬に野村不動産が販売した一戸建て住宅地「プラウドシーズン成城コート」では、第1期5戸が平均2億3000万円台という価格で即日完売した。

 世田谷区内で人気物件が続出しているのだ。

世田谷人気が一時落ちたきっかけは……

 20世紀後半まで、世田谷区は東京23区内の高級住宅地として高い人気を誇っていた。山手線の外側に位置し、都心からは少し離れるが、その分、環境がよい。23区内で緑が多く、静かな住宅エリアが形成されている場所として憧れを集めた。

 加えて、世田谷区内で昭和初期に日本初の分譲住宅地(一戸建て)が生まれたという歴史もあり、「世田谷」は東京の高級住宅地として一目置かれる場所だった。

 その世田谷区の人気が落ちた、と最初に報じたのは、じつは私だった。2017年10月5日に新聞社の電子版経済記事で、「世田谷人気がなぜか低迷。今が『穴場探し』のチャンス」という記事を出した。

 記事の主旨は、良好な条件を備える世田谷区で住宅価格が下がっているので、今はむしろ狙い目、というもの。しかし、「世田谷人気が落ちている」という部分だけ取り上げる記事がその後に多発したため、世田谷区の評価が低下。オワコン(終わったコンテンツ)扱いされるようにさえ、なってしまった。

 その世田谷人気が、今、抽選物件や即日完売物件が続出するまでに回復している。

 いったい何があったのか。人気物件への取材から実情を探った。

コロナ禍の影響で、世田谷に目が向いた?

 今、世田谷人気が回復……その理由として真っ先に思い浮かぶのが、コロナ禍の影響。コロナ禍で在宅ワークが増え、便利だがゴミゴミしている都心を離れ、良好な環境を備える世田谷に注目する人が増えたのではないか、と想像されるわけだ。

 加えて、今は都心部のマンション価格が高騰しているため、世田谷区内の物件に割安感が生じたのかもしれない。

 そう考えながら現地取材を行うと、人気を高めているマンションのなかには、コロナ禍の影響や都心の物件価格上昇の影響を受けたものが確かにあった。

 たとえば、昨年夏、建物が完成してから販売を開始した「グレーシア世田谷尾山台」は、東急大井町線尾山台駅から徒歩18分、もしくは東急田園都市線二子玉川駅からバス6分でバス停から徒歩5分となる立地で、駅から少々離れている。

 その分、南向き3LDKが5500万円台から、と都心部と比べて割安感がある。

 「グレーシア世田谷尾山台」では、これまでの契約者の約8割が20代、30代で、共働き世帯がほとんどだという。在宅ワークの広まりで、若い購入者が割安感のある世田谷のマンションに目を付けた、という動きがあるわけだ。

購入者の多くは世田谷在住者、という物件も

 しかしながら、世田谷区の新築物件が、すべて「割安で、在宅ワークが増えた20代、30代向け」というわけではない。

 分譲価格が1億円、2億円になるマンション、一戸建ても多く、それらの購入者は、40代、50代の会社経営者や医師、弁護士など収入の多い人が中心となる。

 高額物件の購入者には、世田谷区在住者が多い。それは、以前から世田谷区物件に共通する特性だった。

 現在もその特性に大きな変化はなく、冒頭に紹介したマンション「サンウッド瀬田一丁目」も、一戸建て分譲の「プラウドシーズン成城コート」も購入者、購入検討者の多くは世田谷区に地縁のある人だ。

 都心のマンションを売却し、世田谷に移り住む人も一定数みられるが、数は少ない。

 ただし、世田谷区の物件を購入する世田谷在住者の間にも、コロナ禍による変化は出ている。

 というのも、「これまでは世田谷区内で中古マンションを探していたが、コロナ禍が起きてから中古の売り物がめっきり減った。だから、新築を検討するようになった」という声が多いからだ。

世田谷区内では中古の売り物が減少

 ここ数年、世田谷区内の中古マンションで、人気物件になっているのが、東急田園都市線二子玉川駅近くの再開発エリアに建つ「二子玉川ライズ タワー&レジデンス」。その便利さ、華やかさで、中古価格が上昇。高い値段で取引されていた。

 その人気マンションで2020年以降、中古の売り物がめっきり減ってしまった。試しにインターネットサイトで検索してみると、2月中旬に同マンションで売りに出ていたのは、40平米台の1LDKと80平米台の2LDKの2戸。総戸数が1000戸を超える大規模マンションとしては、極めて少ない。

 もっとも、コロナ禍で中古マンションの売り出し件数が減ったのは、23区全域で見られる現象だ。

 最初は、「コロナ禍で経済的に苦しくなった人がマンションを売る。だから、安く買うチャンス」と投資家が買う気満々になったことで、売り手が反発。「今は、売らない」となった。

 売り出される中古物件が激減したことで、逆に中古マンション価格は高騰。今度は、「もっと高くなりそうだから、今は売らない」という人が増えてしまった。

 実際、23区内の中古マンション価格は上昇を続けている。「まだまだ上がる」と予想し、所有するマンションの売り出しに躊躇する人は多い。

 中古マンションの売り物が減った結果、新築マンション、新築一戸建てを検討する世田谷区民が増えた。

 つまり、もともと世田谷区内の中古マンションを積極的に買っていた地元の購入者が中古から新築に狙いを変え、それに在宅ワークが増えた区外在住の若い世代が加わる。2つの購入層が増えたことで、世田谷の新築マンション人気が盛り上がっている、と考えられるわけだ。

 世田谷区のマンションがオワコンとみなされた時期、割安の新築物件を見つけることができた。残念ながら、その状況はそろそろ終わりに近づいているのかもしれない。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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