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「洗濯・乾燥3時間」を1時間に短縮。ガス衣類乾燥機がマンションでも使えるようになった

櫻井幸雄住宅評論家
マンションの中央部に設置されたガス衣類乾燥機。横浜市内のモデルルームで筆者撮影

 マンションで洗濯物を干す場所はバルコニー。しかし、近年、色とりどりの洗濯物で満開となったバルコニーを見かけることが少なくなった。洗濯機で乾燥まで仕上げてしまうケース、干すとしても「部屋干し」というケースが増えたからだ。

 洗濯機で乾燥まで仕上げてしまう場合、問題となるのが所要時間の長さ。コインランドリーならば1時間で済むが、家庭用の電気式洗濯乾燥機の場合、3時間程度かかるのが普通。洗濯物の内容によっては、4時間以上になってしまうことがある。

 これは、週末に洗濯をまとめて行おうとする家庭、そして育ち盛りの子供がいる家庭では大きなストレスとなる。

 家庭用の電気式洗濯乾燥機で所要時間が長くなるのは、乾燥に時間がかかるからだ。乾燥に2時間以上かかるのが普通で、トータル3時間以上ということになってしまう。

 この乾燥時間を圧倒的に短縮できるのが、ガス式の衣類乾燥機。東京ガスでも大阪ガスでも、以前から「乾太(かんた)くん」という愛称で販売されてきた設備である。といっても、以前は都市ガスで使用する設備だったので、都市ガスの普及率が高い大都市部以外では、あまり知られていなかった(今は、プロパンガスでも利用できる)。

 「乾太くん」は大都市部、特に東京と大阪エリアの一戸建て居住者の間で以前から人気が高く、一度使った人は必ずといってよいほど、壊れたら買い替える。つまり、リピーターが多い人気商品となっていた。

 ところが、この「乾太くん」は東京、大阪でもマンションに設置されることがほとんどなかった。

 理由として大きいのは、排気ダクト(排湿管)を外に出す必要があること。一戸建てならば壁の近くに乾燥機を設置し、ダクトを外に出しやすい。しかし、マンションで開放廊下やバルコニー近くに乾燥機を置くのは簡単ではない。マンションの場合、住戸の中央部分に浴室や洗濯置き場が設置されやすく、それではダクトを設置しにくかったからだ。

 そのため、マンションやアパートで住戸の外、バルコニーなどに「乾太くん」を設置することはあったが、数は少なかった。

 ガス式衣類乾燥機は熱気を帯びた湿気を外に出すため、一定以上の太さがあるダクトを設置しなければならないし、ダクトを曲げてよい回数も制限されている。

 マンションで、住戸の中央に「乾太くん」を設置する場合、長いダクトが必要となり、消防法などの問題も生じる。

 「乾太くん」は、マンション住戸では採用しにくく、基本的に一戸建て専用の設備と考えられる時代が長く続いていたのである。しかし、その歴史もそろそろ終わりを迎えそうだ。

 というのも、今年に入り、「乾太くん」を設置した新築分譲マンションが近畿圏と首都圏で相次いで登場しているからである。

横浜でも「乾太くん」設置のマンションが

 まず、最初に登場したのは、大阪府箕面市で今年1月からモデルルームの公開がはじまった大規模マンション。省エネ性能を高めたZEH(ゼッチ)マンションで、そのなかの一部住戸に「乾太くん」が標準設置される。

阪急阪神不動産が販売中の「ジオ彩都いろどりの丘」で一部住戸に採用される「乾太くん」。同マンションの販売センターで参考展示されているのを筆者撮影
阪急阪神不動産が販売中の「ジオ彩都いろどりの丘」で一部住戸に採用される「乾太くん」。同マンションの販売センターで参考展示されているのを筆者撮影

 そして、今年9月からは住戸の中央部に「乾太くん」を設置(一部住戸を除く)したマンションが神奈川県横浜市で販売を開始した。

 冒頭の写真は、そのマンション販売センターで撮影したもので、下の写真が「乾太くん」の扉を閉じたところだ。

野村不動産の「プラウド横浜岡野一丁目」の住戸に設置される「乾太くん」(写真右上)。アイロン掛け、収納(背後に収納スペースがある)までワンストップでできる。販売センターのモデルルームで筆者撮影
野村不動産の「プラウド横浜岡野一丁目」の住戸に設置される「乾太くん」(写真右上)。アイロン掛け、収納(背後に収納スペースがある)までワンストップでできる。販売センターのモデルルームで筆者撮影

 このガス衣類乾燥機は、モデルルーム見学者に大好評。洗濯に要する時間が短縮されるし、急いで洗濯・乾燥させなければいけない運動着などにも対応できるからだ。その結果、「乾太くんが付く」は、マンションの大きなアピールポイントになっている。

マンションに「乾太くん」が進出しはじめたのは……

 今年に入り、マンションでの「乾太くん」導入例が増えた背景には、「乾太くん」設置方法が進化したことが大きいと考えられる。東京ガスの場合、消防法などをクリアしたマンション向けの設置方法を確立させ、2020年から不動産会社に提案。その採用例が今年から出始めたわけだ。

 なお、マンションの住戸内に「乾太くん」を設置する手法は、あくまでも新築工事用に開発されたものだ。今のところマンションのリフォームで室内に「乾太くん」を後付けするのはむずかしい。

 マンション生活でガス式の衣類乾燥機を使いたかったら、それを採用している新築物件を選ぶ必要があるわけだ。

 ちなみに、「乾太くん」を設置して分譲されたマンションならば、将来、「乾太くん」の更新も容易になる。ダクトは引き続き利用できるので、本体だけ買い替えればよいからだ。そう考えてゆくと、「乾太くん」が付いている新築マンションの価値は高い。

気になる設置コストと所要時間、短所は……

 これからの新築分譲マンションにおいて、「乾太くん」の設置例は増えて行くだろう。そこで、気になるのは「乾太くん」を設置することで生じる費用や使い勝手だ。

 「乾太くん」はリンナイの製品で、容量5キログラムのサイズを一戸建てにリフォーム設置する場合、工事費込みで20万円を少し超えるくらいが費用の目安となる。新築マンションに設置される場合、ダクトが長くなるし、ダクトまわりの処理も必要なので、一戸建てよりも安くなることはないだろう。

 しかし、その費用は新築マンション価格に含まれる。つまり、「乾太くん」の代金は35年ローンで返済可能となる。

 ランニングコストは、5キログラムで1回当たりの電気代・都市ガス代で40円程度とされる。

 次に、乾燥に要する所要時間について。

 メーカーによると、5キログラムの衣類乾燥に要する時間は52分ということになっている。

 しかし、実際の使用感ではもっと早く乾く。じつは、私も10年以上前から「乾太くん」の愛用者なのだが、その実感では「乾燥に要する時間は30分程度」だ。

 それは、5キログラムの容量があっても、そこまで詰め込まないからだろう。内部に余裕があれば、乾燥時間は短縮される。

 洗濯で30分、乾燥で30分ならば、計1時間で洗濯乾燥が終わる。さらに、「乾太くん」と洗濯機を同時稼働させれば、乾燥が終わるタイミングで次の洗い物も終わる。そこで、休日にまとめ洗いをする場合、洗濯機・乾燥機の2回まわしや3回まわしが無理なくできる。ガンガン洗って乾かすことができるわけで、そのことに魅力を感じる人も多いのではないか。

 最後に、「乾太くん」に短所はないか。

 よく言われるのは、値段が高いことと、設置工事が大変なこと。しかし、新築マンションにはじめから付いていれば、2つは問題にならないだろう。

 それ以外の短所として……これはあくまでも私の使用感だが、素材によっては縮みが生じる。特に綿100パーセントの鹿の子ポロシャツは縮みやすいように感じる。なので、綿のポロシャツは「乾太くん」には入れないようにしている。

 短所といえば、それくらいである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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