「古民家暮らしが味わえるマンション」がグッドデザイン賞に どんなものか見てきた
朝、マンションの自宅を出て、車で里山の古民家に向かう。その一室でデスクワークを行って夕方、自宅に戻る。その行き来の道は、信号もすれ違う車も少ないワインディングロードで、ドライブも楽しい……自然の中のワーケーションとはこのようなものか、という体験ができる取り組みが今年のグッドデザイン賞を受賞した。
舞台は千葉県の房総半島に位置する市原市。市原市内には都市化が進むエリアと、人口減少に歯止めがかからず過疎化が進むエリアがある。
都市化が進むエリアで今年9月に完成したマンションが「ルネ市原八幡宿」。同マンションを開発した不動産会社・総合地所が市原市内の里山に残る古民家を2年間借り上げて、同マンションの別荘として活用することを考えだし、実現させた。
これが「再生古民家活用による地域コミュニティ創出」を掲げた「みなさと」プロジェクトで、地域の活性化に寄与しようという姿勢が評価されてグッドデザイン賞を受賞したのである。
マンションの受賞も多い「グッドデザイン賞」
10月7日に発表された「2022年グッドデザイン賞」で、受賞したのは1560点。そのなかにはマンションも多く含まれた。
たとえば、保全緑地を擁する大規模マンションの「リーフィアレジデンス橋本」やリゾート感覚あふれる低層マンションの「ザ・パークハウス 新浦安マリンヴィラ」、学生寮、シェア型企業寮、賃貸マンションの複合施設となる「コムレジ赤羽」……いずれも、私の記事で紹介したことがあるマンションだ。
そのなか、興味深かったのが冒頭で紹介した別荘生活やワーケーション体験ができる「みなさと」プロジェクトである。
そこでは、具体的にどんな体験ができるのか。11月に入ったばかりの秋の1日、マンション住人になったつもりで、古民家に出かけてみた。
古民家というより、昭和レトロな家か
2年間借り上げられ、「ルネ市原八幡宿」住人専用の共用施設として利用されるのは、築50年の一戸建て(冒頭の写真)。昭和40年代の建物なので、古民家というより昭和レトロな一戸建てといったほうがぴったりきそうだ。
スタジオジブリの映画に出てきそうな昭和のムードは、若い方々には新鮮で、年配の方には懐かしいだろう。
レトロ感を残すため、建物に手を加えるのは最小限に抑えられた。畳敷きで2間続き・縁側付きの居室は、もちろん、そのまま残されている。
トイレや浴室もタイル張りの内装はそのまま。ただし、給湯器や水栓金具などは現代のものに刷新されているので、不便さはない。
この住宅は「ルネ市原八幡宿」の住人用別荘として利用されるほか、ワーケーション利用も可能。パソコンでの作業ができるように、2つのデスクとWi-Fi設備が備えられている(パソコンは利用者が持ち込む)。つまり、マンションから里山まで“通いのワーケーション”ができるようになっているわけだ。
実際、マンションから古民家まで向かうと、「里山に移住するとこんな暮らしになるのか」とわかる。
「ルネ市原八幡宿」も古民家も同じ市原市内。しかし、電車も高速道路も利用しにくい位置関係にあるので、車で一般道を走り、片道40分〜50分の所要時間。しかし、そのルートは前述した通り交通量が少なく、信号も少ない道。緩やかなカーブが続く道路をのんびり走るのは、気持ちがよい。
田舎暮らしに憧れる人には、好ましいルートだと思われた。そして、古民家の周囲にコンビニも飲食店もない分、里山の風景が広がる一帯は非常に静か。水がきれいな川もあった。
自然豊かな里山での暮らしやワーケーションに憧れている人は、疑似体験できる、というメリットが十分にある。
ちなみに、別荘利用の場合、マンションの共用備品としてバーベキューセットやハンモック、大型プールなどの貸し出しもある。その点も含めて、グッドデザインと評価されたのだろうし、グッドアイデアだと思われた。
なお、築50年の住宅は2年間の借り上げ終了後、都市生活者が移住体験できる住宅として運用されてゆく計画である。