衝撃のF1デビューから19年、佐藤琢磨は今もバリバリの現役。12年目のインディカーに挑む!
今年の日本のモータースポーツシーンは7年ぶりの日本人ドライバーとしてF1にデビューした角田裕毅(つのだ・ゆうき)の話題でもちきりだ。デビュー戦となったバーレーンGPではフェルナンド・アロンソら元世界チャンピオンたちとバトルを展開し、ポイント圏外から追い上げて堂々の9位入賞を果たした角田のポテンシャルは半端ない。
デビュー戦入賞は日本人F1ドライバーの中では初めての記録だ。20歳という若さでF1デビューした角田は過去に日本人の先輩ドライバーが築き上げた記録はもちろん日本人ドライバーの「F1での常識、スタンダード」を次々に上書きしている。角田の登場で日本人がF1を見る視点は変わりつつある。
佐藤琢磨のF1デビューも衝撃的だった
日本人F1ドライバーの歴史で大きく潮目が変わったタイミングといえば2002年、佐藤琢磨のF1デビューだろう。
1987年に日本人初のフル参戦F1ドライバーとして中嶋悟がデビューして以来、日本人F1ドライバーはもはや1人は出場していて当たり前の存在だったが、佐藤琢磨のデビュー前は2年間、日本人ドライバーが不在だった。つまり「◯年ぶりの日本人F1ドライバー」ともてはやされる点では角田と佐藤琢磨のデビューは共通する部分がある。
それに加えて、佐藤琢磨は2001年に若手の登竜門と呼ばれた「イギリスF3」でチャンピオンを獲得し、同年のF3世界一決定戦「マカオGP」で優勝してF1デビューした。両タイトルともに日本人初の栄冠という偉業であり、それ以前は日本人が未来のワールドチャンピオン候補生たちと肩を並べ、世界一決定戦で優勝するなんてことは想像ができなかったことなのだ。
海外のレースで修行をし、F1シートを掴んだ日本人ドライバーはそれ以前にも居たが、チャンピオンという誰もが認める称号を手にしてF1に昇格したインパクトは大きかった。
2002年、佐藤琢磨が「ジョーダン・無限ホンダ」でデビューした時の年齢は25歳。今の角田に比べると若くはないが、当時としては新しい世代の選手が「彗星の如く」現れたという印象で、ファンの期待度の大きさは今の角田以上のものがあったとさえ感じる。
しかしながら、当時のジョーダンは資金難に陥っており、成績は振るわなかった。第2戦マレーシアGPでマークした9位は今のルールでいえば入賞なのだが、当時は6位までが入賞(ポイント獲得)となるルール。シーズンを通じてのポイント獲得は最終戦・日本GP(鈴鹿)の5位入賞だけだった。すでに2003年のレギュラーシートを失ってF1浪人になることが決まっていたが、最後のポイント獲得でも状況は好転せず、見守ったファンも「昔とは違うF1の厳しさ」を感じたものだ。
佐藤琢磨は2003年、「BARホンダ」からスポット参戦した鈴鹿で6位入賞し、2004年のシートを獲得。キャリア最高位となる3位表彰台をアメリカGPで獲得するなど大活躍した2004年は「日本人F1ドライバーによる優勝」をファンが初めて夢見た時だった。
2度のインディ500王者に
まさに2000年代のF1を面白く、ワクワクさせてくれた佐藤琢磨だったが、2005年以降のリザルトは厳しいものになっていった。アグレッシブなスタイルのドライビングゆえに接触によるリタイアも多く、なかなか成績が伴わないことも多かった。
2008年に「スーパーアグリ」がシーズン途中で撤退を余儀なくされてシートを喪失。そこから「トロロッソ」(現アルファタウリ)のテストドライブをするなどし、F1継続を模索するがシート獲得には至らず、2010年にアメリカの「インディカーシリーズ」に転向した。
F1とは全く異なるレース環境、アメリカに来た佐藤琢磨はすでに33歳。年齢的にはキャリアの締めくくりとしてインディカーを何年かチャレンジしてみるという感じだったかもしれない。過去の先輩F1ドライバーたちが歩んできた道と同じように。
しかし、佐藤琢磨は今年でインディカー12年目。
2013年にはインディカー日本人初優勝、2017年の「インディ500」日本人初優勝、そして昨年、なんと2度目の「インディ500」優勝を達成し、すっかりインディカーシリーズのレジェンドになりつつある。
ゴルフの松山英樹がマスターズで優勝し、グリーンジャケットを着たばかりだが、佐藤琢磨は世界三大レースの一つ「インディ500」を2回も優勝しているのだ。
すでに44歳という年齢になっている佐藤琢磨はシリーズにフル参戦するドライバーとしては今季も最年長である。親子ほどの年齢差がある20代前半のドライバーたちと激しくバトルをする姿は本当に年齢を感じさせない。「No Attack, No Chance」という座右の銘のごときアグレッシブさを保ちつつ、ベテランらしい巧みなレース運びで、3度目の「インディ500」優勝を狙う。
グロージャンなど新顔も登場するインディカー
佐藤琢磨は昨年「インディ500」を共に制した「レイホール・レターマン・ラニガンレーシング」から今季も引き続き全戦に参戦する。チームメイトはグレアム・レイホール、エンジンはホンダで変わらず。ただ、エンジニアのエディ・ジョーンズが引退したため、新しいエンジニアとのレースになる。
佐藤琢磨は「今年2021年は、昨年勝ったパッケージ、同じチームで迎えます。技術的には、エアロも変更になり、エンジニアも変わっていますが、少なくとも自分が戦って来た環境で走ることができるので、連覇を最大の目標にして頑張りますので、応援宜しくお願い致します」とコメントを出している。
一方でライバルたちはどうだろう。同じホンダエンジンを積む名門「チップ・ガナッシ」には昨年3位表彰台を獲得したアレックス・パロウが移籍。ホンダエンジンの「アンドレッティ・オートスポーツ」は21歳のコルトン・ハータがエース的ポジションに昇格。シボレーエンジンの「ペンスキー」もスコット・マクローリンのフル参戦が決定。トップチームはデータ共有面で有効と考えられる実質4台体制を敷いて、体制を強化してきたのが特徴だ。
また、今季は大物ドライバーも多数インディカーに参戦する。まず、NASCARで7回チャンピオンを獲得したジミー・ジョンソンが45歳にしてインディカーに初挑戦。チームは「チップ・ガナッシ」で、オーバル戦はトニー・カナーンが乗るため「インディ500」には出場しない。
そしてF1からはロマン・グロージャンが「デイル・コインレーシング」から初参戦する。昨年の火災事故による体調面も考慮し、今季はオーバル以外のコースに集中しての参戦だ。
さらに「インディ500」には先述のトニー・カナーンに加え、3度のウイナーであるエリオ・カストロネベス、2度のウイナーであるファン・パブロ・モントーヤなど佐藤琢磨より年上のビッグネームたちが挑戦することになっている。
昨年以上にビッグネームが増えた印象の「インディカーシリーズ」。当初予定より約1ヶ月遅れで4月18日(日)にアラバマのバーバー・モータースポーツ・パークで開幕する。
同サーキットのレースは昨年はコロナ禍でキャンセルになったため、前回のウイナーは佐藤琢磨(2019年)だ。この時は日本人初のポールトゥウインを成し遂げたレースだっただけに、相性の良いサーキットからシーズンが幕を開けていくことになる。
F1を沸かせる角田裕毅のエミリア・ロマーニャGPも楽しみだが、それを見終わった後は早朝から起きて、かつてF1を沸かせ、今はインディカーを沸かせる佐藤琢磨の活躍もぜひ楽しんでほしい。
【参考記事】
・佐藤琢磨がインディカー通算4勝目!42歳でポールトゥウインを飾った世界最速の校長先生。 (2019年アラバマ優勝)
・日本人としてインディカーで孤軍奮闘する佐藤琢磨。批判や理不尽に徹底抗戦し続ける理由 (2019年ポコノ)