スティーブン・フルトン、井上尚弥戦以来の再起
2023年7月25日に井上尚弥に完膚なきまでに打ちのめされ、WBC/WBOスーパーバンタム級タイトルを失ったスティーブン・フルトンが、再起した。対戦相手は30勝(14KO)2敗のメキシコ人、カルロス・カストロ(30)。今年5月に井上が東京ドームで下したルイス・ネリ、フルトンが122パウンドの統一戦で判定勝ちしたブランドン・フィゲロアから黒星を喫している選手である。
元々減量がキツく、井上戦の前からフェザー級転向が噂されていたフルトンにしてみれば、<安牌>と呼んでいい相手だった。
ただ、2022年2月5日のネリ戦を最後にフェザー級に上げており、126パウンドのファイトは今回が5度目と言う点にアドバンテージがあった。
カストロのチーフセコンドはロベルト・アルカザールが務めており、懐かしい気持ちになった。デビューからしばらく、オスカー・デラホーヤのトレーナーだった人物である。
一昨日も本コーナーで触れたが、ゴングがなった折、T-Mobile Arenaの客席はガラガラで、およそ9割の席が無人だった。そんな中で、フルトンは顔面にジャブ、ボディにストレートといった攻撃を見せ、ペースを握る。2回はジャブの差し合いで劣勢に立たされたが、やがて右ストレート、左フックをヒットして流れを掴む。
ところが第5ラウンド、カストロの右ストレートを浴びたフルトンが腰から崩れ落ちる。体格、頑丈さ、パワーでフェザーでは通用しないのか‥‥と感じさせた。元2冠スーパーバンタム級王者は逃げのフットワークで同ラウンドを凌ぐ。
パンチ力ではカストロに1日の長があったかもしれない。が、フルトンはその後ジャブで競り勝ち、要所要所で右ストレート、左フックをヒットしポイントを稼ぐ。8回はペースダウンしたが、それでも技術はカストロに優っていた。一方、アルカザールの教え子は攻撃が単調すぎた。
結局、96-93、95-94、94-95のスプリット・ディシジョンで、フルトンが2年3カ月ぶりの白星を挙げ、自身の戦績を22勝(8KO)1敗とした。井上尚弥に屠られた元王者が勝利者コールを受けた際、場内はブーイングに包まれたが、筆者の採点も96-93でフルトンの勝利である。
メキシコ系アメリカンであるカストロは、閑散とするアリーナで同胞の声援を耳にし、ダウンを奪ったことで己が優位と信じ込んでしまったのか。心の隙が生まれたのだとしたら、デラホーヤとフェリックス・トリニダード戦のようにポイント計算によるミスだ。
「この階級で自分の強さを感じる。ブランクの影響に対応することが課題だった。自分は成長して戻ってきた。カストロはメキシコの勇者だ。讃えてあげてほしい。
私のコーナーは、カストロの右を警戒し、左のガードを上げておけと言う指示を出していたから、従った。彼の右は強かったね。もっと手を出すべきだった。あまり足は使いたくなかったんだ。アウトボクシングは出来るので、まぁ良しとする。ジムに戻って、世界タイトル獲得を目指すよ」
井上尚弥との差は埋まりそうも無い。数々の名王者が誕生したフィラデルフィアで育ったフルトンは、今後どのように歩むのか。