型を取引先に無償保管させるのが調達業務の最大のリスク
不吉な予想があたってしまいましたね。私は3月に型の無償保管が公正取引委員会の次の指導・勧告対象になると予想しました。
6月30日「トヨタ系、下請け50社に金型を無償で長期保管させる」なる記事が発表されすぐに話題になりました。しかもサブタイトルが「最大30年・被害総額は数億円の可能性」だってさ。
全国約50社の下請け業者に、バンパーやタイヤのホイールなどの製造に使う自社所有の金型や検査用器具など650セット超を無償保管させたことが当局の目に留まったようです。
保管のコストは「億単位に上る可能性がある」(読売新聞)ようで関係者は気が気でないでしょう。
いつも同種の報道で気になるのですが、トヨタ「系」なのに読者はトヨタ自動車が何かやらかしたと思うでしょうね。それと公取委は公務員のはずで、このように秘密をメディアにリークすることは、国家公務員法違反にならないのかね。
それはいいとして話を進めます。
まず型取引はA・B・Cという類型があります。
A:取引先から金型を購入し所有権が発注側にある場合
B:取引先からはあくまで製品を購入するだけで所有権は取引先にあるが、型製作費用支払いや保管の指示を行うなど、現実的には、発注側が指示している
C:取引先からはあくまで製品を購入するだけで所有権は取引先にあり、かつ金型について指示をしていない
このCである場合以外は、量産終了後に金型を取引先に保管をさせ続けると問題になります。なぜかというと、商法の解釈では取引先は量産の期間は価格のなかに保管費用等が含めているとされます。量産が終わったら、その費用は取引先がそもそも想定していないと解釈されます(商法593条)。
その際に発注側の企業は下記を負担せねばなりません。
・型の保管に係る土地・建物費、外部倉庫費
・サビ取り、磨き、油差し、表面処理等のメンテナンス費
・型の保管に使用する設備費(パレット、棚等)
・その他労務費
型保管コストは絶対の正解がありません。取引先と具体的な費用を元に討議するしかないでしょう。
また保管ではなく廃棄は次の通り目安があります。重要なので再び繰り返すと保管ではなく廃棄ですよ。
・自動車関連産業:量産終了後15年
・産業機械関連産業:量産終了後10~15年
・電機・電子・情報関連産業:最終生産後3年
型の保管、ならびに廃棄を明確に意識した調達業務が必要です。先日、取引先に型保管をさせることがリスクであるという記事を私が発表したのですが、おそろしい反響でした。それだけ世の中の関心が高まっているのでしょう。
さて私は労務費の転嫁を含めて「『なあなあ』の時代の終わり」と考えています。つまりこれまで日本企業は「戦略的曖昧」だったといえるでしょう。いまでは男女の、そういう関係も、事前に明確化する必要がありますからね。良し悪しではなく、そういう時代だということですよ。「愛も商談も事前契約」。もう一度。「愛も商談も事前契約」。
愛している取引先とは事前に条件を明確化しておく。行政から非難されないような愛の形を証明すること。大げさにいえば調達業務はこれから愛の存在証明ということなんでしょうね……。
みなさまへ。真面目な話に戻します。
これから下請中小企業への対応が必要です。金型の無償保管対応はその一つです。条件をわざと不明瞭にしている場合が多いですが、その明確化が必要です。建前だけでも「お取引先様との共存共栄を目指していきます」と各社とも述べたわけですから、ついに理想の状況が生まれようとしていますね。