Yahoo!ニュース

『逃げ恥』強し! コンフィデンスアワード・ドラマ賞、ほぼ独占

碓井広義メディア文化評論家

オリコンの専門誌「コンフィデンス」が主催する、「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」。

対象が16年10月クール(10月~12月)の放送分となる、第6回の審査結果が発表されました。(http://confidence-award.jp/)

作品賞   『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)

主演男優賞 松岡昌宏 (『家政夫のミタゾノ』テレビ朝日系)

主演女優賞 新垣結衣 (『逃げるは恥だが役に立つ』)

助演男優賞 星野 源 (『逃げるは恥だが役に立つ』)

助演女優賞 石田ゆり子(『逃げるは恥だが役に立つ』)

脚本賞   野木亜紀子(『逃げるは恥だが役に立つ』)

新人賞   大谷亮平 (『逃げるは恥だが役に立つ』)

7部門中の6部門が『逃げるは恥だが役に立つ』という、ほぼ独占状態。

そんな中で、主演男優賞(女優賞に非ず)の松岡昌宏さん、大健闘です。拍手!

審査員の一人として参加させていただいたのですが、何時間にもおよぶ議論を経て、やはり今回は『逃げ恥』強し!でした。

この結果を伝える、共同通信の記事では・・・

栄えある作品賞に輝いたのは“恋ダンス”などで社会現象を起こした「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)。審査員からは「“毎週ドラマを見る”という、懐かしくもある“楽しみ”を久々に味わわせてくれた」といった声もあがり、同じく候補に上がった「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」を押さえ、満場一致に近い決定となった。(共同通信エンタメOVO 2017.01.20)

・・・記事の中に、<審査員からは「“毎週ドラマを見る”という、懐かしくもある“楽しみ”を久々に味わわせてくれた」といった声もあがり>とありますが、その声をあげた審査員は私です(笑)。まさに実感でした。

『逃げ恥』が始まったばかりの昨年11月はじめ、この欄に以下の文章を寄稿しました。

新垣結衣の「低欲望系高学歴女子」

今期ドラマのナンバー1として挙げたいのが、「逃げるは恥だが役に立つ」である。津崎(星野源)とみくり(ガッキーこと新垣結衣)は、ごく普通の新婚夫婦に見えるが、実は「契約結婚(事実婚)」だ。しかも夫が雇用主で、妻は従業員の関係。「仕事としての結婚」という設定が、このドラマのキモであり、核になっている。

みくりは、学部と大学院、2度の就職活動に失敗した。派遣社員となるが契約を切られてしまう。家事代行のバイトで津崎と出会い、契約結婚する。戸籍はそのままだが、住民票の提出によって健康保険や扶養手当も可能となる。業務・給料・休暇などを取り決め、家賃・食費・光熱費は折半。もちろん性的関係は契約外だ。

「こんなの、あり得ない」と言う人も、「あるかもしれない」と思う人も、気づけば、ガッキーと星野の奇妙な同居生活から目が離せなくなっている。2人が見せてくれる「誰かと暮らすこと」の面倒臭さと楽しさに、笑えるリアリティーとドキドキ感があるからだ。

何より、このドラマのガッキーが反則技的に可愛い(笑)。そして、ヒロインのみくりが魅力的だ。自分が美人であることの自覚がなく、様々な社会的欲望にも恬淡(てんたん)としている。また高学歴女子の知性も嫌みにならず、性格の良さと相まって天然風ユーモアへと昇華している。加えて、津崎を演じる星野が、これ以上の適役はないと思えるほどのハマリぶりだ。星野あっての「逃げ恥」である。

みくりも津崎もちょっと変わったインテリで、ガッキーと星野が真面目に演じれば演じるほど、見ていて可笑しい。いわばマイルドなラブコメだが、初めてのものを見たような”出現感”のある、“新商品”的ドラマになっているのだ。

今後の見どころは、みくりと津崎の“距離感”だろう。相手に対する気持ちや意識が変われば、快適だった契約結婚生活も危うくなってくる。成り行きから目が離せない。 (Yahoo!ニュース個人「碓井広義のわからないことだらけ」2016.11.05)

・・・「情熱大陸」から「サザエさん」まで、テレビ番組のパロディーや、登場人物たちのひねくれたやり取りにも苦笑い。

よく練られたせりふや展開、そして自在な演出が、ヒロインの魅力を下支えしていました。

新垣さんと星野さん、この2人でなければ成立しなかった異色のラブコメディーであり、新鮮な感動と幸福感が味わえたドラマでした。

受賞者・関係者の皆さん、おめでとうございます!

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

碓井広義の最近の記事