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セルティックスの急上昇はなぜ可能になったのか NBAのベテランスカウトが分析

杉浦大介スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 NBAを代表する名門ボストン・セルティックスが急上昇を続けている。

 1月6日、ニューヨークでのニックス戦では一時は25点をリードしながら、その後に反撃を許して逆転負けを喫した時点で18勝21敗。当時は攻守が噛み合っておらず、このまま厳しいシーズンを過ごすかと思われた。

 ところが、以降は16勝5敗。2022年に入って以降、ディフェンシブ・レイティング、ネット・レイティングはどちらも1位であり、イースタン・カンファレンスのトップ4も視野に入る位置まで浮上してきている。

 これほどの転換はどうして可能になったのか。1月上旬の時点ではセルティックスを酷評していたイースタン・カンファレンス某チームのベテランスカウトに、再び話を聞いた。このスカウトが所属するチーム名はここでは明かせないが、匿名であるがゆえに、正直で大胆な意見が聞ける。

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守備面で複数の修正

 セルティックスの好調の原因は100%、ディフェンスの向上だ。勝率5割前後でうろうろしていたチームは、基本的に守備の得意な8、9人だけを重点的にプレーさせる決断を下した。

 戦術面でもいくつかの修正を施している。まずは素晴らしい能力を持っているが、愚かなミスもしがちなロバート・ウィリアムズの守備範囲をあえて狭めさせた。ウィリアムズのミスを制限するために、ゴール下のディフェンスに専念させ、コートを走り回る役目は聡明なアル・ホーフォードに任せたことが功を奏している。

 また、セルティックスのピック&ロール対策は大きく改善された。シーズン中盤になぜそれが可能になったのかは私にもはっきりとはわからないので、これに関してはコーチ陣に答えを求めて欲しい。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 そして、これは極めて重要なことだが、エースのジェイソン・テイタムがディフェンス面で明らかにより献身的になった。本人が決意したのか、チーム内で話し合いが持たれたのか。いずれにせよ、これまで守備には無関心だったテイタムの姿勢が変わったんだ。

 セルティックスはリーグNo.1のディフェンシブ・チームとなり、それが好調期間の基盤となっている。ディフェンスは選手の努力によるところも大きく、なぜ序盤から中盤戦にかけてそれができなかったのかという点に疑問は残る。ただ、新しいコーチが指揮を執った場合、戦術の確立には時間がかかるもの。シーズン中にそれをやり遂げたセルティックスを称賛するべきだろう。

 トレードでの補強も成功

 オフェンス面ではマーカス・スマートのFG試投数が以前と比べて減少している。シュートを打つ代わりに、PGとして、リーダーとして、チームを助けようとしていて、他の選手たちもスマートに引っ張られている印象がある。

 昨年11月、スマートがテイタム、ジェイレン・ブラウンのショットセレクションに苦言を呈したことがあった。スマートは自分のパス力で彼らを生かせると主張し、当時はそうやって公に声を挙げたことで批判もされたが、今ではそれが正しかったと示すことができている。

 イメイ・ウドカHCから歩み寄ったのか、スマートの方からだったのかはわからないが、両者の間には信頼関係が生まれていて、それがチーム全体に好影響を及ぼしているのが見て取れる。

ホワイトとセルティックスのフィットは抜群と指摘される
ホワイトとセルティックスのフィットは抜群と指摘される写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 トレード期限にデリック・ホワイト、ダニエル・タイスを獲得したのも意味のある動きだった。サンアントニオ・スパーズでプレーしていたホワイトは、同じくスパーズ出身のウドカHCが標榜するシステムをすでによく理解している。もともとチーム重視のプレーができる選手であり、貢献するためにボールを手に持つ必要はない。そんなホワイトの加入のおかげで、セルティックスはよりフレキシブルなチームになった。

 (昨季途中までセルティックスに属した)出戻りのタイスはジャンプ力はないが、タイミングの良さでブロックを稼げてしまうビッグマンだ。とても頭が良く、勝利に貢献できる選手でもある。

優勝候補とまではいかずとも、危険なチーム

 私はテイタム、ジェイレン・ブラウンのどちらかを放出すべきと考えていたが、セルティックスは結局、テイタム、ブラウン、スマート、ロバート・ウィリアムズという4人のチーム内ベストプレーヤーを1人も放出せず、チームにフィットする選手を獲得することで戦力を向上させた。

 同時に給料総額も削減させている。私はそんなことが可能とは思わなかったから、ブラッド・スティーブンス球団社長がやり遂げたことを素直に認めなければいけない。今の彼らは危険なチームだ。

 セルティックスが大きく向上したのは事実だが、イースタン・カンファレンスの優勝候補として彼らを真剣にマークすべきだとまでは言わない。ただ、イースタンには他にも“グレート”と呼び得るチームが存在しないのも事実だ。ブルックリン・ネッツ、昨季王者のミルウォーキー・バックス、バム・アデバヨが健康な時のマイアミ・ヒートも力のあるチームだが、圧倒的な力を誇示しているわけではない。

 堅守を誇るセルティックスがプレーオフで勝ち進む力を秘めているかと問われたら、“イエス”と答える。一方で、オフェンスの甘さがゆえ、第1ラウンドであっさり敗れてもまったく驚かない。終盤戦からプレーオフにかけて、先の読みづらい戦いを続けるだろう。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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