石原経財相とユニクロの言うことは本当か~暖冬が企業の利益率に影響を与えるか調べてみた
暖冬はほんとうに悪者か
「暖冬のせいで業績が悪化した」とか「暖冬のせいでGDPが落ち込んだ」といった論をよく聞きます。そのたびに、これまで私は「暖冬は大変だろうな」と思いながらも、どこか違和感を抱いてきました。そこで今回は、暖冬がほんとうに悪者といえるのかを検証しました。
結論を述べれば、暖冬は企業業績と相関はさほど見られず、一因ではあっても、暖冬を悪者にはできない、というものです。
暖冬をめぐる言説
先日の報道によると、経財相はこうおっしゃったそうです。
たしかに、暖冬が冬物衣料を大きく落ち込ませたかもしれません。ただ、これをGDPのマイナス成長とつなげることに違和感を抱きました。
大手ではユニクロ(ファーストリテイリング)が、第1四半期について「暖冬」という言葉を何度も使いながら苦戦を説明しています。これも、ユナイテッドアローズは好調ですから、暖冬だけが問題かなと思わざるをえませんでした。
なお、消費増税がGDPマイナスの要因だと私は思っています。ですので、世界的経済失速も襲うなか、逆にあのていどで済んでよかったな、とも思います。また、ユニクロ(ファーストリテイリング)に関しては、失速とか苦戦といっても、それでもじゅうぶんに立派な業績であるのは疑いえません。なんだかんだいって営業利益率15%は凄いですよね。
とはいえ、暖冬ばかりが悪者になっているのが正しいのか、以下、検証しました。
暖冬と企業業績の比較にあたって
まず使ったのは気象庁のデータベースです。ありがたいことに、気象庁は過去の気温データを公開しています。そこで「平年差」というものを活用しました。
すなわち、数値が高かったら平年よりも気温が高く、数値が低かったら平年よりも気温が低い、というわけです。これを四半期ごとに拾っていきます。
そして、次に法人企業統計のデータを使います。これは財務省が実施しているもので、日本の業種別売上高やら損益等々を調査しています。
ここで、「衣服・その他」のカテゴリーを使いたいのですが、平成20年度までしかありません。したがって、最新データまで公開されている「繊維工業」のものもあわせて検証してみます。この法人企業統計から営業利益を抽出し、営業利益率を求めました。
売上高は伸びていくものでしょうから、営業利益「率」を使いました。また、経常利益や最終利益ですと、他の要因がからんできますから、本業の利益を示す営業利益が良いと判断しました。
暖冬が影響するのであれば、こういう関係が成立するはずです。
暖冬と企業業績の比較
さて、そこで過去30年分のデータを調べてみました。まずはユニクロ(ファーストリテイリング)も影響があるとおっしゃっていた、10月から12月までの平年差と、10月から12月までの四半期の企業業績を比較しました。
上記の図とおなじく、縦軸が平年差で、横軸が営業利益率です。
●繊維工業(資本金1億円以上)における東日本の平年差と営業利益率との関係~2014年から過去30年分
うむ……。これは相関を見つけるのが難しいですね。気温なんて関係なさそうに見えます。なお、実際の相関を自乗したものを決定係数と呼びます(この値が1に近いほど関係性が濃い)。この決定係数は0.005218217にすぎませんでした(この値が0に近いほど関係性が薄い)。
さきほどのグラフは東日本のものでしたから、「いや、西日本の平年差は関係があるはずだ!」と指摘する方もいるかもしれません。でも、おなじく相関を見つけられませんでした。グラフはもう掲載しませんが、決定係数は0.00620909でした。
●衣服その他(資本金1億円以上)における東日本の平年差と営業利益率との関係~2008年から過去30年分
そんなことないだろう、と思い、次に「衣服その他」でやってみましたが、これまた相関を見つけられませんでした。決定係数はこれまた0.007672782にすぎません。西日本も決定係数は0.009913889しかありませんでした。
ということは、10月から12月はまだ冬本番ではないのではないか。
そう思って、次は、翌四半期を比べました。たしかに、2月がもっとも寒いですから、1月から3月までの平年差と、1月から3月までの四半期の企業業績を比較しました。
●繊維工業(資本金1億円以上)における東日本の平年差と営業利益率との関係~2014年から過去30年分
これまた相関はないかなあ、と。決定係数は0.006955316でした。しつこいですが、西日本も0.006803271ですから、東西差はなさそうです。
●衣服その他(資本金1億円以上)における東日本の平年差と営業利益率との関係~2008年から過去30年分
もうわかったよ、って感じでしょうが、相関はなさそうです(東日本の決定係数0.012857543、西日本は0.026581687)。
暖冬は悪者なのか
こうやって見ますと、暖冬と企業利益率に関係はなさそうです。もちろん直感的にも、暖冬でしたら、厚手のコートを買う必要はありません。それにダウンジャケットも売れなくなるかもしれません。しかし、実際には、もっと複雑な要因がからみます。個々の企業の努力もあれば、社会全体の景気もあります。
これは暖冬の要因を完全否定するものではありません。ただ、「暖冬→悪化」「暖冬→利益減少」という単純な図式で語られるほど背景は「無邪気」ではない、ということです。
石原経財相へ、暖冬に基本的人権をお願いします。
あ、基本的「季節」権か。