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なぜインテルは優勝を逃した? それでも「セリエA最強」? カルチョの“三賢人”が太鼓判

中村大晃カルチョ・ライター
1月6日、スーペルコッパ決勝ミラン戦でのインテル主将ラウタロ(写真:ロイター/アフロ)

インテルが4連覇を逃した。

1月6日のスーペルコッパ決勝で、インテルはミランに2-3で敗れた。前半の終了間際と後半の立ち上がりに2得点。最高のタイミングでネットを揺らし、2点を先行したにもかかわらず、逆転負けで今季初のタイトルを逃している。

純粋なチーム戦力、ミランの監督交代劇、シモーネ・インザーギ監督のカップ戦との相性、不振が騒がれていたラウタロ・マルティネスの先制点、そして2点リード。インテルが逃げ切って優勝するとの見方は少なくなかったはずだ。

しかし、テオ・エルナンデスのFKで1点を返され、負傷から復帰した途中出場ラファエウ・レオンの活躍で流れを失うと、再度の勝ち越しを目指していたなか、アディショナルタイムに決勝点を許した。

■今季の成績は不十分?

決勝ダービーを落としてのV逸が痛手なのは言うまでもない。

ただ、今季のインテルはセリエAで首位に勝ち点4差の3位につけている。しかも2試合未消化だ。チャンピオンズリーグ(CL)では6試合で4勝。わずか1失点でプレーオフを回避しての決勝トーナメント進出圏内につけている。コッパ・イタリアでもベスト8に駒を進めた。

それでも、インテルのポテンシャルからは不十分との見方がある。

『La Gazzetta dello Sport』紙のステーファノ・アグレスティ記者は、「不確実なことが存在し、昨季と比べて継続性、信頼性、一貫性などが一歩後退。なぜだ?」と疑問を呈した。

上位との直接対決の成績も懸念材料だ。

ミランにはホーム扱いだった9月のリーグ戦でも敗れている。6連勝していたダービーは、これで2連敗となった。流れが変わりつつあるとの見方も浮上している。

ほかにも、ユヴェントス戦では一時2点を先行しながら追いつかれ、4-4と引き分けた。ナポリ戦も1-1とドローだ。いずれもホームで勝ち点3を手にすることができていない。

アタランタにはリーグ戦とスーペルコッパ準決勝で連勝し、ラツィオはセリエAで6-0と粉砕している。しかし、インテルの力からすれば十分でないとの評価があるのだ。

■終盤の呪いを払しょくできるか

フランチェスコ・ピエトレッラ記者が『La Gazzetta dello Sport』紙で指摘したのは、終盤の失速だ。

今季のインテルは公式戦の26試合で19失点しているが、そのうち10失点が80分以降に許したゴール。敗れたダービーの2試合とCLレバークーゼン戦でも、終盤に決勝点を献上している。

過密日程に加え、消耗も大きい戦術で、疲労の影響は否定できない。今季のインザーギがターンオーバーを重視し、負荷のマネジメントに気を配っているのは周知のとおりだ。フランチェスコ・アチェルビやバンジャマン・パヴァールの負傷も響いただろう。

それでも、ヤン・ビセックの成長もあり、インテル守備陣に十分な力があるのは変わらない。OBアンドレア・ストラマッチョーニは、昨季リーグ開幕17戦7失点の守備が、今季は15失点と倍増したと指摘。スクデットを獲得した昨季と比べ、「堅実さと守備での気質」が失われていると話した。

圧倒的な強さで国内を制した翌年に、同じハングリー精神を保つのは難しい。インテルから「飢え」がなくなったとの声もある。そしてそれは、試合終盤の集中力に影響しているかもしれない。

ファビオ・カペッロは、『La Gazzetta dello Sport』紙で、スーペルコッパ決勝は「軽率になる過ちを犯したという印象を受けた」という。ミランを相手に「勝てると確信して怠けたかのようで、最後はその代償を払うことになった」と批判した。

さらに、「スクデットを獲ったときの集中とスピリットが消えるときがある。昨季はずっと試合を通じて闘志があったが、それができていない」と指摘。「最後まで同じインテンシティーで戦わなければ罰せられる」と、負けるべくして負けたと述べている。

■「時に敗北からは勝利以上を学ぶ」

そのうえで、カペッロは「(昨季の)スピリットを取り戻したら、リーグ戦でライバルたちにできることは少ないだろう」と、インテルの強さそのものは揺るがないとの見解を示した。

「最強であり、それは変わらない。クオリティーと経験のあるチームで、インザーギのような最高の指揮官がおり、極めて堅実なクラブが背後で支えているからだ」

ラファエル・ベニテスも「インテルがとても強いチームであることは変わらない」と話す。

決勝の結果に驚いたというベニテスは、「チーム内で無自覚的に安心する感覚が生まれたのかもしれない」と、やはり精神的な緩みに言及。そのうえで、ミランを称賛すべきとし、ハカン・チャルハノールの負傷の影響も指摘した。

そしてベニテスは「ひとつの黒星で評価が変わることはない」と強調。「敗北を忘れ去った、あるいは似たような状況で役立つ教訓を得たということを、短期間で示さなければ」と、引きずらずに勝利を取り戻すのが大切としている。

アッリーゴ・サッキも「大事なのは間違いを理解し、それらを正し、すぐに軌道修正すること」だと述べた。「インテルがセリエAのベストチームとの考えは変わらない」という。

インテルに「欠点が見当たらない」というサッキは、「極めてうまくグループをマネジメントできることを示してきた」とインザーギを評価。「非常に成長した。確実に以前より勇敢になった。そしてその勇気をチームに伝えた」と指揮官を絶賛、インテルに太鼓判を押した。

「ミスを理解し、正す限りは、心配すべきことは何もない。時に敗北からは勝利以上を学ぶものだ」

1月6日、スーペルコッパ決勝で準優勝のメダルを受け取ったインテルのインザーギ監督
1月6日、スーペルコッパ決勝で準優勝のメダルを受け取ったインテルのインザーギ監督写真:ロイター/アフロ

■下位を相手に試される精神力

インテルが教訓を生かせるか、試金石となるのが、1月12日に行われるセリエA第20節のヴェネツィア戦だ。19位と降格圏に沈む下位を相手に、確実に結果を残すことが求められる。

2022-23シーズンの最後にCL決勝でマンチェスター・シティに敗れて以降、インテルはスーペルコッパ決勝が昨季開幕から7敗目だった。そしてこの1年半、負けた次の試合の戦績は5勝1分け。黒星を喫しても、すぐに巻き返してきたということだ。

インテルは今回の敗戦からもすぐに挽回できるか。国内と欧州の双方で大きな目標を掲げているだけに、つまずきは許されない。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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