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なぜセリエA昨季得点王が「最悪」の不振に? ラウタロを支え、復活に向かわせるのは「音」?

中村大晃カルチョ・ライター
1月2日、スーペルコッパ準決勝でのインテルFWラウタロ・マルティネス(写真:ロイター/アフロ)

どれだけシュートを打っても決まらない。まるで呪いにかけられたようだった。

ラウタロ・マルティネスが不振にあえいでいる。昨季はセリエAと夏のコパ・アメリカで得点王に輝き、インテルとアルゼンチン代表の優勝に大きく貢献した。バロンドールの投票で7位だったのは不当との声も少なくない。

それが今季、ラウタロは公式戦23試合出場で7ゴールにとどまっている。ネットを揺らすのは232分ごと。昨季は44試合で27得点をあげ、128分おきにゴールを決めていた。特に2月まではリーグ戦24試合出場で23得点をあげている。コパ・アメリカも6試合で5得点。しかも出場時間合計221分での記録だった。昨季と今季の違いは明白だ。

1月2日に行われたスーペルコッパ・イタリアーナ準決勝のアタランタ戦でも、ラウタロは無得点だった。シュートは8本、うち枠内は3本。だが、絶好機も相手GKマルコ・カルネセッキに阻まれた。「ラウタロに決めさせたい」。パスを出し続けた仲間たちからは、そんな思いがひしひしと伝わった。

5日の会見で、ラウタロは「こういう時期も経験してきたが、今回は最悪だと思う」と苦笑いした。こうなると、会見最初の質問への回答時、音響がおかしくなったアクシデントも、何かの呪いなのかと感じられてしまう。(動画7分20秒ごろから)

■不振でも支えとなる「音」のなさ

なぜ、今季のラウタロはゴールを決められないのだろうか。

レジェンドOBのジュゼッペ・ベルゴミは、『La Gazzetta dello Sport』紙で「今季はもらいにいく動きを増やしており、ゴールを背にしてくさびとなるプレーが多い。きれいにさばくときもあれば、正確でないこともあり、それがフィニッシュの際に精神的に左右させるのかもしれない」と話した。

ただ、ベルゴミは「まだSOSを出す必要はない」とも述べ、表情からは精神面を心配する必要はないとも指摘した。サポーターの絶対的な信頼が支えになっているという。

ベルゴミはインテルの過去のFWが経験してきた不振と違い、ラウタロは「間違えてもサン・シーロの危険なざわめきを聞くことはないと知っている」と話した。

「それは彼の功績だ。カリスマ性やこれまでやってきたすべての功績だよ」

これまでも難局を経験してきたラウタロだが、苦しくてもチームのために戦い続ける姿勢は変わらなかった。ラウタロを評価する際に重要なのがゴールだけでないことは、サポーターが知っている。

現代サッカーはかつてと違う。イタリアであっても、DFは守備一辺倒では評価されず、攻撃面でのクオリティーが重視されるようになった。ならば、FWも得点だけではなく、チームのためのパフォーマンスが重視されるべきだろう。

■不振脱却に必要となる「音」

実際、ラウタロのキャプテンシーは高く評価されている。チームファーストの姿勢は周知のとおりだ。

やはりレジェンドOBのアレッサンドロ・アルトベッリも、チームのための働きぶりを称賛している。

そのうえで、アルトベッリは「ある種の状況ではもっとエゴイストにならなければならない」とも指摘した。PK獲得時に仲間に譲らず、自ら決めて自分を盛り立てるべきとも進言した。

また、アルトベッリはベルゴミと違い、「自信の欠如でしかない」と、精神的影響の大きさを主張している。

「蹴る前に少し考えすぎだ。重要なゴールをひとつ決めるだけで解き放たれる」

では、そのゴールのために何が必要なのか。自身もFWだったアルトベッリは、不調時に1時間の居残り練習をしていたと振り返った。

「ゴールネットの音に再び馴染むまで、シュートを繰り返すんだ。ラウタロに足りないのは、ゴールネットの音だよ。ボールがゴールネットを揺らす音だ。あの音が興奮させるんだよ。アドレナリンになるんだ。練習であっても、あの音には価値がある。まったく重要ではないと思われるだろうが、実際にはあれで再び普段どおりになれるんだよ」

■決勝で4季連続ゴールなるか

ラウタロがそういった練習をしているかは不明だが、プレーが良くなってきたとの評価が増えているのも確かだ。

バカンスとシーズン前の準備時間が短かった影響で、今季のラウタロはコンディションが良くなかった。だが、直近は調子が上がってきたとの声も少なくない。本人も同じように感じているという。

インテルは6日、スーペルコッパ決勝でミランと対戦する。

2022-23シーズンのチャンピオンズリーグ準決勝セカンドレグを最後に、ラウタロはミランとのダービーでここ3試合得点がない。だが、スーペルコッパ決勝ではこれまで3シーズン連続でいずれもゴールを決め、インテルの優勝に貢献してきた。

ファンはラウタロが足かせを外し、「ケチャドバ」となることを期待しているだろう。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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