カワサキワークスが鈴鹿8耐に復活!ホンダ、ヤマハとの3メーカーワークス戦争が勃発だ。
夏恒例のオートバイ耐久レース「鈴鹿8時間耐久ロードレース」(鈴鹿8耐)についにカワサキワークスが復活することになった。ワークスチーム「Kawasaki Racing Team」としての参戦は18年ぶり。ライダーにはカワサキZX-10RRに乗って「スーパーバイク世界選手権」を戦うジョナサン・レイ(イギリス)、レオン・ハスラム(イギリス)、そしてトプラック・ラズガットリオーグル(トルコ)を起用。カワサキは最強の布陣で26年ぶりの「鈴鹿8耐」優勝を狙う。
KRTこそがカワサキワークス
カワサキがワークスとして「鈴鹿8耐」に参戦するのは18年ぶりのことだ。
まず大前提として、これまでの活動と今回発表されたワークス活動の違いについて説明しておかないといけないだろう。これまでは「Team Green(チームグリーン)」がカワサキのトッププライオリティチームとして「鈴鹿8耐」に2014年から参戦してきた。しかし、「Team Green」は本体である川崎重工の活動ではなく、同社の製品を販売する子会社の「カワサキモータースジャパン」が運営するレーシングチーム。製品販売を担う会社として予算を付けて、国内での商品PR活動を行うと共に、その一環として全日本ロードレース選手権と鈴鹿8耐に参戦を行なっているチームだ。
一方でワークスチーム「Kawasaki Racing Team」(KRT)はバイク本体の開発、製造を担う「川崎重工」の直属チームとしての活動である。「KRT」を名乗る活動としては2002年〜2008年に参戦したMotoGP、そして4連覇中のジョナサン・レイを起用するスーパーバイク世界選手権などがある。いわゆるプレミアクラスの世界選手権レースでしか見ることができない名前なのだ。川崎重工本社の意思が直接反映される、いわゆるファクトリー(=大企業)としての活動となるため、これまでの「Team Green」としての活動とは根本的に異なるものなのだ。
発表された内容を見ると、監督にはギム・ロダが起用される。スーパーバイク世界選手権の「Kawasaki Racing Team」でもマネージャーを務める同チームの最重要人物が陣頭指揮を取るということは、いわばスーパーバイク世界選手権で勝利を重ねてきたチームがそのまま鈴鹿8耐を戦うことになるということ。カワサキは鈴鹿8耐の優勝を本気で取りに来たと言っても良いだろう。
あまりに突然の発表だった
カワサキのワークス復帰の知らせはまさに青天の霹靂であったと言える。鈴鹿8耐が開催される鈴鹿サーキットでは4月20日(土)、21日(日)に全日本ロードレース選手権JSB1000の第2戦が開催されていたが、パドックでワークス復帰の噂話をする関係者は皆無。むしろ、「今年の鈴鹿8耐に本当にジョナサン・レイが来てくれるのかどうなのか、まだ決まっていないようだ」という声が聞こえていたくらいで、レイとの交渉が難航していると考えられていた。
しかし、レイが首を縦に振り、契約書にサインする体制を川崎重工は用意。それが「Kawasaki Racing Team」としての鈴鹿8耐参戦という答えだったのだ。
ただ、そこに至る布石は昨年からあったのも事実だ。昨年、ジョナサン・レイ、レオン・ハスラムという鈴鹿8耐・優勝経験を持つトップライダーを起用し、一気に優勝争いに絡んできた「Team Green」だが、スタッフやメカニックは全日本ロードレースを戦う国内メンバー中心で変わらなかったものの、レイが乗る事前テストのタイミングで「Kawasaki Racing Team」からチーフメカニックのペレ・リバらが来日。彼らが関わったテストではカワサキZX-10RRが完全にレイの仕様に仕上げられ、チームはまさに王様レイを中心に回っていくことになったという経緯がある。その中身は「ワークスとは言わないワークス」といった印象だった。
事実、レイの好み通りに仕上げられたカワサキZX-10RRのポテンシャルは凄まじく、最終予選「トップ10トライアル」では2015年にポル・エスパルガロ(ヤマハ)がマークした2分6秒000を大きく上回る、2分5秒403をジョナサン・レイがマーク。ライバルを約0.7秒も引き離す速さで見事、ポールポジションを獲得した。
台風の影響で雨からスタートした決勝レースではヤマハワークスの「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」とジョナサン・レイも乗る「Kawasaki Team Green」が見応えのあるマッチレースを展開。途中、また強くなった雨にジョナサン・レイは足元をすくわれて転倒。優勝を逃すことになったが、「Kawasaki Team Green」は3位表彰台を獲得した。
当然、この結果に対するリベンジという思いもあるだろう。しかし、ワールドチャンピオンのジョナサン・レイ、ワールドチャンピオンマニュファクチャラーは感情論で動く領域の選手、組織ではない。プロフェッショナルとして達成すべき答え、それが26年ぶりのカワサキの鈴鹿8耐優勝なのだろう。
ワークス対決からワークス戦争へ
とはいえ、カワサキワークス「Kawasaki Racing Team」のライバルは例年以上に強力だ。先日の全日本ロードレース選手権JSB1000 クラス・第2戦(鈴鹿)ではホンダワークス「Team HRC」の高橋巧が独走で2レースとも優勝を飾り、王者ヤマハワークス「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」を凌駕した。
ホンダワークスの進化は驚異的で、高橋巧はライバルよりも1周あたり約1秒速く、トップスピードも10km/h速い310km/h前後を記録。もはやライバルは完全にお手上げ状態となり、鈴鹿8耐の前哨戦とも言えるレースで2位争いを展開せざるを得なかったのだ。今年のホンダは速すぎる。
そうなれば、当然、王者のヤマハワークスも、参戦を発表したカワサキワークスも、スズキのトップチーム「ヨシムラ」も黙ってはいられない。これから7月28日(日)の限られたタイムリミットの中で、ホンダワークスに追いつけるバイクを仕上げなければならないのだ。ただ、今季は規定の変更により、トップチームは合同テスト(3日間)以外は7月のテスト走行ができない。そのため、今年は5月、6月に鈴鹿でプライベートテストが頻繁に実施されると見られており、鈴鹿8耐を戦う海外のトップライダー達は自身のレースシリーズの開催地と鈴鹿を往復することになるのだろう。長期間に及ぶなかなかタフな準備になりそうだ。
これから各メーカーはゴールデンウィーク明けに鈴鹿8耐に向けた最終編成の組閣を行うと考えられている。そんな中、ゴールデンウィーク突入前にワークス復帰を発表したカワサキ。ついに本腰を入れたカワサキの脅威にライバルメーカーが翻弄される鈴鹿8耐になるのかもしれない。
決戦の舞台、「鈴鹿8耐」(42回大会)は7月25日(木)〜28日(日)に鈴鹿サーキット(三重県)で開催される。