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グリーズマンのバルサ移籍が決定。課せられたミッションと、CLへの強迫観念。

森田泰史スポーツライター
背番号17を選んだグリーズマン(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

アントワーヌ・グリーズマンのバルセロナ移籍が決定した。

最終的にグリーズマン獲得を決めたバルセロナだが、その裏には2018-19シーズンのチャンピオンズリーグの結果があった。

18-19シーズンのチャンピオンズリーグはリヴァプールの優勝で幕を閉じた。不可能を可能にーー。そんな大会だった。逆転に次ぐ、逆転。パリ・サンジェルマンの早期敗退とアヤックスの躍進に見えた、資金潤沢なクラブの停滞と哲学を掲げるクラブの復活。今後の分岐点になるようなトーナメントだった。

ただ、忸怩たる思いで、この大会を終えたクラブがある。それがバルセロナだ。

■CLへの強迫観念

過去7回の決勝戦で常に敗れていたユルゲン・クロップ監督が、ようやく栄冠を手にした。2013年にボルシア・ドルトムントでバイエルン・ミュンヘンに敗れ、昨年リヴァプールでレアル・マドリーに敗れた。そのお膳立てしたのは、他ならぬバルセロナであった。

バルセロナは準決勝のファーストレグを3-0で制したものの、セカンドレグでモハメド・サラーとロベルト・フィルミーノを負傷で欠いたリヴァプールに屈した。その試合前に出場時間100分ほどだったディヴォク・オリジに2ゴールを叩き込まれ、バルセロナの決勝進出の道は絶たれたのだ。「アンフィールドの危機」による、バルセロナのイメージダウンは避けられなかった。

バルセロナが最後にビッグイヤーを掲げたのは2014-15シーズンに遡る。以降、ある種のオブセッション(強迫観念)がクラブの周囲を取り囲んだ。

クラブの哲学が揺らぐほどに、その強迫観念に支配された。育成重視、カンテラーノ登用、そういった方針は忘れ去られようとしている。エルネスト・バルベルデ監督の下でトップデビューを飾ったカンテラーノ10名は、誰一人としてトップに定着していない。

義務感が、大型補強を推進させる。そして、選ばれたのがグリーズマンだ。

■亀裂

だがグリーズマン獲得に際しては、アトレティコ・マドリーとひと悶着あった。

最初にグリーズマンの移籍騒動が巻き起こったのは2017年夏である。当時、移籍先として有力視されていたのはマンチェスター・ユナイテッドだった。その最中に「移籍の可能性は、10段階で言えば、6段階というところ」とグリーズマン自身が認めていた。FIFAの処分によるアトレティコの補強禁止が決定して、そういった事情を踏まえ、結果として彼はアトレティコに残る決断を下した。

2018年夏には、バルセロナ移籍の可能性が盛んに取り沙汰された。ただ、その時はジェラール・ピケが手掛けたドキュメンタリー番組『ラ・デジション』で、グリーズマンがアトレティコ残留を宣言するという皮肉な結末が待っていた。

そして、2019年夏だ。グリーズマンは3月14日にヒル・マリンCEO、ディエゴ・シメオネ監督、スポーツディレクターのアンドレア・ベルタと会合を開き、そこでアトレティコ退団の意思を伝えたといわれている。

■理事会の混沌

しかし、グリーズマンとバルセロナの言動はアトレティコ首脳陣の反感を買った。

3月14日に決断を伝えたグリーズマンだが、アトレティコは3月13日にチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦でユヴェントスに敗れてベスト16敗退が決まっていた。実際には、グリーズマンとバルセロナの接触はそれ以前にあったと推測される。つまり、グリーズマンはチャンピオンズリーグの生き残りを懸けたなかで、バルセロナとコンタクトを取っていたわけだ。グリーズマンのコミットメントに疑いがかけられても仕方がない。

一方で、バルセロナは契約解除金1億2000万ユーロ(約145億円)をスペインプロリーグ機構(LFP)収めるのではなく、アトレティコとの交渉で移籍金を支払う形にして、グリーズマンの獲得費を抑えたいという本音を抱えていた。あるいは、一括払いではなく、分割払いで1億2000万ユーロを支払う方法を模索していた。しかしながらアトレティコにその点で譲る意思はなかった。

また、バルセロナは先日、ジョルディ・メストレ副会長が辞任している。

バルトメウ会長は再選を果たした2015年に5人の副会長を理事会に据えていた。そのうち、4人が理事会を離れる決断を下している。経営管理部門のスサナ・モンへ(2016年)、機関統括責任者のカルレス・ビジャルビ(2017年10月)、マーケティング&メディア統括部門のマヌエル・アロヨ(2018年7月)...。バルトメウ政権が本格的に始動してから、中核を担ってきた人物で残っているのはソーシャル部門のジョルディ・カルドネルだけだ。

「新たな時代が始まる」と、バルトメウ会長は7月5日にフレンキー・デ・ヨングの入団会見で語っている。非常に苦しい言い回しだ。彼を支持していた者は、現実として、次々にクラブを去っているのである。

また、UEFAの規定で上限は70%だとされている選手とスタッフの総年俸額は、バルセロナの場合60%に達しているといわれており、現実味はないのだが、依然としてネイマール復帰の噂が絶えない。グリーズマンの年俸は、アトレティコ在籍時に受け取っていた年俸2000万ユーロ(約24億円)が1700万ユーロ(約20億円)まで下がるといわれている。その犠牲を払ってまで、バルセロナへの移籍を決めたのだ。

チャンピオンズリーグへの強迫観念と、ビッグイヤー獲得というミッション。まずは混沌の夏を超え、挑戦に向けて準備を整えなければならない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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