スペインに0-1で敗れたヤングなでしこ。決勝T進出に向け、第3戦のパラグアイ戦が山場に
【拮抗した試合。明暗を分けたポイントとは?】
すぐ、そこまで近づいているようで、薄皮一枚を隔てたそのゴールが遠いーーそんな、「1点」の重さを改めて痛感させられた試合だった。
U-20女子W杯で、U-20日本女子代表はグループステージ(GS)第2戦でスペインと対戦し、0-1で敗戦。決勝トーナメント進出は第3戦のパラグアイ戦の結果に委ねられることとなった。
池田太監督は、6日の初戦・アメリカ戦から中2日のタイトな日程も考慮し、スターティングメンバー3名を変更。GK鈴木あぐり、左サイドハーフにMF遠藤純、2トップの一角にFW村岡真実を初先発で起用し、初戦と同じ4-4-2でスタートした。
試合の入りに硬さが見られた初戦から一転、この試合ではスムーズな入りを見せた日本。グラウンドを大きく使ってボールを動かしながら、相手陣内のスペースを探った。
一方、欧州王者として今大会に参加しているスペインも、立ち上がりから強豪の貫禄を見せつける。特に、初戦でハットトリックを決めたトップ下のMFパトリシア・ギハーロはすでにA代表を経験済みで、圧倒的な個の力がある。日本は彼女にボールを「持たせる」時間が多少長くなっても、粘り強くチャレンジアンドカバーを繰り返しながら奪いどころを探った。
しかし、流れをつかみ始めた前半16分、左サイドで連係ミスからコーナーキックを与えて先制を許す。
「スペインは個々の技術も高いし、コンビネーションプレーも使ってくる。セットプレーに強みがある印象もありました」(池田監督/試合後)
試合前の徹底したスカウティングでも分かっていたスペインの強み。だが、分かっていても止められなかった。
コーナーキック時に数人がゴール前に縦に並び、キッカーが蹴るタイミングに合わせて散る、通称「トレイン」。バスケットボールやフットサルなどでも採用されるこの戦術は、マークにつくタイミングや、マーカーの決め方が難しい。中央に飛んできたボールをかろうじて弾き出したものの、こぼれ球に対する反応はスペインが一歩、速かった。
とはいえ、早い時間帯に先制されたこともあり、十分に逆転のチャンスはあった。アメリカ戦同様、最終ラインはDF南萌華を中心に安定していたし、流れの中で完璧に崩されてエリア内に進入されたシーンはほぼない。ボールポゼッションは48(日本)対52(スペイン)、シュート数は9(日本)対11(スペイン)とほぼ互角のデータが裏付けるように、幾つかのミスパスを除けば、ボールの動かし方もアメリカ戦に比べて改善されていた。
だが、こぼれ球やセカンドボールの落下地点には、多くの場面でスペインの選手が先に入っていた。それは、単にフィジカル差や予測能力の差だけではないように思える。
たとえば、深めの芝に多めの水が撒かれたピッチで、日本の選手が滑るシーンが散見された。パススピードやファーストタッチ、ターンする際の踏み込みの強度の調整といった、ピッチコンディションへの適応力は、スペインが日本を上回っているように見えた。
また、スペインが指向するサッカースタイルが日本と似ていることも、日本の勝利に足りなかったものを浮き彫りにした。
「パス(の精度)や球際で、スペインが勝っていたと思います。そういうところで勝っていかないと、得点には結びつかない。細かい部分を(第3戦のパラグアイ戦に向けて)修正していきたいと思います」。
南はピッチの上で感じた“差”を冷静に受け止めて、前を向いた。
【敗戦から得た収穫】
中3日で迎えるパラグアイ戦に向けては、課題の修正とともに、良かった部分を継続させることもカギとなる。
アメリカ戦に比べて攻撃にテンポが生まれた要因の一つに、守備時の選手間の距離が良くなり、スムーズに攻撃に移れるようになったことがある。左サイドバックのDF北村菜々美は、スペインのパスワークに対して、
「そこまでボールを獲りにいかなくても、回させているイメージで(守備が)できた」
と、守備の連動性に手応えを感じていた。
アメリカ戦では守備に多くの時間を費やし、攻撃面で力を発揮できなかったFW植木理子は、この試合は途中出場で持ち味のスピードを見せつけた。ピッチに立って1分後の60分に、ペナルティエリアのライン手前で相手を振り切ると、倒されてフリーキックを獲得。66分には、エリア内で相手のボールコントロールがもたついたところを見逃さずに、自ら奪って強烈なシュートを見舞うなど、相手に脅威を与えた。
また、ロングボールへの対応では南が絶対的な安定感を見せていたが、センターバックを組むDF高橋はなの強さも光った。攻撃面では縦パスを奪われるシーンが幾つかあり、「アメリカ戦からミスがあって、チームに申し訳ないです」(高橋)と試合後は反省しきりだったが、空中戦では、南とともに圧倒。中盤をサポートしようと、積極的にパスを受けに行くポジショニングも光った。
そして、この試合で最も大きなインパクトを残したのが、初先発を飾った遠藤だ。
高橋とともに、飛び級(18歳)で今大会に出場しているが、左足のキックの精度とパワーはチーム随一。練習中から美しいスイングで快音を響かせており、この試合でも遠目から積極的にシュートを狙った。前半9分に相手ゴール前でこぼれ球に反応し、飛び込んでくる相手を冷静に2人交わしてフィニッシュまで持ち込んだシーンは、90分間で日本が最もゴールに近づいたシーンだった。また、守備でも大きく貢献。右サイドまで顔を出し、スライディングでボールを奪い返した25分のプレーは会場を沸かせた。
「シュートを打っても入らなくて、下を向く時もあったのですが、その時に後ろの選手が体を張ってゴールを守っている姿を見て、自分が前線からやらなきゃいけない、と思って。そうすることで、ディフェンス陣もそう思ってくれたらいいなと思って、体を張りに行きました」(遠藤)
言葉は熱いが、そのプレーからは、試合の流れを読むセンスと冷静さも伝わってくる。後半からは2トップに入り、90分間フル出場して積極的なプレーを貫いた遠藤。次の試合では、初ゴールへの期待も高まる。
【中3日で迎えるパラグアイ戦】
現在、グループCは2連勝のスペイン、そして、1勝1敗のアメリカ(2位/得失点+5)と日本(3位/得失点0)が決勝トーナメント進出の可能性を残している。日本が勝ち上がる可能性は十分にあるものの、楽な条件ではない。
まず、第3戦でパラグアイ戦に勝利することが前提だ。その上で、同時刻に行われるスペイン対アメリカの結果が大きく影響してくる。もし第3戦でアメリカがスペインに勝った場合、3カ国が2勝1敗で並ぶ。そうなれば、順位は得失点差に委ねられる。その中で、日本が自力で決勝トーナメント進出を決めるためには、パラグアイ戦で4点差以上で勝つことが条件となる。パラグアイはすでにGS敗退が決まっているため、モチベーションを高く保つのは難しい状況かもしれない。それが日本に有利に働く可能性もある。
また、現在首位のスペインも、2連勝しているとはいえ、第3戦でアメリカに敗れればGS敗退の可能性もある。スペインがベスト8以降の組み合わせも考えてGS1位通過を確実にするためには、引き分け以上の結果が必要になる。つまりスペイン、アメリカ、日本のいずれも積極的なターンオーバーをすることは考えにくく、主力がいかに回復できるかもポイントとなるだろう。
そのためには、ベンチで万全の準備をする控え選手たちのサポートも欠かせない。
ここまで2試合をベンチから見守ったサイドバックのDF高平美憂は、
「(スペイン戦は)点が入りそうで入らない中で、焦ってしまった部分もあったと思います。そういう時に、プレーしている選手だけではなくて、チーム全体で(ベンチからも)もっと声をかけてあげられたら良かった」
と、4日後の第3戦で再び一丸となって戦うことを誓った。これまでの2戦同様に、心身ともに試合に出る準備を整えてピッチに立つつもりだ。
GS第3戦のパラグアイ戦は、8/13(月) 20:30(日本時間)キックオフ。フジテレビNEXTで生中継される。