メジャー1年目の平野佳寿が活躍できる秘密
アリゾナ・ダイヤモンドバックスのルーキー、平野佳寿が安定した活躍で、2年連続プレーオフ出場を狙うダイヤモンドバックスのブルペンの屋台骨となっている。
9月4日(日本時間5日)の時点で、リーグ5位タイの66試合に登板して4勝2敗、防御率1.98。中継ぎ投手にとって大切なホールド数は、リーグ最多タイの31を数える。
中継ぎ投手の貢献度の高さをデータで示すのは難しいが、平野はWPA(Win Probability Added)と言う勝利への貢献度を表すデータで、投手部門でリーグ8位の数字をマークしている。
このWPAとは、試合状況とその結果に応じて勝利期待値の増減を表すもの。WPA1位は防御率1位のジェイコブ・デグロム(ニューヨーク・メッツ)、WPA2位は勝ち星1位のマックス・シャーザー(ワシントン・ナショナルズ)とリーグを代表する本格派先発投手がランキング上位に名前を連ねる中、平野は堂々の8位にランクイン。平野が試合の結果を左右する大切な場面で数多く起用され、相手打者を抑えてピンチを切り抜けたことが、WPAのデータで示されている。
では、なぜ平野はメジャー1年目から好成績を残せているのだろうか?
最大の理由は平野の代名詞とも言えるフォークボールにある。
「この球がなければ、この舞台に来ることはできなかった」と平野自身が明かすように、フォークは平野の生命線となっている。
今季、フォークボールを400球以上投げた投手はメジャー全体で5投手しかいないが、平野以外の4人はシーズン2000球以上を投じている先発投手で、ブルペン投手は平野一人だけ。投球全体に占めるフォークボールの割合は45.3%で、こちらは49.2%のヘクター・ネリス(フィラデルフィア・フィリーズ)に次ぐ割合で、過去10年間でも5番目に高い割合だ。
平野のフォークの球速は平均で83.2マイル(133キロ)だが、回転数がとても少ない。
フォークボールは球の回転数が少ない方が鋭く落ちるが、平野の平均回転数は毎分1166回転。ニューヨーク・ヤンキースの田中将大のフォークは1477回転、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平のフォークは1305回転なので、平野のフォークの回転数の少なさが際立っている。
ダイヤモンドバックスのマイク・ブッチャー投手コーチは、狙った場所へ自在にフォークボールを投げる平野は「メジャーを代表するフォークの使い手」だと評する。
平野のフォークの空振り率は35.2%で、相手打者はバットに当てることさえ苦労しているが、実は平野のフォークボールは空振りを奪うよりも、相手のバットの芯を外して、ゴロを打たせるときに活用しており、フォークのゴロ率は64.6%だ。
平野はストライクゾーンの外で勝負するのがうまく、右打者に対する外角低めをとても効果的に使っている。
右打者に対する外角低めだけでなく、全体的に低めの投球をうまく使っており、ピンチになると低めの球でゴロを打たせる。
平野は12回も相手打者をダブルプレーに打ち取っているが、これは19ホールド以上を記録しているナショナル・リーグの14投手の中で最も多い。
「ダブルプレーが増えたのには自分でも驚いている」という平野は、「フォークボールを低めに投げれば、(打者の)タイミングがずれてゴロになる」と低めの球での勝負を重要視する。
「ゴロでヒットになってしまったら仕方ないと思うくらいに割り切って、フォークボールでゴロを打たせにいっている」
日本で投げていたスライダーを封印して、フォーシームとフォークボールの2つの球種だけで勝負できているのは、フォーシームとフォークを同じフォームで投げ、投球の軌道も打者の手元に来るまで同じ感じなので、打者は見分けるのが非常に難しいし、タイミングがずれてしまう。フォークとフォーシームのリリースポイントは2インチ(5センチ)しか違わないので、打席からはその違いが分からない。
同じフォークボールでも78.7マイル(126キロ)から86.8マイル(139キロ)まで13キロものスピード差を付けている。
ダイヤモンドバックスのトロイ・ロブロ監督も「(平野の)活躍がなければ、我々はこれだけの成績を残せていなかった。素晴らしい働きぶりにはとても満足している」と手放しで称賛して、勝利に欠かせない存在だと認めている。
「日本時代からプロに入って優勝したことがないので、シャンパンファイトを味わってみたい。そのチャンスがあると思うので、この機会をものにできるように勝利に貢献できるように、呼ばれた試合は全力で投げていきたい」と平野はプロ初となる優勝に向けて、1球1球、1アウト1アウトを大切に投げていく。