70歳代が最新VRを初体験すると… 想定外のこととは?
仮想空間を現実のように体験できる「バーチャルリアリティー(VR)」。「メタバース」のワードとともに、近年テレビのニュースでも取り上げられていますが、デジタルに不慣れな世代は、どんな反応をするでしょうか。ソニーの家庭用ゲーム機「PlayStation5(プレイステーション5)」専用のVR機「PlayStation VR2(PS VR2)」で、普段ゲームに興味がない70歳代の老夫婦に、VRを初めて体験してもらいました。
体験したソフトは、PS VR2用の新作ゲーム「Horizon Call of the Mountain(ホライゾン・コール・オブ・ザ・マウンテン)」と花火のパズルゲーム「ファンタビジョン202X」です。いきなりゲームをプレーするのはハードルが高いので、まずVRの映像を体験してもらうことに重きを置きました。
◇「最近の若い人はこんなのをやるのか」
最初は、会社経営から引退したばかりの75歳の父です。スマホのマージャンゲームは遊ぶものの、テレビゲームは遊びません。ただし、ニュースを通して、VRやメタバースに対する認識はあるようでした。
ヘッドマウントディスプレーも特に嫌がらずに装着。そして「ホライゾン」のジャングルの中の川下りに、「おー」と声を出して驚き、周囲の景色にも興味津々。自分の腕を動かすと、ゲームでも連動して動くことに気づいて「すごい」と声がもれました。ボートのそばを通る機械獣に反応し、機械獣が吐く炎をよけていました。頭が上下左右によく動きますから、没入している様子でした。
一通りVRの体験が終わると「最近の若い人はこんなのをやるのか。そりゃ熱中するなあ……」としみじみ。そのあとで「この機械(PS VR2)、かなり高いんだろう? いくらだ?」と、値段が気になった様子。「これから先は、こういう世界で買い物をするようになるんだろうな」という感想でした。
ゲームには興味を持ってもらえたものの、残念ながらゲームを操作してプレーするのは難しかったようです。「ホライゾン」では両手を使って弓矢を射るポーズをすると、ゲーム内でも弓矢が射られる仕組みです。しかし、高齢ゆえに肩が上がらず、右手で右肩に矢を取る動作がそのものが難しかったのです。これは想定外……。
◇手元を見てボタン押せないことに不満
続いて76歳の母が挑戦しました。昔はテニスプレーヤーであり、テニスゲームと脳トレはかつて遊んでいましたが、基本的に遊びません。そして、VRやメタバースのことも「何それ?」でした。
そのためかVRの経験も消極的で、ヘッドマウントディスプレーの装着そのものが、あまり気に入らない様子。父と同じく「ホライゾン」の川下り映像を体験してもらいましたが、周囲の様子を見ることもなく静かでした。なぜかというと、ゲーム画面に表示された字幕を読むのに一生懸命だったらしく、全然周りが気にならなかった……という答えでした。
続いて、ゲーム内で山頂からの絶景シーンも見せてみましたが、あまり驚きの声がありません。ギリシャのメテオラや、米国のヨセミテ国立公園の絶景に喜んだので、もう少し反応がありそうなものですが……。母は「すごいと思うけれど、見ているだけで何をしていいのかわからない」という答えでした。
他のゲームなら違う反応があるのではと考え直し、「ファンタビジョン202X」のリプレーを見せました。仮想世界とはいえ、巨大花火を鑑賞できるのですが、今度はコントローラーを動かし、ボタンを押して「どうやってゲームを遊ぶの? 操作できない」と不満そう(なぜ突然操作したがる?)。「リプレーなので見るだけ」と説明しましたが、どうしてもボタンが押したくなる様子でした。
そこで、操作の基本説明をして、ゲームをプレーをしてもらったのですが、もちろんうまく操作ができず、自分の手元を見ながらコントローラーのボタンを押せないと、繰り返し文句を言っていました。そこ?
PS VR2でもゲームを中断して、外の景色に切り替えることがワンボタンでできますが、用途が違います。手元を見た時だけ、VRを外して現実の映像に瞬時に切り替えるのはちょっと……。VRの映像については関心を示していましたが、どうもフィーリング(感覚)が合わないとぼやいていました。
母の反応があまりにも想定外のことばかり言っていたので、VR未体験の妻(40歳代)にもお願いして、実際にVRを体験してもらいました。VRについて「3Dメガネみたいなものでしょう? 気持ち悪くなりそうだからやりたくないな」などと最初は乗り気ではなかったものの、実際に体験してもらうと、「3Dメガネとは違う。イメージ、予想より断然面白かった」と興奮気味で、テーマパークのアトラクションと似ていたという感想でした。
こういう反応は想定内でしたが……。しかし、老夫婦の反応は想定外。やはり実際にやってみないと、わからないものです。
◇「百聞は一見にしかず」的なパワー
VRは、機器の装着や操作については、やはり万人向けとは言い難いところです。新しいことの操作にも慣れないので、戸惑うのも仕方ないところでしょう。
しかし、高品質のVRの映像は「百聞は一見にしかず」的なパワーがあります。未体験の人を驚かせ、それはゲームの新規ファン層を広げる可能性を意味します。
普及のためには、コアファン向けのソフトの充実はもちろん、ゲームに不慣れな人でも遊べるソフト(コンテンツ)があると強いのですが、そこまでそろえるのはビジネス戦略上なかなか大変ですよね。VRの魅力を伝えるプロモーションも含めて、長期的な普及の戦略、粘り強い展開が問われそうです。