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SHEIN(シーイン)中国系ECサイトからも訴えられる。米市場巡り激安サイト同士の対立が始まった

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

先日、アメリカで大人気の中国系Eコマース企業、SHEIN(シーイン)が訴訟問題に直面しているという記事を書いたら大きな反響があった。それだけ日本でも注目されている企業であることを実感した。

シーインを訴えているのは、アメリカや多国籍の企業だけではない。同じ中国発の企業もシーインと対立関係にある。

シーイン同様にアメリカで大人気の激安ECサイトのTEMU(ティームー)が、マサチューセッツ州の連邦裁判所で今月14日、シーインを告訴したと米メディアは報じた。

Temu.comとは?

中国に拠点を置き、ケイマン諸島(英領)で登記されているPDDホールディングスが運営する超激安ショッピングサイト。

アメリカで2022年9月にローンチしたばかりだが、450億ドル(6兆円超)規模のスーパーボウルのCMを含む大規模な広告キャンペーンやインフルエンサーマーケティングを打ち出し、大きな話題に。最大の魅力は驚異的な低価格だ。インフレが進み日本以上に物価高が続くアメリカにおいても安い商品を販売。米Z世代にウケそうなデザインや、アマゾンより何倍も安い生活用品が充実しているため、アメリカではECの分野で長年王者に君臨しているアマゾンの脅威と見られている。

「『億万長者のように(何でも)買い物しよう』というキャッチフレーズで大西洋を越え旋風を巻き起こし、何百万回もダウンロードされた」(英ウェブメディア)。ただし商品のクオリティについて、客から寄せられる苦情も多い。

米Z世代が好きそうな可愛くてセクシーな衣類が驚きの廉価で販売。例えばこのセール品のチューブトップはなんと87セント(123円)!ティーンもお小遣いで買える。(スクリーンショットは筆者が作成)
米Z世代が好きそうな可愛くてセクシーな衣類が驚きの廉価で販売。例えばこのセール品のチューブトップはなんと87セント(123円)!ティーンもお小遣いで買える。(スクリーンショットは筆者が作成)

そんな新星TEMUだが、告訴状では、シーインが中国のサプライヤー(仕入先)に対して「TEMUとは取引をしない」という文言の入った、シーインに忠誠を誓わせる契約書にサインをさせ、TEMUとの取引を終了させたという。これによりTEMUのサイトからは1万点もの商品が削除された。

また、もし業者がそのような誓約に応じない場合は、シーインからペナルティなるものが科されたという(詳細は不明だが、業者に対しての業務妨害とも言える嫌がらせと見られる)。

「シーインは8338社と独占契約に持ち込んだ」と報じられている。このゴリ押しの独占契約は、TEMUにとって死活問題だ。なぜならシーインやTEMUなどの激安ECサイトが求める『超高速納品』に対応できるサプライヤーとなると限られているから。

そして何より、このような半ば強制的に同意させる行為は、アメリカでは独占禁止法(反トラスト法)違反にあたる。一方シーインはTEMUと法廷で争う姿勢を見せている。

模倣疑惑があるシーインに対しコピーライトの侵害であると、世界的ブランドや米ローカルデザイナーからの訴訟が山ほどある。訴状の中にはシーインが「極秘のアルゴリズム」を使い、売れ筋や人気デザインを迅速に特定し、複製しているとの主張も。

シーインとTEMUは、どちらもフォーエバー21、H&M、ZARAなどのファストファッションをさらに超えた「ウルトラ・ファストファッション」の分野に属している。

ウルトラ・ファストファッション業社は、圧倒的な商品数の供給を誇るだけでなく、頻繁にそれらの商品のデザインを置き換えることで、ほかとの差別化を図っているとされる。よって2社の仕入先が抱えている在庫はほとんどなく、代わりに客のフィードバックをもとに新デザインに次々に取り掛かり、頻繁にスタイルを変更し、薄利多売している。このようにすることで数百円のTシャツや1000円前後のワンピースという驚きの低価格が実現しているのだ。

人口の多さと多様性で、世界でもっとも魅力的な場所の一つとされるアメリカ市場。この地で鎬を削る中国系競合2社の闘いがいま、始まった。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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