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「巨大納骨堂」が破綻する日

鵜飼秀徳ジャーナリスト、正覚寺住職、(一社)良いお寺研究会代表理事
巨大納骨堂の経営破綻の事例が出てきている。(写真:イメージマート)

最悪の場合、遺骨が戻ってこない

北海道札幌市の宗教法人が運営する納骨堂が2022(令和4)年に経営破綻した。

これまで「墓」や「納骨堂」の経営は、永続性が担保できる宗教法人に認可されてきた。しかし、実際には宗教法人ですら破綻することがありうることを証明した形となった。

多死社会や「墓じまいブーム」をにらんで、都市部ではこの10年ほどで大型納骨堂の建立が相次いでいる。だが、早くも経営に行き詰まるところがでてきている。

納骨堂が閉鎖されれば、支払った利用料金が戻ってこなくなるだけでなく、最悪は遺骨を回収できなくなることが想定される。本稿では、都市型巨大納骨堂のリスクを解説する。

経営破綻したのは、札幌駅からほど近い元町(東区)にある室内型納骨堂「御霊堂元町」。運営主体は「宗教法人白鳳寺」だ。

同法人によれば「赤字経営を続けた結果、資金不足に陥っていた」という。2021(令和3)年11月には借金の返済ができなくなり、納骨堂が競売にかけられ、不動産会社が落札した。差し押さえの後も、白鳳寺の代表は納骨堂を売り続けていたという。

それが事実であれば、詐欺まがいの行為であり、許されることではない。

推定5億円の売上げも「ずっと赤字だった」

このニュースが報じられると、利用者は永代供養料などの返金や遺骨の返還を求めて押し寄せる騒ぎになった。しかし、普通に考えてもすべての遺骨の返還はできるはずもない。海外や遠方に居住する人や、施設に入居している人は取りに行くことはできないし、送り届けられても困惑するだけだ。

こういうことは言いたくはないが、なかには「わざと」遺骨を取りにいかない人もいるはずだ。墓地埋葬法上は遺骨を受け取れば、自宅に安置するか、改めて墓地や納骨堂を契約するしかない。新たに数十万円から100万円以上のコストが生じることになる。海洋散骨する場合も、結局はコストがかかる。

同納骨堂は2012(平成24)年に開業した。いわゆる「ロッカー式納骨堂」といわれているタイプのものだ。室内にコインロッカーのように扉のついた納骨壇があり、そこに骨壺を納める形態だ。

同納骨堂の最低価格はおよそ30cm角の、シンプルな個人用で30万円+年間管理費6000円。遺骨4柱まで入れることができて、仏壇のようなしつらいのタイプは70万円〜+年間管理費1万2000円。最も高額な9柱まで入れることができるものは250万円+年間管理費1万2000円となっている。

開業10年で1500基の販売数に対して、773基(販売率52%)が売れていた。納骨堂内には北海道内外からの遺骨が1000柱ほど入っていたという。

たとえば1基あたりの販売単価平均が70万円であったとするならば、5億円以上を売り上げていたことになる。

また、管理費の平均で年1万円とすると、毎年800万円近くのキャッシュが生まれている。さらに契約数に伴って、葬儀や法事の布施などが入ってきていたことになる。773軒の檀家から想定される布施の年額は1000万円以上とみられる。

しかし、この宗教法人代表が釈明するには「開業してからずっと赤字だった」という。

納骨堂は専門学校だった建物を利用したものだ。建物の改修費や納骨壇の設置費用などの初期投資はあったにせよ、一から土地を取得して納骨堂のビルを新築したわけではない。納骨堂経営が赤字であったというのは、どういう収支であったのか。

永代使用料が宗教法人に入らない「カラクリ」

実はこうした不透明な納骨堂経営が、近年横行している。一般的なスキームはこう。寺院と近い、葬儀社や石材店などの周辺産業の民間業者が、伽藍修繕などの巨費を必要としている住職に擦り寄ってくる。そして、伽藍の修繕費を、無宗教式の永代供養納骨堂ビジネスで賄える、などと提案してくる。

民間業者が単体で納骨堂をつくればよい話だが、実は先述のように霊園や納骨堂事業の認可は、行政以外ではほぼ宗教法人にしか与えられていない。したがって、宗教法人の名義を借りて納骨堂を運営するのだ。そして民間業者の資本で納骨堂が建設される。そのため、納骨堂の永代使用料の売上げのほとんどは業者が手にし、宗教法人にはほぼ入らないことが多い。

一見、宗教法人にメリットがないように思えるがそうではない。永代使用料収入は入らない代わりに、契約数に比例して、葬儀や法事の布施が入る。建設費などの初期投資が不要で、かつ、布施収入が増える可能性を秘めているから、伽藍修繕などを控えている寺院にとってはリスクの少ない事業のように思え、納骨堂経営話は「渡りに船」というわけだ。

しかし、そこに大きな落とし穴が隠されている。あくまでも、事業の名義上の契約者は宗教法人なのだ。

納骨堂建設や融資も、宗教法人名義でしか進められない。仮に納骨堂がオープンしても思うように売れなかったり、あるいは民間業者の経営が傾いたりした場合に、納骨堂ビジネスから業者が撤退すれば、すべての責任は名義を貸した宗教法人にのしかかることになる。

「自動搬送式納骨堂神話」の崩壊に備えよ

こうしたスキームで、多くの宗教法人がいいように利用されているのだ。しかし、納骨堂のニーズを読むのは非常に難しい。結局は、札幌の御霊堂元町のようにずさんな経営で破綻したり、破綻寸前になったりしている納骨堂はかなりある。ちなみに、宗教法人の「名義貸し」は違法である。

現在、東京都内には「自動搬送式納骨堂」と呼ばれるタイプの巨大ビル型納骨堂が30棟ほどある。自動搬送式納骨堂とは、ICカードをかざせば納骨カロートが自動的に運ばれてきて、参拝ブースでお参りができるハイテク納骨堂だ。

待合いロビーなどもシティホテルを思わせるようなしつらい。その分、ロッカー式納骨堂に比べて、割高ではある。「主要ターミナルからも近く至便で、買い物ついでに、仕事帰りの墓参りもできるハイテク納骨堂」というのが、〝売り文句〟だ。

多死社会や墓じまいブームを背景にして東日本大震災後あたりから、大手葬儀会社や大手仏具・石材販売会社は寺院とタイアップして、この自動搬送式納骨堂事業に乗り出してきた。近年では、外資系金融会社も納骨堂事業に参入していた。1棟あたり、数千基から1万基以上の規模感である。札幌の納骨堂とは比較にならない納骨数だ。1棟あたりの建設費は数十億円に上る。

こうした事業は当初は順調だったが、数年もすると納骨堂は供給過多になり、需要が追いつかなくなってきて、民間企業の経営を圧迫している。地方都市の自動搬送式納骨堂では破綻事例も出てきている。

仮に都内の巨大自動搬送式納骨堂が破綻したり、競売にかけられたりした場合は、札幌の事例とは比べものにならないほどの混乱が生じるだろう。アナログのロッカー式納骨堂とは違い、自動搬送式納骨堂はコンピューター制御であり、通電が止まり、システムが動かなくなれば遺骨の取り出しは難しくなる。

「自動搬送式納骨堂神話」が崩壊すれば、不安心理が増大して顧客離れが進み、雪だるま式に納骨堂が破綻していく危険性もある。

同時に私たちも、安易な形で始められた民間業者と宗教法人の納骨堂ビジネスには、深い闇とリスクが隠されていることを知っておくべきだろう。

本稿は拙著『仏教の未来年表』(PHP新書)より再編集した。

ジャーナリスト、正覚寺住職、(一社)良いお寺研究会代表理事

1974年、京都市生まれ。成城大学卒業。報知新聞、日経BPを経て、2018年に独立。正覚寺(京都市)第33世住職。ジャーナリスト兼僧侶の立場で「宗教と社会」をテーマに取材、執筆、講演などを続ける。近年は企業と協働し「寺院再生を通じた地方創生」にも携わっている。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』『仏教の大東亜戦争』(いずれも文春新書)、『ビジネスに活かす教養としての仏教』(PHP研究所)、『絶滅する「墓」』(NHK出版新書)など多数。最新刊に『仏教の未来年表』(PHP新書)。一般社団法人「良いお寺研究会」代表理事、大正大学招聘教授、東京農業大学・佛教大学非常勤講師など。

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