アマゾンのビジネスは今後も安泰なのか? 売上税の実質免除が撤廃へ
米最高裁は先ごろ、州政府がネット通販業者に対し、売上税の徴収義務を課すことを認める判決を出した。各州政府は今後これに基づき、具体的な徴収方法を検討し、売上税法を改正することになる。これにより米アマゾン・ドットコムをはじめとする米国のネット通販業者は、打撃を受ける可能性があると指摘されている。
売上税実質免除の従来制度
売上税は、日本の消費税のように物品やサービスの販売時に課す税。制度を定めているのは連邦政府ではなく、州政府だ。これまでは、原則、販売業者が州外に住む消費者に商品を売る場合、実質的に徴収義務が免除されていた。販売業者が、消費者の住む州に店舗や事業所、倉庫を持つ場合に限り、徴収義務が課されていたのだ。
一方で、消費者は、州外の業者から商品を買う場合、売上税を納める代わりに、売上税と同率の使用税を居住する州に申告して、納めなければならない。しかし米シーネットによると、こうして正しく使用税を納めている人は、ごくわずかだという。
使用税を納めない消費者は、州外の業者のネット通販を利用して商品を購入した方が、税金分支払額が少ない。当然だが、その金額差は、高額商品ほど大きくなる。例えば、米ウォールストリート・ジャーナルによると、ニューヨークの小売業者B&Hのネット通販で、3099ドル(34万円)のキヤノン製カメラを購入する場合、ニューヨークに住む人には、275.04ドル(3万円)の売上税が課される。しかし、サンフランシスコの住人がこれを購入する場合はそれがない。
こうした売上税の実質的な徴収免除は、ネット通販が急拡大した要因の一つだと、日本経済新聞は伝えている。また財政難に悩む多くの州は、「従来制度のせいで、巨額の税収が失われた」と訴えているという(日本経済新聞の別の記事)。
- 米国のeコマース売上高推移(インフォグラフィックス出典:ドイツ・スタティスタ)
アマゾン、今はすべての州で徴収
ただ、今回の最高裁判決で最も影響を受けるのは、巨人アマゾンではなく、小規模の小売業者だとも指摘されている。
ウォールストリート・ジャーナルによると、アマゾンは、創業した1994年当時、この実質的免除制度を利用して価格競争力を高めていた。その倉庫があるのは、本社のあるワシントン州と、売上税のないデラウェア州のみだった。
しかし、その後、書籍のネット販売から、巨大ネット通販業者へと変化していくのに伴い、アマゾンは別の道を選んだ。カンザス州、ケンタッキー州、ネバダ州などに相次いで物流施設を建設。消費者に対し、税金免除というメリットではなく、迅速な商品配達というサービスを提供することにした。
同社は昨年、同年4月以降、売上税を徴収する州を45州に拡大すると発表(ウォールストリート・ジャーナルの記事)。同社は現在、売上税のない5州(アラスカ、デラウェア、モンタナ、ニューハンプシャー、オレゴン)を除くすべての州で、税金を上乗せして、商品を販売している。
つまり、今回の税制改正によるアマゾンの影響は少ないのかも知れない。
中小の出店企業に打撃か?
一方、現在アマゾンは、外部の事業者が出店して販売する「マーケットプレイス」で売上税を徴収していない。今後は、マーケットプレイス事業者の商品にも売上税が上乗せされることになる。さらに小規模事業者は、税務処理にかかる費用がかさむと指摘されている。これが、アマゾンよりも小規模業者の方が痛手が大きいと指摘される理由だ。
ただ、アマゾンは年次報告書で、マーケットプレイスにおける商品の販売個数が、昨年初めて同社全販売個数の半数を上回ったと報告した。米国では昨年、30万社以上の中小小売業者が、アマゾンで商品を販売したという。
こうした小売業者の多くは、アマゾンの販売・物流サービス「Fulfillment by Amazon(FBA、フルフィルメント・バイ・アマゾン)」を利用し、その手数料を同社に支払っている。近年、FBAの取扱量は飛躍的に増えており、アマゾンの事業収入は増えている。売上税法の改正が、これら中小業者のビジネスに打撃を与えるのであれば、アマゾンにも当然、影響が及ぶことになる。
(このコラムは「JBpress」2018年6月26日号に掲載した記事をもとに、その後の最新情報を加えて編集したものです)