組織は「靴」だと捉えよ ~「ティール組織」もいいけど何か忘れてませんか?~
■ 結果が出る組織形態
企業の現場に入り、目標を絶対達成させるコンサルタントとして活動し、早16年になる。先日、とある会社の社長とお話しする機会があった。20年以上黒字を続けており、離職率もすこぶる低い。社会貢献活動が認められ、政府やNPO団体などからいくつも表彰を受けているような会社だ。
多くの経営者が「どうすればそんな会社になるのか」と訪ねに来るらしいのだが、どうも腑に落ちない点があると彼は言った。
「結局のところ、何が正義かといったら結果を出すことだろう。あくまでも結果を出すのが目的で、どんな組織形態にするかは手段でしかないのに、なかなか本質を理解してもらうのは難しい」
そう声を荒らげた社長に、私は苦笑いするしかなかった。
この社長が言う結果とは、「売上や利益といった財務にまつわる結果」のことではない。社員満足(ES)、顧客満足(CS)、社会的責任(CSR)も含めた、企業理念に沿ったアウトカム(結果)のことである。
「横山さんも、そう思うでしょ?」
「そう言われると、そうですね。でも、多くの経営者が貴社の組織形態に注目するのは、理解できます」
「私が言いたいのは『あり方』だ。『やり方』は二の次」
社長の「やり方だけ真似ても、絶対にうまくいかない」という口癖は、私も強く共感する。私も多くの経営者から「やり方」を質問される。
「どうすれば、わが社でも目標を絶対達成させられますか」
と。
そのたびに、私はこう答えている。病気と一緒で、丹念に調査し、深くかかわらないと答えは見つかりませんよ、と。現場で毎日のように試行錯誤している身だからこそ、「こうすればうまくいく」だなんて軽いこと、口が裂けても言えない。
真剣に悩んでいる人を相手にするなら、なおさらだ。
今回テーマとして取り上げる「組織形態」もそう。結論から言うと、社長が言うように、組織形態を変えたとしても結果は出ない。
■ 注目される「ティール組織」
先述した社長の会社が昨今、メディアにも注目されるようになった。10年以上も前から役職を廃止し、約80名いる組織をフラット化しているからだ。
多くのメディア関係者、経営者から「ティール組織ですね」と言われる。階層構造をなくし、自律型組織になっているからだろう。
「ティール組織って何だい、横山さん」
当の本人が言う。
ティール組織とは、「一つの生命体」のようにメンバー全員で共鳴しながら行動する組織である。
細かい話をすると長くなると思ったので、私は『ティール組織』の著者として知られるフレデリック・ラルー氏の「組織の発達段階」を使って、軽く説明した。
力による支配が「レッド組織」、階層構造に基づくのが「アンバー組織」、現代のマネジメントが行き届いているのが「オレンジ組織」、家族的なのが「グリーン組織」、生命体のようなのが「ティール組織」、と。
ところが私の説明が拙かったせいで、よけいに社長を混乱させたようだ。
「意味がまったくわからん。ティールって何だ?」
「色ですよ。緑と青の中間色」
「グリーン組織よりも淡いからか。なんだか弱っちいな」
■ 自主経営について
何が生命体なのか、よくわからないというので、さらに解説を加えた。とくにティール組織の特徴「自主経営」の概念を使って。
従来の組織では、上位役職者が意思決定して組織の資源配分をするのが普通だ。しかしティール組織では、変化を感じとった人が起点となり、しかるべきタイミングで資源配分することが許可されている。
たとえ入社2年目の社員であろうが、「新しい商品を開発し、マーケティングしたい」と言いだし、組織内に賛同者が多ければ、任される。
「たしかに、うちの会社はそうなってるな」
「御社に上意下達の文化が、ないからです」
この会社の文化は独特だ。朝礼では、社員のプライベートにおける気付きをシェアするよう義務付けているし、月に1回は部署間の交流を促すオリエンテーションをしている。社長もみずから毎週のようにいろいろな社員とバーベキューをしたり、旅行へ行ったりして懇親を深めている。
社員間のみならず、家族間のかかわりも深い。それぞれ個人に対する理解度がきわめて高いから、組織がひとつの生命体のように動けるのだろう。
興味深いのは、社長がそういう組織をめざしたつもりはない、ということだ。
「いろいろやってたら、そうなった、ということだ」
その通りである。目指すのは、組織形態ではないからだ。
■ 組織は「靴」と同じ
しつこいようだが、私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントである。だからか、ティール組織と真逆の「達成型組織」を勧めるコンサルタントだろうと世間では思われている。
実際に、何人かの経営者にそう指摘された。
しかし、先述した社長と同じ意見で「組織形態」など、どうでもいい。大事なことは、結果が出るかどうかである。
組織は「靴」だ。
靴は、本来カタチやデザインで選ぶものではない。まず自分の足のカタチをつぶさに観察し、次にふだんからどんな歩き方、走り方をしているのか知ることだ。それによって、靴の選び方は異なる。
私の知人の経営者たちの間でも、このティール組織は注目されている。だが、絶対に忘れてはならないことがある。それは、フィットするかどうかだ。
どんなメンバーによって組織が構成されているか、今一度、きめ細かに観てみよう。
まず、確認すべきは、主体性を発揮できるメンバーがどれぐらいいるか。会議中に意見を求めても手を挙げなかったり、名指しで尋ねても「別に意見はありません」というメンバーが多かったらどうか。
「10」聞いて「100」理解できるメンバーならいいが、「10」聞いて「10」だけ。もしくは「10」聞いても「1」しか理解できないメンバーならどうか。つまり、言われたらやる人、言われてもやらない人だったら「自主経営」は難しいだろう。
また、感性が研ぎ澄まされていて、他人が見えないものまで見える社員ならいい。しかし、ある程度お膳立てされないと、自分のやるべきことを発見できないメンバーなら、「階層構造」がハッキリした組織のほうが合っているかもしれない。
先述した社長も、役職を廃止し、組織をフラット化すると宣言した当時は、大量の離職者が出たと言っている。その後、社長の発想に共感する人を積極採用したため、現在の組織形態に落ち着いた。何事も、無傷でカタチを変えるのは難しいのだ。
足にフィットしない靴は、履くべきではない。
メディアならともかく、現役の経営者なら、流行りものに飛びつく前に、まず自分の足元をよく観察すること。組織形態を変えることで力を発揮できる人と、そうでない人がいるからだ。