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日韓W杯から「世界禁煙デー」を考える

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:築田純/アフロスポーツ)

ちょうど15年前の5月31日といえば、サッカーW杯日韓大会が始まった日だ。トップ画像に懐かしさを感じる人も多いだろう。

2002年5月31日、韓国ソウルW杯競技場で開会式に引き続き、フランス対セネガルの第1試合(グループA)が行われ、セネガルが1-0で勝った。ジダンが負傷で出られず、優勝候補筆頭国がグループリーグ敗退した最初の1戦だった。

初めての「スモーク・フリー大会」

その前年、2001年11月にFIFA(国際サッカー連盟)のブラッター会長とWHO(世界保健機関)のブルントラント事務局長(ともに当時)が覚え書きを交わし、2002年のサッカー日韓大会はW杯史上初めて「禁煙(スモーク・フリー)大会」と定められる。

こうして、観客席はもちろん、プレスセンターを含めたすべての施設が禁煙(日本のみ一部の喫煙所を除く)になった。だが、当時を振り返ってみれば、この話題はほとんど取り上げられていなかった記憶がある。

WHOは1999年ごろから国際的なスポーツ大会とタバコ会社の関係にくさびを入れることを目指し、様々なアプローチを試みていた。

一方、FIFAに限らず、F1などを主宰するFIA(国際自動車連盟)など、スポーツの国際大会を主催する組織は長くタバコ会社からのスポンサードを受けてきた。FIFAは2002年の日韓大会から、そのしがらみを断ち斬ったということになる。

タバコ会社がスポンサーから外れると、逆にほかの企業のスポンサードが増えた。すでに、世界的にタバコ会社のイメージは悪いものとなっていたため、スポンサー企業として肩を並べたくないと忌避する企業が多かったというわけだ。

デジャブ感がある日本の現状

ところが、日韓ではW杯のタバコ規制にかなりの温度差があった。

FIFAとWHOが覚え書きを交わす以前、韓国は2001年7月にはすでにサッカー競技場内の完全禁煙を決めていた。官民を挙げてタバコ規制に取り組み、社会的に禁煙気運が盛り上がる。なにしろ、日本のJTにあたる韓国タバコ人参公社(現・KT&G)がW杯の記念タバコを発売しただけで強く批判されたほどだ。

一方、日韓の組織委員会は禁煙大会とすることに同意していたが日本側の動きは鈍い。

会場を完全禁煙にできず分煙になった。日本組織委員会が競技場の自動販売機でタバコの販売をしないことを決めたのは、W杯開会の直前というお粗末ぶりだ。せっかくの機会にタバコ規制を強化しよう、という動きなどほとんどなかった。

第1試合の当日、5月31日はちょうど「世界禁煙デー(World No Tobacco Day)」でもある。

2002年の世界禁煙デーのスローガンは「tobacco free sports - play it clean!」だった。だからこそ、タバコ対策とW杯を連動させて世界的に盛り上げていこう、とFIFAとWHOが考えていたのである。

2002年の日韓W杯当時の横浜メーンプレスセンター長は「タバコを吸う人も吸わない人もW杯という世界最高のイベントがタバコを拒否したことの意味を考えてもらいたい。タバコは時代遅れで、21世紀の人類には似合わないということに気付いてほしい」と語った(※1)。

ところが、その思惑に日本組織委員会がまったく乗らず、及び腰だったという印象はぬぐえない。これは2020年の東京オリパラを前にした今の状況と似ている。同じ愚を繰り返してはならない。

今年のスローガンは「タバコは成長を脅かす」

5月31日は毎年「世界禁煙デー」だ。世界禁煙デーは、WHOが世界的なキャンペーンのハブ的な役割を果たし、世界各国のイベントなどを調整する。

この日をからめ、1992年から日本では5月31日からの1週間が「禁煙週間」となり、今年は2017(平成29)年5月31日(水)から6月6日(火)までだ。日本における世界禁煙デーの自治体の取り組みは厚生労働省のホームページに情報が載せられ、随時更新している。

世界禁煙デーや禁煙週間へ賛同する動きは、自治体以外でも企業や組織などでも活発だ。たとえばサッカーでいえば、Jリーグチームである名古屋グランパスが、街頭キャンペーンにマスコットのグランパスくんが出るなどし、5月31日の正午から名古屋駅周辺で啓発グッズを配布する。

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世界禁煙デー・禁煙週間のPRのため、名古屋グランパスのマスコット「グランパスくん」が名古屋駅周辺で配布するグッズ(ウェットティッシュ)の例。名古屋グランパスのホームページより。

世界禁煙デーが5月31日になったのは1989年の第2回からだった(第1回は4月7日)。第1回のスローガンは「tobacco or health:choose health(タバコか健康か、健康を選ぼう)」、第2回のスローガンは「the female smoker:at added risk(加算される女性喫煙者のリスク)」で、その後、毎年テーマとスローガンを決めて行われ、「メディアとタバコ(1994年)」や「受動喫煙(2001年)」、「タバコと貧困(2004年)」などがある。

今年2017年のスローガンは「tobacco- a threat to development(タバコは成長を脅かす)」。日本の禁煙週間のテーマは「2020年、受動喫煙のない社会を目指して〜たばこの煙から子ども達をまもろう〜」だ。この「a threat to development」というスローガンには、タバコとタバコ業界が、人びとの健康維持や経済的な発展に脅威をもたらすことを示し、各国政府と国民が健康的な生活と経済発展を進めるために必要な方法を提案する、という意味が込められている。

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WHOは世界禁煙デーに関連し、その年のタバコ規制分野の業績に対して表彰している。そして、2002年の最高栄誉賞は、サッカーW杯日韓大会で禁煙大会を実施したFIFAに対して贈られたのである。

※1:佐野文男、「院内・敷地内全面禁煙その後」、日本病院会雑誌、75(1217)、2002年

※1:W杯 宮武久佳(私の視点 ウイークエンド)東京朝刊 15頁 オピニオン、2002.06.08

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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