Yahoo!ニュース

若い頃から始めた「女性の喫煙」は「乳がん」リスクを高める。岐阜大学などの研究

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(提供:イメージマート)

 喫煙は強力な発がん原因の一つだ。乳がんと喫煙の関係についてはまだはっきりわかっていなかったが、これについて日本の大規模研究が発表された。

乳がんと喫煙に関係はあるか

 乳がんの日本での患者数(診断される数)は、年間約10万件で男性の乳がんもまれにあるが圧倒的に女性に多く、女性の部位別がんで第一位となっている(2019年)。女性の場合、年齢別では30代前後から患者が増え始め、40代後半から高い罹患率が続く(※1)。

 乳がんのリスク因子の一つとして考えられるのが喫煙だ。だが、乳がんと喫煙の関係をしっかり調べた研究はまだ少なく、因果関係ははっきりしていなかった。

 岐阜大学などの研究グループ(※2)は、乳がんと喫煙の関係を明らかにするため、複数の大規模疫学調査を統合し、その結果を国際的な疫学雑誌に発表した(※3)。

 同研究グループは、日本で行われた大規模な集団調査(コホート研究)のうち、9つの前向き研究(生涯非喫煙者と喫煙者、受動喫煙者を分け、時間を追って経時的に乳がん発症の有無を追跡調査する研究、※4)を統合し、合計16万6611人(うち乳がん発症2065人)を対象にして統計的な解析(Cox比例ハザード回帰モデル※5)を行った。

 また、喫煙(現在、過去、1日の喫煙本数、喫煙年数、喫煙開始年齢)、受動喫煙(成人期は家庭や職場など、小児期は家庭のみ)についてはアンケート調査を使った。

高い50歳までのリスク

 その結果、閉経前と閉経後の女性では喫煙と乳がんのリスクに統計的に有意な関係はみられなかったが、50歳までの乳がんリスクに限定すると現在喫煙者でリスクが増加していたことがわかった(ハザード比1.64、95%信頼区間1.04-2.59※6)。

 また、50歳までの喫煙者の喫煙開始年齢で比べてみると、若い年齢でタバコを吸い始めた人で乳がんリスクが高くなり(20歳以下1.77、20歳から30歳1.83、30歳以上1.38、いずれもハザード比)、初産前と初産後の喫煙開始では初産前にタバコを吸い始めた人のほうがリスクが高かった(ハザード比1.75:1.22)。

乳がんと喫煙のリスク。国立がん研究センター、がん対策研究所、予防関連プロジェクト「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」のサイトより
乳がんと喫煙のリスク。国立がん研究センター、がん対策研究所、予防関連プロジェクト「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」のサイトより

 さらに、喫煙年数と喫煙本数が増えるほど、リスクが高くなることがわかった。ただ、生涯非喫煙者を対象にした受動喫煙と乳がんの関係では、成人期と小児期の受動喫煙で統計的に有意な関係はみられなかった。

 その理由として同研究グループは、複数の集団研究ごとに受動喫煙の質問項目が異なっていたこと、また調査期間当時は受動喫煙機会が多い環境であったため、比較が出にくかったのではないかと考えており、乳がんと受動喫煙の関係は継続したさらなる研究が必要としている。

 同研究グループは、欧米での先行研究でも喫煙と喫煙開始年齢、初産前後の喫煙開始などと乳がんリスクに関係があることがわかっていたが、欧米に比べて乳がん罹患率も女性の喫煙率も低い日本でも同様の結果が出たことが重要という。そして、喫煙者は50歳までの間に乳がんを発症するリスクが高く、特に早い年齢や初産前にタバコを吸い始めた人は要注意と警鐘を鳴らす。

乳がん検診の受診率は全国でも50%以下であり、北海道や山口県など35%前後という自治体もある。特に北海道は女性の喫煙率が高い。

 早期に発見、治療すれば治ることの多いのが乳がんだ。喫煙の有無にかかわらず、40代以上になったら定期的な検診が重要だろう。

※1:がん情報サービス、がん統計、全国がん登録罹患データより
※2:岐阜大学大学院医学研究科疫学予防医学分野、放射線影響研究所疫学部、北海道大学医学部公衆衛生学分野、東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学法医学講座疫学分野、国立がん研究センターがん対策研究所コホート研究部、同予防研究部、愛知県がんセンター研究所がん疫学予防研究部、大阪大学大学院医学系研究科環境医学人口科学専攻、愛知医科大学医学部公衆衛生学講座
※3:Keiko Wada, et al., "Active and passive smoking and breast cancer in Japan: a pooled analysis of nine population-based cohort studies" International Journal of Epidemiology, Vol.53, Issue3, June, 2024
※4:多目的コホート研究(JPHC-I・JPHC-II)、JACC研究、宮城県コホート研究、3府県コホート研究(宮城・愛知)、大崎国保コホート研究、高山コホート研究、放影研寿命調査
※5:Cox比例ハザード回帰モデル、影響をおよぼす複数の因子を加味して、あるイベントが発生するまでの時間(生存時間)を解析する統計的な手法
※6:ハザード比、一定の時間あたりのイベントの発生率を対象群と比較対象群で比べたリスクの割合

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

石田雅彦の最近の記事